第5話(冬休みスペシャル)一掛け、二掛け、三掛けて、仕掛けて消してターミネート Dパート
******
???
目が覚めると、私は暗闇の中に浮いていた。
「・・・?あれ、なんか既視感が・・・って、マジか!?」
意識がハッキリしてくると、私は万歳の姿勢で、垂直に立てられた台に縛り付けられていた。
そして私の視界の隅に、見覚えのある半魚人が・・・
「ちょっ、四宮先輩!?なんでマンハンタンに!?というか何してくれてんですか!この半魚人!」
「誰が半魚人か!口の聞き方に気を付けな!」
四宮先輩は、いつもと違う高圧的な口調で私に怒鳴り返した。
その後ろから、白衣を着た老婆が現れて・・・
「ホッホッホッ、ずいぶんと威勢の良い後輩じゃな。ディスノミア」
「はっ、取り乱してしまい、申し訳ありません。Dr.エリス」
先輩が恭しく接し、場所を明け渡した相手。それは逮捕されたはずのDr.エリスだった。
「どうなってるの?あなた、スパルタンに逮捕されたんじゃ?」
「・・・はて、逮捕とな?」
「何を言うかっ、小娘!?偉大なるDr.エリスが、あんなシスコン戦隊に捕まるはずなかろう!」
「いやだって・・・先輩のコスチュームに発信器が・・・」
「はん!そんなもの、直ぐに気づいて握りつぶしてやったわ」
あれれ~、おっかしぃぞぉ?
先輩が滅茶苦茶、悪の怪人らしい行動やってるし・・・どうなってんの?
「ふむ、ヒュドリアンのガスが変な副作用でも引き起こしたかの?・・・まぁよい、さっさと改造手術を開始するぞ」
「エリスバンザイ!直ちに取りかかります」
先輩は両手をあげて足は直立という「Y」ポーズをとると、私の目の前に巨大な機械を運んでくる。
しかしそれは、私をセレニスキアに変えた、大きさのわりにスライムみたいなのがぴょこって出てくるだけの機械ではなく、丸太ぐらいの太さがあるアームと、気色の悪い触手が飛び出た人の上半身を模した装置だった。
「な、なんなの、それ?」
「貴様を改造するマシンじゃよ。これで貴様は我が配下『キンニクムキムキマッチョマン』へと生まれ変わるのじゃ」
「い、イヤイヤイヤイヤ!そんな丸太かついでテロリストをokズドンするようなシュワちゃんになんか成りたくないから、て言うか先輩!私の配下なんだから助けなさい!」
「ふん、ぬん、はっ!・・・ん?何かいったか?」
いつのまにやら、先輩は半魚人モチーフの女怪人から、メスゴリラに変貌していた。
「Oh、ケイオス」
・・・・・そこで目が覚めた。
******
マンハンタン某所
『Dr.ビアン・ラタン診療所』
気がついて、最初に働いた五感は、聴覚だった。
―よし、最後のメニューだシコメども!美しい顔とは、筋肉をしっかり使っている顔の事だ。
今は訓練、普段人前では出来ない不細工な表情を作り、怠けている筋肉を働かせろ!―
―アイマム!アイマッソー!―
続いて、酸素を求めて口が動き、やがて重い瞼を持ち上げる神経が、目を覚ました。
「・・・・ここは?」
意識が完全に覚醒すると、ここは1人用の病室らしいこと、私は医療用ベッドの上で、入院着に着替えさせられ、横向きに寝かされていることが判った。
そして、焦点の合い始めた視界の向こう、ベッドの脇では、1人の幼い女の子が、備え付けのテレビに向かって変顔をしていた。
―リズムに会わせて♪(トントン)ウメボシフェイス♪(トントン)
ワンツで戻して(トントン)、再びウメボシ♪ハァイ、ワン、ツー、ワンツーマッソー!
