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第3話 悪の怪人の叔母が〇〇〇〇だった件 Aパート

前回までの、レッセフェールは・・・


1:25年前、異世界から巨大怪獣と戦隊が現れた『はた迷惑なヒーローショー』と呼ばれる事件をきっかけに、ヒーローとヴィランが群雄割拠するようになった世界。


2:私、佐村伊月は、大学の期末試験からの帰宅途中、乗っていたバスがヴィラン組織にジャックされたあげく、怪人だった先輩に拉致されて、怪人セレニスキアへと改造されてしまった!!


3:直後に戦隊ヒーローが襲撃してきて、組織があっけなく壊滅!

 だけど私もヴィラン扱い!?。


4:目覚めた能力を使い、幹部怪人ディスノミアこと、四宮先輩と一緒に脱出!

 これで一件落着・・・じゃなかった!


5:襲撃の責任を取らされて、先輩がヒラ戦闘員に降格。

 生き残った唯一の怪人である私が、新しい総帥をするハメに!?


FINAL:こういうときに頼れるのはただ1人!叔母さんだ!


******

仮想西暦2060年7月某日

東京都 唄月市 某所


 悪の組織の総帥(仮)にされてから数時間後。

 私たちは一般人に紛れ、市街地を移動している。

 道中に配られていた新聞の号外で、元凶である『エリス・ファミリア』が、戦隊ヒーロー『テルモピュ連隊スパルタン』によって壊滅した事、総帥Dr.エリス他、バスジャック犯である怪人ヒュドリアンなど、構成員のほぼ全員が逮捕された事を知った。

 そして、(元)女幹部ディスノミアだけでなく、私も正体不明の怪人として、指名手配されている事も。

 

『エリス・ファミリア壊滅!されど火種残る?』

『戦闘員ディスノミア他数名、未だ逃亡中。未確認の怪人も』

『新ヴィランの能力は洗脳か?スパルタンブルー、追跡を妨害す』


「・・・ごめんね、五十鈴ちゃん、じゃなくてスパルタンブルー」


 無我夢中だったと言えど、応援していたヒロインの子に汚点を作ってしまい、心が痛んだ。

 しかし・・・。


「お言葉ですが総す・・いえ佐村さん。あなたはもうヴィランなのです。そういう時には、こうですっ!」


 四宮先輩は、深く息を吸い込んでから叫んだ。


「ざっまぁーみろー!いつもいつもいつもいつも、邪魔した報いを受けやがれぇ!ぬぁーはっはっはぁ・・げほごほゲボェ・・・」

「・・・・」


 そして盛大に噎むせた。

 因みに、ここは駅前の往来のど真ん中である。


「ママぁ、何あれ?」

「しっ、見ちゃダメ。ストレス社会じゃ、まれによくある光景よ」


 親子連れに目撃されるというベタな展開もクリアしたので、私は痴態をさらす先輩を放置して、目的地へ急いだ。

 ただでさえ、強面のおっさん3人を後ろに連れてて目立ちやすいのに、これじゃ隠密行動の意味ねーだろ!


*****

しばらくして

唄月市 住宅地


 時刻は日没直前。

 東京都西部の中頃、ドーナツ化現象で言うドーナツ部分にあたる地域とあって、周りの景色は閑静な住宅街になっている。

 左右の家々からは、家族団らんの声・・だけでなく、帰りの遅い給料袋もとい旦那さんへの愚痴や、逆に父親が居ないからと、母と子で、すき焼きを堪能する笑い声が漏れ聞こえてくる。


「ママぁ、ところでパパのご飯は?」

「え?・・・あぁ、昨日半額になってたポテトサラダと、まーくんのお弁当の残りのウィンナーがあったわね」

「えー!あれ明日も入れてほしい!」

「じゃあ、ウィンナーは無しね。あ、賞味期限が昨日までで使わなかった豚バラもあるわ。それを焼いて食べてもらいましょ」


 ・・・夏の暑い盛りなのでこんな具合に、冷房代節約のため全開にした窓(網戸は引いてある)から、聞こえてきてしまうのである。

(なお、そのお宅の玄関前では、当の旦那さんが、デパ地下のお高いケーキ店の箱を片手に、悟りを開いた顔で佇んで居たりする) 。


 とまぁ、脱線はここまで。大事にされてない大黒柱さんに心の中でエールを送った私たちは、その2軒隣の家の前で立ち止まる。

 そこが目的地だった。


 一見すると、周りの住宅と区別のつかない、平凡な庭付き2階建ての家。

 しかし、その表札に掲げられている、家主の名前が特別だった。


『佐村 タツキ

   (いおり)


