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第5話(冬休みスペシャル)一掛け、二掛け、三掛けて、仕掛けて消してターミネート Aパート

レッセフェール、前回までの3つの出来事


1:女子大生の佐村(さむら)伊月(いつき)は、悪の組織のバスジャック事件に巻き込まれ、怪人セレニスキアへと改造されてしまう。


2:戦隊ヒーロー『スパルタン』に追われる身となった伊月は、個人ヒロインとして活躍中の叔母、(いおり)の自宅で保護され、なんやかんやでスーパーヴィラン・ダッキに弟子入りし、悪の組織『レッセフェール』を結成した。


3:大学の先輩で、ヘマして戦闘員化(降格)させられた四宮(しのみや)水華(すいか)(怪人ディスノミア)を幹部に迎えた伊月は、次なる仲間を求め、庵の知り合いが居るという異世界へ向かうことになった。


*****

仮想西暦2060年 7月某日

東京都 某所 

オンラインゲーム運営会社『ミネルヴァ・カンパニー』 日本支社


 朝食の後、私こと佐村伊月と四宮先輩、『レッセフェール』の総帥と最高幹部(暫定)の2人は、戦闘員の候補者に会うため、叔母さんとダッキ師匠の案内で、都内のオフィス街を訪れていた。


「・・・ここが、異世界への入り口?」

「そうよ、ついでに言うと、私の前の職場」


 そう自慢げに叔母さんが見上げるのは、高層ビル群が四方を囲む中、唯一2階建てという質素な建物。

 『ミネルヴァ・カンパニー』というロゴ看板には、私も見覚えがあった。

 アイテムから建物まで、あらゆる物が自作できる自由度の反面、キャラが死亡するとアカウント丸ごと消滅するという鬼畜仕様で有名なMMO『EFO』の運営会社だ。

(詳しくは拙作『ナスティ・ジェイル』を読んでね♪by作者)


 私も一度プレイしたけど、キャラを作り終わってスタート地点に立った数秒後、そこに猪型モンスターの群れが突っ込んできて、瞬殺された(そしてアカウントデータが本当に消え、一から登録し直しとなったので、キレてリトライはしなかった)。

 私にとっては、ちょっとしたトラウマのある場所だったが、四宮先輩はそれ以上だったらしい。


「あわわわ、わわわ・・・、こ、こんな人外魔境に入るんですかぁ!?」


 昨日、叔母さんの家に着いたとき以上の動揺を見せる先輩。しかし叔母さんも師匠も、そんな先輩を放置して、建物の中へと入っていく。


「あっ、待ってよ叔母さん!師匠もっ!」


 そして私もそれに続いて、見た目は廃業し(潰れて)てるんじゃないかと思える建物に向かう。

 その背中に何やら罵声が浴びせられるが、気にしない、気にしない。


「そ、総統ぅ・・・置いてくなコラ!鬼!悪魔!吸血鬼・・・あ、ヴィランだったわ」


*****

『ミネルヴァ・カンパニー』社屋内


 中に入ると、オリーブの鉢植えがあちこちに飾られたロビーの真ん中で、どちらもスーツ姿の女性が2人、私たちを出迎えた。


「久しぶりね、イオリ、ダッキ。出来れば次は、もっとはやくアポを取ってもらいたいんだけれど」

「まぁ、そちらの事情は『V.I.P.』経由で把握しているけど。・・・ほんと、一族そろって()()()と縁が結ばれるなんて、ご先祖様が何かやらかしたんじゃない?」


 片やパーマ髪でサングラス、片や両腕に巻いた毛糸のリストバンドが特徴の彼女たちは、どうやら叔母さんとは旧知の間柄のようで、迷惑そうにしながらも、柔らかい雰囲気で接してくる。


「ごめんごめん、今度お詫びに課金するからさ。一番高い1万円アイテムセット10(くち)で」


 叔母さんは2人に一言詫びを入れると、私に紹介してくれた。


「こっちのリストバンドの方はアラクネちゃん、サングラスの方がメドゥーサ姐さん。2人共、表向きはゲームの製作スタッフだけど、その実、私たちの異世界転移のサポートスタッフなの」

「初めまして、イツキさん。事情は既に、『V.I.P.』経由で承知しております」

「『V.I.P.』って、・・・ここにもヤタさんが?」

「イエース!」


 どこから沸いたのか、レスラーマスクをつけたバニーガールが私の隣に立っていた。


「セキュリティ?何それ美味しいの?扉も壁も空気同然。『ヴィラン・インフォメーション・ポータルズ』、『V.I.P.』のヤタちゃんデース♪」

「・・・でたよ」


 朝食後、いつの間にか、夏目漱石が描かれた紙幣を置いて姿を消していたヤタさんが、再び私たちの前へ現れた。

 

「今朝は朝食、ゴチソウサマでシタ。実はその縁で、ワタシも皆さんと一緒に、異世界へ行くことになりまシター。これは、本部命令デース」

「なんで?」

「我々は、情報が武器で、商品で、生命線デース。なので、世界のあらゆる情報を入手シマース。デモ、異世界へ転移したことはこれまでありませんでした。方法が無かったノデ」


