第2話 シスコンヒーロー襲来!?vsスパルタン Bパート
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暫くして
東京都某所
そこから後は、無我夢中で逃げ、気がつけば元の伊月の姿に戻っていた。服も(なぜか)きちんと元通り。
そして、地下通路の途中にあった小部屋で、怪人コスから普通の服に着替えた四宮先輩と共に、地上へ出る。
そこは廃工場の一画で、先輩は別ルートで脱出していたファミリアの生き残りたちと合流した。
そこでさようなら、となるつもりだった私の考えは、甘すぎたのだろうか?
事態はそこから、とんでもない方向へと進んでいった。
「・・・生き残りはこれで全員でゲス。これからどうしやす?」
「とりあえず、この中で階級が最も高い人に新しい総帥となってもらい、その人に決めてもらおう」
生存者たちからそんな意見が出て、皆がそれに賛同した。
見れば、先輩以外の3人は皆、同じ黒タイツに覆面の、いわゆる戦闘員ばかり。
先輩は怪人で、しかも幹部だったのだから、最高位は先輩と言うことになるだろう。
そう思って、四宮先輩に声をかけた。
「先輩。私、もう帰って良いですか?皆さんのことは、かたーく口をつぐみますんで・・・」
私が秘密をきちんと守る人間であることは、先輩ならよく知っている。だから、こうして一声かければいいだろうと、私は、家路につこうとした。
すると・・・なぜか先輩に呼び止められた。
「待ってっ!いえ、お待ちぐださい!総帥!!」
それもなぜか敬語で。なにやら聞き捨てならない呼称も一緒に聞こえた。
「・・・パードゥン?」
振り返ると、先輩は心底悔しそうに、しかしどこか諦めた様子で、私を見つめてくる。
「この中で、一番階級が高いのは、・・・あなたです。セレニスキア様」
「なんで?私はルーキーで先輩は幹部・・・」
「降格されてたでしょ!私っ!あなたの目の前でっ!敵の発信器に気づかなかったせいで!」
「あっ、そう言われれば!」
言われて思い出す。スパルタンの乱入する直前、Dr.エリスが叫んでいた。
ヒラ戦闘員に降格だ、と。
「でも、それなら私は任命すら」
「あなたは、Dr.から名前を貰ったでしょう?セレニスキアと。それで、幹部として任用されたことになるの」
「されたことにって、誰が決めr・・・」
「もっちろん、私たち『V.I.P.』が、デース♪」
突然、マイクを片手に持った、バニーガールコスチュームでレスラーマスクを被った女性が現れ、私の傍でそう宣った。
「だれ!?」
さっと飛びずさった私に、バニーレスラーは追いすがりながら名乗った。
「はーい始めましてぇ!私は、ヤタと申しマス。ヴィランの、ヴィランによる、ヴィランの為の中立情報提供組織『ヴィランズ・インフォメーション・ポータルズ』、略して『V.I.P.』所属の量産型ナビゲータードロイドでゴザイマース」
早口でそう捲し立てたヤタさんは、レスラーマスクを外し、その内側にあった、ターミ◯ーターが如き機械部分を見せてくれた。
そして、素早くマスクをかぶり直すと、再び早口で説明した。
「世間一般で言う悪の組織、我々業界の用語で『ヴィラン』は、その組織運営を円滑かつ適正に行うため、我が『V.I.P.』による記録と情報の管理・・・まぁ簡単に言えば盗聴・盗撮・覗き見・透視等々ですが、要は世間一般で言うお役所手続きを踏んでいただく事が、協定で決められております」
「????」
私は混乱する頭を無理矢理落ち着かせ、ゆっくりとヤタとやらの言葉を噛み砕く。
「・・・つまり、その協定ってのに照らし合わせると、私が『エリス・ファミリア』の総帥になるってこと?」
「半分正解デース。しかし、同じ組織を続ける必要はございまセン。下克上や暖簾分け、ヒーローによる壊滅などで組織が分裂するのは良くあることデスし。ただ、エリス・ファミリアのままでは、ディスノミアの降格はDr.エリス様の総帥権限で撤回が不可能でございマース。また、先ほどの説明の通り、あなたはDr.エリス様により、幹部怪人に任命されている。つまりこの場においてはあなた様がBOSSっ!すべての決定権はあなた様にあるのデース」
「・・・ちなみに、このまま解散、てなると?」
「皆さん散り散りになりマース。その場合は良くて社会復帰ですが、大抵は他の組織にリクルートされマスネ。ちなみにリクルート先での待遇はそれはもう過酷なのがデフォルトでしテェ。最悪、数時間後にはこの中の誰かが『ドザえもん』になっているかもデース」
「ドザえもんって、土左衛門!?」
そんな言葉が出てきたら、簡単に断るわけにはいかない。
あーもうっ!こういうときこそヒーローの出番でしょうに!
・・・ん?ヒーロー・・・あっ!
「ヤタさん!やっぱりちょっとタイム!総帥になるのはスタァーーップ!」
「ええッ!?ちょっ、総帥!」
先輩が見捨てられた子犬のような顔でこちらを見るが、私は無視する。
「まだ総帥じゃないから!ねぇ、この手続き少し待ってもらうことってできる?出来なくともクーリングオフ制度を要求します!」
「別に消費者契約するわけではないんですケド・・・、まぁ良いデース。私たちはいつでもあなた達を見ているので、タイミングを見てまたキマース」
そう言って、用意していた何かの書類をヤギのようにムシャムシャ食べたヤタさんは、青白い光に包まれて消えた。
・・・テレポーテーション?
まぁそんな事は置いといて、私は捨てられたペットのようにこちらを見つめてくる先輩達を振り返り、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、私がボスになるより、もっといい方法を思い付いたから」
「・・・もっと、いい方法?」
頭の中でピアノのメロディと『どうする?アイ〇ル』のキャッチコピーが聞こえてきそうな絵面だが、私はそれを振り払って、告げた。
「私の・・・叔母さんに頼る!」