 私の母の妹、つまり叔母夫婦の暮らす家だ。

 駅の公衆電話から、来訪の旨を伝えていた私は、ためらいなくインターホンを押そうとする。

 ところが、なぜかその手を先輩に止められる。


「ちょっと待って!いえお待ちください!まさか、あなたの叔母と言うのは、()()佐村庵ですか?」

「うん、どの佐村庵か知らないけど、私は叔母さん以外でその名前を知らないよ?叔母さんが何か?」

「何か?じゃありませんよ!佐村庵と言えば、ヴィラン界隈ではその名を知られた・・・」

()()()()()()、<女サムライ>ジェイル、でしょ?当然知ってるよ」

「知ってるならなおさらっ!なにオウンゴール決めようとしてんですか!?」


 ご近所迷惑も考えず、先輩は叫ぶ。

 そのせいで、インターホンを鳴らす前に、家主が出てきてしまった。


「ちょっとぉ?痴話喧嘩は他所で・・・って伊月ちゃんかぁ!待ってたわよ、大変だったねぇ」

「イオリ叔母さん!久しぶりぃ♪突然ごめんねぇ」


 私は思わず、玄関口で出迎えてくれた叔母さんに抱きついた。

 はぁ、ようやく生きた心地がしてきたよぉ。

 ・・・と、嬉しさのあまり、一瞬先輩たちの事を忘れてしまっていた。

 私はハグを解くと、叔母さんに皆の事を紹介する。


「あ、そうだ叔母さん、紹介するね。こちらは私の大学の先輩で・・・」


 ところが予想外なことが起こった。

 

「・・・ディスノミアちゃん?あなたここで何してるの?」

「(ビクッ!)あぁ、えーと・・・」

「あれ?叔母さん、先輩を知ってるの?」


 2人の反応を見るに、どうやら双方とも面識があるらしい。

 しかし不思議なことに、叔母さんを前にしてから、先輩は動揺しっぱなしだった。

 一方の叔母さんの方は、先輩の様子と私を見比べて、事情を察したようだ。

 そして直後、その顔は般若も負ける形相に変わって、叔母さんは先輩へと歩みより出した。


「あぁ、なるほどぉ。私の可愛い姪っ子をヴィランにしたのはぁ、あなただったわけねぇ。あなたの母親、先代ディスノミアから聞いてなかったのかしらぁ?私のぉ、家族にぃ、手はっ、出すなって!!」

