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第5話(冬休みスペシャル)一掛け、二掛け、三掛けて、仕掛けて消してターミネート Eパート

*****

しばらく後

診療所 待合室


 私はミッドヴィレッジ巡査長に、交差点を渡っているときに見えた、宝石店内の様子を語った。

 見えたのは最低3人。いずれも服装はビジネススーツのようだったけれど、顔がガスマスクのようなもので隠れていた。


「・・・そいつぁ、おそらく店内に入ってから被ったんだろうぜ。でなきゃ入店の時点で騒がれてらぁ」

「あ、騒ぎといえば、爆発の直前まで、大通りに居た人は誰も事件に気づいてなかったんです。強盗が入ったのに、非常ベルは鳴らなかったし」

「あと、携帯端末も使えなくなってました。それも、あの通りに居た人全員・・・」


 私たちの証言を聴いて、ミッドヴィレッジ巡査長は、納得しつつも苦虫を噛んだ表情を見せた。


「今回のヤマぁ、間違げぇなく『ガーゴイル』の仕業だろうな。あのカードも(じき)に見つかるにちげぇねぇ」

「『ガーゴイル』?」

「近頃マンハンタンで暗躍している、強盗集団ですね」


 ラタン医師が、受付近くの棚から、新聞を1部持ってきた。

 彼が何ページかめくると、犯人たちの特集記事があった。


*****


『ガーゴイル』

 数ヵ月ほど前からマンハンタンで暴れている強盗団。犯行現場に決まって、ノートルダム大聖堂のガーゴイル像が描かれたポストカードが残されることから、この名前がついた。

 正確な人数は不明。しかし犯行の特徴として、ターゲットに高度なセキュリティシステムを備えた店舗やオフィスを選んでいる点が挙げられる。

 人感センサーや電子ロック、顔認証はもちろん、中には非殺傷型の対人レーザーを設置していた所もあった。

 しかし連中は、それらを無効化する技術に長けていた。

 まるで防犯システムの存在を嘲笑うかのように、ハッキングや電波妨害、挙げ句には火器による物理的な破壊でもって、セキュリティを突破するという。

 さっきの宝石店を除き、これまでに89件の店舗やオフィスが襲撃され、内63件で金品が強奪された。


*****


「・・・89件中26件は、未遂で終わってるんですよね?」


 ふとその部分に引っ掛かりを覚え、尋ねた。

 すると老警官は、我が意を得たり、という風にピシャリと膝を打った。


「おめぇさん、目の付け所が良い。この事件の肝はそこさ。『ガーゴイル』が()()()()()()()()()()()()場所は、全て同じ警備会社だった」

「『ガーグル』社ですね」


 ラタン医師は、巡査長の言葉を引き継ぐと、『ガーゴイル』の特集ページをめくる。

 そのうらには、大きく2面を使った企業広告が掲載されていた。


*****


「ウィルス対策は、うがい(Gargle)手洗い(Handwash)、そして『GARGLE(ガーグル)』」でおなじみ、サイバーセキュリティ大手『GARGLE』社は、新たに現実でも、オフィス警備サービスの提供を開始。

 最新鋭の電子ロックは、いかなるハッキングをも受け付けず。顔認証システム搭載の防犯カメラは、不審者の早期発見率は業界No.1(当社比)。

 更には24時間、3交代制での有人警備も行い、鉄壁の防御をお約束します。


*****


「うがい、手洗い、『うがい』って・・・」

「元はそこ(広告)にある通り、コンピューターのウィルス対策ソフトを扱う会社だったそうで。だから、『ウィルスの予防』というのに掛けたジョークが、社名の由来らしいです」


 ラタンン医師が、愛想笑いを浮かべて説明した。

 が、それを無視して巡査長は吐き捨てる。


「そこぁどうでもいい。要は警備会社としてはヒヨッコな『GARGLE』が、他のベテラン同業者がやられてる相手に、これまで無敗って事なんだ」


 最後までは口にしなかったが、この場の全員、老警官の言いたいことは伝わった。

 マッチポンプ。自分でマッチを擦って火をつけ、それをポンプで汲んだ水で消す、つまりは自作自演・・・とまではいかずとも、両者に繋がりがあると考えるのが自然だ。

(それに『ガーゴイル(Gargoyle)』という言葉も、雨どいの排水口として設けられた彫刻から『Gargle(うがい)』をしているような音が聞こえるのが語源とされている。)


 更に巡査長は、声を潜めて語る。


「当然、この不自然さにゃ警察(俺達)も気づいて、捜査もやろうとした。だが、『偉い所』からの一声で打ち切られちまった」

「それはまた、典型的な・・・」


『役人の 子はニギニギを よく覚え』とは、江戸時代に庶民の間から生まれた俳句。

 されど、悪党が『ニギニギ(賄賂)』で公権力を味方につけるのは、古今東西、万国共通の流れらしい。

「繋がってんのは、警察本部人事部長のディック・テーター。『GARGLE』を退職警官の再就職先にしようと動いてるみてぇだ。つまり天下りだな」

「『GARGLE』も、元警官という優良な人材が手に入るんです。互いの利害が一致しているのでしょう」

「・・・ここでも、汚職ですか」


 自分の父親の事が頭を過ったのだろう、アトラちゃんは忌々しげに吐き捨てた。

 そんな彼女に、マーガレットちゃんはさらりと言ってのける。


「そんなに燃えてるなら、あなたが殺れば?いつも通りなら、今夜あたりに『来る』わよ」

「マギー、他人の不幸を喜ぶような真似は・・・」

「『来る』?」


 その時だった。

 診療所の受付に置かれていた、昔懐かしい黒電話が、呼び鈴を鳴らし始めた。


ジリリリ・・・


 ラタン医師が駆け寄り、受話器を取り上げる。


「ビアン・ラタン診療所、っと女将さんでしたか」


 電話の相手はシャロンさんらしく、医師はこちらを向いてウィンクしながら、私の無事を伝えてくれた。

 しかし、向こうからの話を聞いているうちに、その顔から感情が消えた。


「・・・判りました。ちょうどレンくん以外の全員が揃っているので、伝えます。では、またあそこで」


 がちゃりと受話器を戻した医師は、さっきまでとは違う、幽鬼のような顔になっていた。

 そしてそれを見た<イレイザー>の3人も、同じ表情になりかける。

 皆を代表して、マーガレットちゃんが訊いた。


「・・・『仕事』?」

「ええ。マギーの言う通り、さっきの事件が引き金になったようです。旦那とアトラも、戻って備えてください。・・・あと旦那、イツキさんをついでにダイナーへ」

「おうよ。・・・ったく、この街はほんとに、ショギョウムジョウだな。ナムアミダブツ」


 片手を顔の前で縦に構え、念仏を唱えると、巡査長は私とアトラちゃんを、外へと促す。

 そして私は、重い空気を背負った2人に付き添われながら、叔母さんの待つダイナーへと戻った。

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