 どうやら、私のスカウト活動を利用して、異世界で諜報活動をしたいらしい。

 ・・・でも大丈夫なの?そんなことして。


「まぁ、自己責任ならいいんじゃない?忠告しておくと、これからいくのは、ギャングやマフィアが大通りを歩いて、路地裏に入れば必ず、強盗か暴行魔に遭遇する、Z指定な所よ」

「え?そんな話聞いてないんだけど?」


 直前になって叔母さんの口から飛び出た情報に、私は思わず後ずさった。

 しかし、ヤタさんは笑顔でサムズアップを返す。


「ノープロ、デース。私のボディは、あらゆる攻撃や特殊能力の影響を想定して、高度な防御システムを備えていまーす。ハッキング不能、溶鉱炉や強酸の中に落ちても、スッポンポンになるだけ、像が踏んでも壊れマセーン!」


 何やらフラグが立ったような気がしたが、叔母さんは許可を出してしまう。


「ならいいわ。・・・それじゃ、女神様を待たせてるから、ちょっと急ぎましょう」


 私たちの意見を確認することなく、勝手に決めちゃった後、叔母さんはエレベーターホールへと向かった。


「こんなアドリブまみれで、大丈夫かな?」


 四宮先輩の抱く不安が、ちょっと、解った気がした。


*****

地下 転移の間

 

エレベーターで降りると、そこはプラネタリウムのような、底がすり鉢状になってるドームだった。ただし中央のステージ部分には、ダンベルのような投影機の代わりに、大きな一枚の鏡が置かれ、その前で、1人の女性が待っていた。


「はぁ、やっと来ましたか。上で何を手こずっていたので?」


 自前で発行エフェクトを纏う、瞳の色が灰と翠のオッドアイなその人(?)は、私たち一行を愚痴で出迎えた。


「ごめんごめん。追加メンバーの加入イベントが起こってね。今度貢ぎ物をするから許してよ、アテナ。1番高い1万円アイテムセット、20口」

「(叔母さん・・・もしかして廃課金勢?)」


 叔母さんは気安い態度で謝る。


「まぁ、良いでしょう。久々に従姉妹(いとこ)の顔が見れたので、チャラにしてあげます」


 女性はそう言って、私、というか私の後ろに隠れている四宮先輩に視線を向ける。・・・従姉妹?


「お、お久しぶりです。女神アテナ様」

「そんなに畏まらないでくださいな、カリュブディス、いえ今はスイカ、でしたか。息災そうで何よりです」

「え!?先輩と・・・女神アテナが従姉妹!?」


 目の前に本物のギリシャ神話の神が居ることより、そっちに気をとられる。

 すると、なるべくアテナ様に見られないようにしながら、先輩は小声で話した。


「前世での話、ですが。アテナ様はオリンポスの主神ゼウスの娘。私はポセイドン、即ちゼウスの兄弟の娘でしたので、あの御方と私は、従姉妹という事に」

「ええ。元は怪物ではなく、女神の1柱でした。しかし、彼女はひどく大食いでしてね。我が父ゼウスへの貢ぎ物だった牛を盗んで、摘まみ食いしてしまったのです。結果、怒った父が罰として、彼女を海の怪物に変えてしまった、というわけで・・・」


 なんと、私の部下は前世が女神、それも海神の娘という超VIPだったらしい。

 と、あぶないあぶない。今日の本命はそっちじゃなくて・・・。

 私は女神アテナに向き直り、これからの流れを確認する。


「あの、女神アテナ・・・様」

「はい、何でしょう?サムラ・イツキ」

「私、これから叔母さんの知り合いに会うために、異世界へ転移するんですよね?」

「ええ。この大鏡が、その門です。鏡面の向こうは、我々の世界と似た経緯で異次元と繋がり、魔術や亜人が流入した街『マンハンタン』と繋がっています」

「行くのは伊月ちゃんと、案内人の私だけ・・・のつもりだったんだけど、追加でヤタちゃんも含めた3人」


 叔母さんはそう言って、鏡の前に立った。


「Oh!これがゲートですか!鏡の中に飛び込むとは、・・・カードデッキは必要ですか?」


 続いてヤタさんが、フライングスタートしそうな勢いで、大鏡を正面から観察する。

 いや、行くのはミラーワー◯ドじゃないからね?ドラグレッ◯ー居ないからね、多分。


「師匠や先輩は?」


 質問に答えたのはアテナだった。


「こっちの世界に戻るための目印役として、残ってもらいます。異世界を行き来するには、互いに縁の有る物や人が必要で、それがなければ、迷子になります」

「・・・と言うことで、他に質問がなければ、出発するよ?」

「気を付けてね、イオリ。案内役と言っても、あの世界には2回しか行ったことないんだから」


 師匠が珍しく、心配そうな顔を見せる。一方の叔母さんの方は、そんな旦那の不安を他所に、私を急かす。


「大丈夫よ。向こうでスカウトするレンくんは、こっちの世界でも一流の暗殺者で、向こうへ行ってから更に腕を上げてる子だから」

「・・・それ、大丈夫なの?」

 

 不安は残りながらも、私は叔母さんの隣に並ぶ。いざとなれば、『影踏み』を使って乗り切ろうと、ポジティブに考えることにする。

 3人の覚悟が決まったところで、女神アテナは鏡へ手をかざした。

 大鏡の鏡面が水のように波紋を絶え間なく発し、やがて強い光が起こる。

 その光に包まれると、周囲の音が段々と遠くなっていった。

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