Happy Whiteday?
☆2018.03.14.☆
唐突に城に呼び出された休日。案内された場所には誰もいなかった。
さてはジャムのやつ、わたしを呼び出した後で仕事でも入ったな?
なんて思っていたら、扉を開けて入ってきたのはシャリさんだった。
「待たせてしまったかな?」
「……べつに」
シャリさんは一人だった。なんとなく、警戒心が先に立つ。わたしは思わず肩に力が入っていた。
「呼びつけてすまない。だが、私が出向くわけにはいかないのでね。……何をそんなに固くなっている? さあ、こちらに座って。まずは飲み物でもいかがかな?」
いつになく雄弁……というか、舌が回るというか。
(あやしい……!)
どうしてわたしを呼んだのか、なんでシャリさん一人だけなのか。
まじまじと眺めてみても、いつもの機能性のよくなさそうな洒落た素材の服に豪華そうな靴。今日はうなじで髪の毛をまとめてるけど、それ以外は普段通りのシャリさんだ。
「何が目的なの?」
「…………どういう意味だろうか」
「とぼけないでよ! こんな所に呼び出して……今日は魔法の講義の日じゃないでしよ? わたしをどうするつもりなの?」
「………………」
シャリさんは沈黙の後に重いため息を吐いた。
そして、立ち上がってゆっくりこっちに近づいてくる。わたしは今度こそ身構えた。
……まじまじと見られると、何も悪いことしてないのになんとなくばつが悪くなっちゃうんですけど!
「今日はホワイトデーというやつだったろう?」
「は?」
「……アスナの世界にそういう風習があったのではないのか?」
「ああ! ホワイトデーね! そういえばそういう話もしたんだったね~」
この際、シャリさんの呆れ顔は気にしない。
だあって、まさかホワイトデーなんて言葉がシャリさんの口から出てくるなんて思わないじゃない? そもそもそんなもの期待してなかったし!
「え、もしかしてそのために? 皆から?」
「いいや、私からだ」
「はぁっ?」
おっと、ついつい……。
「……まったく、本当に失礼なやつだな」
「ゴメンナサイ」
だってシャリさんが胡散臭いんだもん。
「ほら、今日はいがみ合いはなしにしよう。君に良き日を、アスナ」
シャリさんが差し出した右手には何もなかった。握手でもしたいのかと思ったんだけど、そうじゃなかった。次の瞬間、シャリさんの手には開きかけた青い薔薇が一輪、まるで手品みたいに現れていた。
「すごい……魔法?」
「ああ。そうだよ」
「これを、わたしに?」
「そうとも。君のための薔薇だ」
なん……なの?
罠なの? これを取ったら何かされちゃう?
トゲが刺さって眠り姫とか、香りを嗅いだら夢の中とか!?
もしかしてハリセンで引っぱたいた方がいいかも?
「アスナ」
「う……」
これは好意……好意なんだ!
ええい、女は度胸!
わたしはシャリさんの手から薔薇を……薔薇を、受け取った!
……何も、ない?
「ありがとう……」
「いいや。枯れない薔薇だ、どこかに飾るなり栞代わりにするなり、好きにするといい」
「枯れないんだ。ふぅん……」
「なんだ?」
「ああ、うん、枯れないってことは、これ以上咲かないんだなぁって思っただけ」
まるで摘みたてみたいに瑞々しい薔薇を見ながらそう言うと、なぜかシャリさんは黙りこくってしまった。
「シャリさん?」
「いや……その通りだなと思っただけだ」
いやにしんみりしてしまったけれど、いったいどうしたんだろう。
わたし、何かおかしなこと言ったかな?
結局、本当に薔薇をもらっただけになってしまった。
馬車まで見送ってくれたシャリさんは、いつもの皮肉げな笑みをわたしに向けた。
「いつか……いつかは蕾が開くような薔薇も作ってみよう」
「ん? そうね、それもいいかも」
きっと綺麗だろうなと思う。思わぬホワイトデーの贈り物。
青い薔薇の花言葉は、『夢叶う』だったかな?
この薔薇は誰の夢を叶えてくれるんだろうね……。