マッソー、マッソー、マッソマッソマッソー!―
「マッソー!マッソー!マッソマッソマッソー!」
どうやらエクササイズ番組のようで、イケメントレーナーの音頭に合わせて、後ろにならんだスポーツブラ姿の女性たちと、テレビの前の幼女が、人前に見せられない形相と真顔を交互に繰り返す。
番組はそれで終わりらしく、最後にトレーナーがプロテインの宣伝を始めると、それを聞かずに幼女はテレビを消し振り返る。
そして、私が意識を取り戻した事に気づいた。
「あら、もう目が覚めたの?処置から10分程しか経っていないのに・・・」
「10分・・・っ、あのっ、私と一緒に居た女の子は!?無事ですか?」
強盗事件と爆発の記憶が戻り、私は跳ね起きる。
すると幼女は、慌ててそれを抑えようとした。
「ちょっと!?傷口が開いちゃうわよ!あなたの背中、ダーツの的みたいになってたのよ。でっかくて鋭いガラス片3枚が肺まで刺さって、『HIGH TON』、ってね」
「上手く言ったつもりでしょうが、不謹慎ですよマギー」
幼女のジョークを諌めながら、白衣を着た青年が部屋に入ってきた。
彼は私の様子を視診すると、興味深そうに語りかけた。
「ふむ。回復がかなり早いですね。・・・私はビアン・ラタン、あなたを治療した町医者です。こちらは助手のマーガレット。あなたは、サムラ・イツキさんで間違いないですか?」
「は、はい。・・・えっと、助けていただき、ありがとうございます」
私はラタン医師とマーガレットちゃんに礼を告げて、頭を下げる。
「それが仕事ですから。それより、傷の具合を診せてください」
青年医師は、ベッドの側に座ると、私に背中を見せるように言った。
少し恥ずかしいが、治療の際にもう見られているわけだから、素直に従った。
「・・・やはり傷は、文字通り跡形もなく消えていますね。普通に動いて会話もできていますし。問題無さそうなので、このまま退院できますよ」
「流石は異世界のヴィラン、それともあのイオリの姪というのが大きいのかしら?」
マーガレットちゃんはどこか皮肉のこもった物言いをする。
「叔母さんを知っているの?」
「ええ。あなたの世界から化け物が来て、一緒に退治した仲よ。まぁ、その前にお互い誤解があって殺り合った挙げ句、私が半殺しにされたんだけど」
あの叔母さんが半殺し・・・この子、見た目通りの幼女ではない、ということね。
そしてその事は、ラタン医師も承知らしい。
「マギーの初黒星でしたね。・・・私と彼女も、<イレイザー>の一員です。ボティシアとアトラから、おおよその事情は聴いています。『レッセフェール』のセレニスキア様」
「アトラちゃんから・・・彼女は無事ですか?」
「ええ。あなたのお陰でね。今はロビーで、事件について<8分署の旦那>の聴取を受けています」
「よかったぁ」
こちらの事情に付き合わせて巻き込まれた少女(まぁあちらが年上なんだけど)の無事が確認できて、私はほっとした。
そして丁度そのタイミングで、本人が開きっぱなしだった入り口から、ひょっこりと顔を出した。
「・・・伊月さん!」
「アトラちゃん!」
私が起き上がっているのを確認すると、彼女は涙を浮かべて駆け寄ってくる。
「ごめんなさい、私を庇ったせいで」
「ううん。こっちこそ、私の人探しを手伝ったせいで・・・。でもほら♪私、悪の組織の総帥だから」
自分では確認できないが、ラタン医師が治っていると言った背中を、アトラちゃんに見せる。
「・・・治っている」
彼女は驚きながら、私の背中をまじまじと見つめる。
すると、追加の来訪者がもう1人現れた。
「ほぅ?なら今から聴取しても問題ねぇよな?先生よぉ」
「・・・<8分署の旦那>。そんなに急かなくても」
ラタン医師が迷惑そうに目をやった先を振り向くと、刑事コ〇ンボのような風貌の、壮年の男性が居た。
使い古した薄茶色のトレンチコートをシャツとスラックスの上から羽織、若干猫背ぎみに入り口の縁にもたれ掛かったその人の胸には、『CITY OF NEW DARK POLICE』のバッジがついていた。
「ポリス、警察官のかた、ですか?」
異世界の警察、ということで、私は少し身構えてしまう。
しかし、老警官の名乗りを聞いて、それはすぐに解けた。
「おう。俺ぁ、モンド・ミッドヴィレッジ。定年間近の巡査長さ。ついでに、<イレイザー>の1人でもある。・・・言っとくが、よそに漏らさんでくれよ?イオリの姪っ子」
食堂のおばちゃんが元締めで、その店員2人に町医者、見た目幼女、そして老警官。
「・・・この世界の裏家業って、幅が広いのねぇ」