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兵器と巫女と  作者: 沙希
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九話 貴女の名前

九話です。

 農作業を終えて家に帰ってきた俺と彼女は、一仕事して疲れた体を癒す為にお茶を飲んでいた。


 今回のお茶は何とビックリ、紅茶だった。ここに紅茶までもがあるのか。紅茶と緑茶の元はどちらも同じ茶ノ木であり、同じ茶葉から作ることが出来る。だから紅茶が存在していることはなにもおかしくはない。


 当たり前だが、紅茶の製法は緑茶に製法とは違う。茶葉を発酵させて作るのだ。でも彼女、和紅茶も作っていたのか。


 さて、紅茶に対する驚きも落ち着いてきたので飲んで見ることにしよう。やっぱり紅茶と言うのももいいものだ。海外産の紅茶に比べてほのかに甘味があり、癖が少なく飲みやすい。今の疲れた体には、このほのかな甘味と温かさが体に染み渡り、癒される。この和紅茶の味は日本人好みで飲みやすい風味だ。今回はストレートで飲んだが、ミルクを入れても美味しいだろう。それに普通の紅茶を飲めばケーキが食べたくなるのに、この和紅茶を飲むと和菓子が食べたくなる。もうそろそろ昼御飯の時間なので和菓子は出て来ないが。


 和菓子が無いが、それでも満足出来る和紅茶を飲んでいると、あっと言う間に時間が過ぎていった。


 そして昼食になった。昼食は竹の皮に包んであるおにぎり三つだった。質素にも見えるが、お米が炊きたてで温かい。温かいおにぎりは何となくではあるが、希望の象徴のように感じる。


 お腹も空いていたので、そのままペロッと食べきった。ほのかに塩味が効いていて美味しいおにぎりだった。


 時間は一時位。昼食も終わり、彼女の仕事も一段落し、暫しの休息が訪れる。この時に俺は彼女にこの世界の言葉を覚えていこうと思っていたのだ。


 勉強の方法は簡単だ。彼女に手伝って貰い、絵や物を見せて貰う。そして綴りと発音を教えて貰うというスタイルだ。……文法は後で覚えよう。まずはどんなに片言でもいいから、彼女と喋れるようになりたい。話せないと言うことは本当に辛い。今まで何とか思いを伝え合えてこれたが、恐らく何処かは、間違った翻訳をしているのだろう。ただ、少しでも話すことが出来れば、簡単な間違いは減らせる。他にも、彼女は優しいから問題ないが、彼女以外の人にはジェスチャーばかりするわけにもいかない。


 でも最終的に思うことは、彼女と色々と語り合えるようになりたい。ただ、それだけだ。そのための努力を惜しんではいけない。そう心に決め、精一杯努力した。


 そして四時間位が経過した。……まだまだ先は長そうだ。まだまともに話すどころか、片言ですら話せそうにない。もうしばらくはジェスチャーも必要みたいだ。取り敢えず、後はひたすら努力して反復練習だな。ただひたすら練習、他に方法もない時には、この手に限るな。


 もう五時か、空が茜色に包まれていく。もう夕方になったのか。言葉の練習を終えて、彼女と一緒に夕方の神社掃除に、出掛ける。そして朝と同じように境内と本殿の掃除を行った。朝にしっかりと掃除をしたはずなのに、もう落ち葉や花びらが貯まっている。神社の掃除も大変だ。しかし、神社が綺麗になっていくのを見ていると、やっぱり気分が良くなってくる。


 茜色の神社はいつもの神社とはまた違った、静かな空気を漂わせている。今の神社は朝に来た時よりも暖かい。だがしかし、逆に冷たい空気も感じられる。全く同じ神社なのに、時間によって見せる姿が違う。やはり、神社は不思議な空間だ。


 掃除が終わると、夕拝で再び彼女の祝詞を聞いていた。本殿の中に夕日が射し込み、穏やかな温もりが心地いい。そして彼女の祝詞は相変わらず頭に響いてくる。心地の良い気分の中に入ると、あっと言う間に夕拝も終わっていた。そういえば、結局神社に参拝者様は来なかった様だ。良い神社だとは思うが、いかんせん遠いのが問題なのだろう。山中で一泊しなければ来れない神社には中々訪れづらい物があるだろう。


 本殿の外に出ると、もう夕闇が神社を包み直していた。山側はもう紺青色に染まっている。もう日も沈みそうで薄暗い空。そんな空の下、俺は彼女にずっと聞きたかったこと尋ねようと思った。さっき必死に覚えた言葉を紡ぎ、この上極まりない位の片言ではある。だが、俺はどうにか伝えられるように必死に尋ねた。


「アナ タ ナ マエ ハ 」

「桜庭 梨沙――」


 彼女は天衣無縫の微笑みを見せながら答えた。空にはただ二つの星がお互いを照らし合うかのように清らかに瞬いていた。


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