第2話 シスコンヒーロー襲来!?vsスパルタン Aパート
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???
気がつくと、そこは、子供の頃を再現した夢の中。
私の目の前で、子供の頃の私が友達と鬼ごっこをしていた。
『タッチ!次はイツキが鬼な!』
『もぅ!日陰に逃げるの禁止だからね!』
そうそう、足の遅かった私のための、特別ルールが作られたっけ。
追いかける相手に手が届かない子供の私。しかし相手の子がクイックターンで直角に曲がった瞬間、私は勢いよく跳ねた。
『やぁっ!・・・はい、影踏んだ!』
『くそっ、じゃあつぎは俺が鬼か!』
タッチできなくても、影を踏むだけでOK。それはそれで戦略とかがあって、楽しかった。
何より、影を踏んで相手を鬼に変える事が、気持ちよかった。
踏みつけて、征服して、自分の物にできたみたいで・・・。
ふと、そんなことを思い出していると、いつの間にか、子供の私が、私の前にいた。
足元を見れば、彼女は私の影を踏んでいて・・・
『はい、影踏んだっ!次はあなたが・・・』
―カイジン ニ ナル バン ヨ―
次の瞬間、影が足元から、私の身体を侵蝕し始める。
「ひっ!?・・・あっ、あぁ・・・ぁぁ」
踵を飲み込み、脛から太ももまで螺旋状に這い上がってくる。そのまま胴体、両腕、そして全身が呑み込まれていく。しかし、頭の中では快感が弾ける。
そして私の意識は、現実へと引き戻された。
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『エリス・ファミリア』アジト
目が覚めると、私は拘束を解かれ、冷たい床に倒れていた。
周りには四宮先輩、もといディスノミアとDr.エリスが居て、こちらを観察するように見下ろしていた。
「気分はどう?佐村さん・・・いいえ、新しい怪人さん?」
『かい、じん?・・・あれ?』
無意識に発した自分の声が、機械で加工したように聞こえた。
ふと身体を確かめると、両手足は黒い霧のようなものに覆われていて、しかし触っても擦っても、それは剥がれなかった。
『私・・・どう、なって?』
「ほうほう、どれ、手鏡をやるから確認するとよい。なかなか見事な姿じゃぞ」
Dr.が、懐から取り出した鏡を私に向けた。
私の全身は、影(仮称)で覆われ、僅かに胸元が膨らみ、腰が括れていることで、辛うじて自分と判別できる。
顔も辛うじて目鼻の凹凸がある程度で、白目が二つだけの、のっぺらぼう状態。
『なんか、コ◯ンの犯人みたいな格好』
「まさしく『スキア』じゃな。確か名前は伊月と言ったか。ふむ、『セレネ』と『スキア』で、『セレニスキア』と名乗るがよい」
「良かった、成功したのね。おめでとう、セレニスキア」
『ぜんっぜん、良くない!』
私は、立ち上がり、元に戻せとDr.に詰め寄ろうとした。
その時だった。
ゥゥゥウウウウ・・・・・!
けたたましい警報音が、部屋のなかに響いた。
「何事か!?」
博士の声に応えるように、館内放送が流れる。
≪緊急事態!『テルモピュ連隊スパルタン』が襲撃!人質を解放した後、基地中を破壊してまわっ・・・ぎゃぁ!?≫
悲鳴が聞こえた後、放送の声が代わる。
≪(ザーザー)、聞こえるか、Dr.エリス。こちらはスパルタンレッド。直ちに投降せよ、そうすれば命まではとらん。なお、隠れても無駄だ。こちらは前回の戦闘でディスノミアの肩に撃ち込んだ、エコーロケーション機能付発信器で、貴様達の位置を特定している≫
「嘘ォ!?」
先輩は慌てて、ボディアーマーを外した。
「(外せるんだね、それ。・・・てか先輩、色々丸見えになってますよぉ)」
しかし先輩は、己の痴態に気付かず手で探り、そして、右肩の鱗の隙間に、直径5ミリほどの円筒が突き刺さっているのを見つけた。
隣で見ていたDr.エリスは、今度こそ堪忍袋の緒が切れた。
「ディースーノーミーアー!貴様はヒラ戦闘員に降格じゃ!」
「お、お待ちください!これは私のミスでは・・・」
「だまらっしゃい!水辺でなければ能無しのごくつぶしが!はーい降格は決定。総帥権限で撤回不能にしまーす」
「せっ、殺生なぁ!?」
「殺生も関白もあるかい!さっさとセレニスキアをつれて、敵を迎げk・・・(ドーーン)」
ぶちギレたDr.は、私たちに命令をくだそうとした。
しかしその直前。天井が崩れ、Drと、先輩と私の二手に分断される。
そして3人の目の前に、赤と青の人影が降ってきた。
「な、なんじゃあ!?」
「・・・位置は把握してあると、言っただろう?」
腰を抜かしたDr.に、素手ゴロのヒーロー、スパルタンレッドは冷徹に告げた。
一方、私たちに対しては、一緒に降ってきた青い方、スパルタンブルーが、標準装備であるシールドと槍を構えて、投降を呼び掛けてきた。
「幹部ディスノミア・・・と、そちらは新しい怪人!?バスジャック、並びに誘拐の罪で逮捕します。貴方たちの悪事もこれまでよ」
『ま、まって!いすz・・・じゃなくてスパルタンブルー!私はバスジャックの被害者!改造されたてほやほやで、悪事はひとつも働いてない!』
変身が解ければ一番良いのだが、まだその方法を聞いていない。
仕方なく言葉で説明するしかなかったのだが、それは彼女の兄、スパルタンレッドによって水泡に帰した。
「嘘をつくなら、タイミングが悪かったな。本物の運転手を含め、連れ去られた乗客は全員、救助済みだ!」
『「全員!?」』
その言葉に、私と先輩は同時に声をあげた。
「ああ、バス停の防犯カメラで、人数はしっかり確認してある」
全員じゃない!ここに少なくとも1人、先輩も入れたら2人残ってるよ!