「ひぃいい!?ご、ごべん゛な゛ざいぃ!」


 先輩は玄関前で尻餅をつき動けなくなる。

 ついでに、叔母さんの視界に入らなかった戦闘員3名は、いつの間にかどこかへ退散してしまっていた。

 ただ1人、私だけが展開についていけてない中、事態は、四宮先輩が目にも止まらぬ速さで繰り出した土下座によって、一旦落ち着いた。


「すいませんすいません!あなたの姪御とは露知らず。ですのでどうか命だけはおたすけをぉ!」

「(時代劇の悪党かっ!?・・・いやヴィランだけどさ)」

「・・・まぁ、いいわ。ご近所さんへの迷惑になるし。先に話を聞かせてちょうだい」


 ため息一つで落ち着いた叔母さんは、私と先輩を家の中へと招いてくれた。


*****

しばらく後

佐村庵宅 リビング


 <女サムライ>ジェイル。

 黒地の軽装鎧の上から、金と朱で地獄の炎をあしらった陣羽織を着て、顔には紅い漆塗りの夜叉のマスク、というコスチュームで戦う、個人ヒロイン。

 サムライを名乗りつつ、得意とするのはブービートラップや弓での狙撃という異色のヒロインだが、その男勝りな立ち振舞いから、女性ファンが多くいたりする。

 何より特徴的なのが、『異世界帰り』という経歴。

 『はた迷惑なヒーローショー』事件で、特殊能力と共に、異世界の存在が実証された今日。

 世界各地で、失踪したと思われていた人々が、実は異世界へ転移しており、冒険や修羅場もしくはハーレムを乗り越えて帰還するという話も、少なからず聞こえるようになった。

 庵叔母さんもその1人で、なんでもギリシャ神話の女神アテナが創った異世界へ転移し、男神アレスの野望に立ち向かったらしい。

 結果、見事アレスを撃退。向こうの世界で共闘した仲間の1人と結婚して帰還し、現在は女神から授かった能力を活かしたヒロインとして活動している。

(なので厳密には『逸般人』ではないのだけれど、お役所の定義上は『逸般人』なのだそう)

 

 そんな訳で、ヒーローとヴィランの戦いの当事者である叔母さんなら、私が佐村伊月のまま、日常生活に戻る方法を知っているかも、と頼ったのだが。

 どうやら、異世界で敵陣営の将の1人として、叔母さんと戦ったのが、初代ディスノミアこと、日系アメリカ人のカレン・四宮。つまりは四宮先輩の母親だったらしい。


「・・・でね、その時カレンの奴、カリュブディス(自分の使い魔)をこっちの世界に送って、姉さんたちを人質にしようとしたのよ」

「けど、それが裏目に出た。ちょうどイオリが『狂化』の呪いを受けてた時だったものだから、かなりブチ切れちゃってね」

「叔母さんがブチ切れて?・・・うわぁ、その場に居なくて良かった」


 私の現状を話した後、叔母さんと、途中で帰宅したタツキ義叔父(おじ)さんは、そろって青筋のたった笑みを先輩に向けて、2人と四宮家の因縁を語ってくれた。


「で、イオリはカレンが反応出来ないスピードで突貫すると、ムーンサルト(月面宙返り)スタンプ(からの踵落とし)でカリュブディスを瞬殺。更にそれを踏み台に、カレンの顔面にドロップキックをお見舞いしたんだよね」

「そうそう。後ろは粘土質の壁だったんだけど、顔が半分もめり込んでねぇ。で、その耳元にこう言ってやったの。『Go ahead(やってみろ), make my day(仕返ししてやる)』」

「イオリの『()()()』のえげつなさは、異世界じゃ有名だったからね。悲鳴をあげて気絶した後のあの顔、今でも覚えてるよ。・・・で」


 タツキ義叔父さんの一声で昔話は終わり、いよいよ本題に移る。


「それ以降、四宮家では『佐村に関わるべからず』って家訓ができたはずよねぇ?何で、伊月ちゃんが怪人になっちゃったのかなぁ?ディスノミア、いいえ、しぃのぉみぃやぁ、す~い~か~ちゃ~ん?」


 正義のヒロインというより、悪鬼羅刹の如き形相で、叔母さんは先輩を睨み付ける。

 先輩は頭を抱え、泣きじゃくりながら弁解した。


「ごめんなさい!総帥が巻き込まれたのは偶然で!新作怪人の実験に選んだバスに、たまたま乗ってしまってぇ!そもそも庵様の家系だったなんて、調査報告書に書かれてなかったんですぅ!だから、()()踵落としするのは勘弁してぇ!」

「・・・また?」


 私は先輩の言葉に首をかしげる。

 すると、叔母さんはため息混じりに説明してくれた。


「この娘、あの時私が仕留めたカリュブディスなのよ」

「ふえ!?」

「はいっ!お母さん・・・カレンは、私をすごく可愛がってくれていたので、あっちの世界ですべてが終わった後、私を娘としてこちらに転生させてくれたんですぅ。名前の『水華』も、カリュブディスの象徴である『水渦』から持ってきたって・・・」


 あぁ、だから怪人のコスチュームが、あの半魚人だったのね。

 なるほど、叔母さんの事をあれだけ怖がってたのは、前世でのトラウマゆえか。

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