・・・いや、先輩は入れなくていいのかな?
「そ、そんなはずない!この子は確かに、私がバスで誘拐した被害者よ!」
『せ、先輩・・・』
切り捨てようとしてごめんなさい。先輩ボコって潔白証明しようと企んでごめんなさい。
半魚人だけど天使な先輩の証言で、スパルタンブルーは構えを解こうとする。
「・・・本当?」
「イエス、イエス、イエス、イエス・・・・」
『ボク ワルイ 怪人ジャ ナイヨ?』
こうなればごり押しとばかりに、私も先輩も投降の意思を示す。
だがまたしても、赤い悪魔が邪魔しやがった。
「騙されるなよ、ブルー!」
「でも兄さ・・レッド、彼女たちは投降を・・」
「なら、そのまま2人まとめて縛り上げておけ!どのみち、黒い方はもう手遅れだ」
『は?手遅れ?』
「ディスノミアを先輩と呼んでいただろう。すでにファミリアによって洗脳されているに違いない」
こちらをちらりと向いた後、Dr.に手錠をかけて縄でぐるぐる巻きにしながら吐き捨てたレッドの言動に、とうとう私もぶちギレた。
『違い有りまくりじゃボケなすぅ!こっちは被害者だっつってんだろうが!算数の足し算引き算もできねぇのか!?あぁ?』
「な、なんだと!?ヴィランの分際で、ヒーローに喧嘩売るのか?」
「兄さん!それにそっちの・・・えっと、白目で黒い人!2人とも落ち着いて!」
スパルタンブルーが盾と槍を放り出し、私たち2人の間に割り込む。
そんな彼女の足元にふと目がいくと、ぶち抜いた天井から差し込んだ明かりに照らされた彼女の『影』が、私の足元の一歩手前まで伸びていた。
その直後、私の頭の中で、何をするべきかが唐突に閃く。
私はレッドを睨み付けたまま、背後にいる先輩に小声で話しかける。
『・・・先輩、出口はどこ?』
「今の貴方の向きから見て、九時の方向。緊急時用に、壁に見せかけてあるやつ」
それを聞いた私の中に、邪悪な知性が芽生える。
そして、こちらに殴りかかろうとするレッドを止めているブルーの影を、素早く、思い切り踏みつけた。
『・・・「影、踏んだ」』
ドックン!
直後、私の一部が彼女に流れ込む感じがして、ブルーの動きが止まる。
「うっ!・・・あぁ」
「・・・ブルー?どうした!?おいっ、五十鈴!?」
『スパルタンブルー!そのまま私たちが逃げるまで、レッドを取り押さえて!』
私が叫ぶと同時に、先輩が左手の壁へ向かってダッシュし、私もそれに続く。
当然、レッドは追いかけようとするが・・・。
「待てっ!貴様ら・・・くっ、離せ五十鈴!」
「・・・だめ、とめないと、いけないから・・・」
「どうしてだ!やつらに何か・・・あぁっ!」
私の仕込みに気づいても、時すでに遅し。
先輩の開けた脱出用の穴に半身を入れながら、私は、捨て台詞を放った。
「じゃあね、レッド!妹は大事にしなよ、このシスコンばか野郎」
「だ、誰がばか野郎か!俺はただのシスコン・・・でもない!」
「にいさん、だめ、うごいちゃ・・・」
『・・・・(ごめんね、五十鈴ちゃん)』
虚ろな様子で兄を羽交い絞めにしているスパルタンブルーを、少し申し訳なく思いながら、私は穴に飛び込んだ。