六話 懇切の巫女
六話です。
巫女装束に包まれながら、星々が煌めく美しき空の下、縁側で彼女とお茶をしている。これ、凄く遠くから見たら姉妹に見えていたりするのかな。等と本当にどうでもいいことを考えていたりしながら、彼女の淹れてくれた温かい緑茶を口へ運ぶ。
うん、この緑茶はまろやかな甘味があり、香りも奥行きがあり素晴らしい。また旨味も強く、しっかりと感じられる一品だ。そして、苦味も僅かにだけ感じられた。あれ、これ玉露じゃないのか。いや、間違いない。絶対に玉露だよ、これ。凄すぎる、この世界にも、こんなに出来の良い玉露が有るのか。今まで生きてきた中でもここまで美味しい玉露はなかなか飲めるような代物じゃないのに。こんないいお茶が飲めるなんて幸福だなぁ。全く気付かないうちに、顔が綻んでいた俺を見て、彼女は嬉しそうに笑った。
俺は、めったに飲めない贅沢品、至高であり究極の美味である玉露を飲みながら大満足していた。その後、ゆっくりと玉露を飲み干して、その味の余韻に浸っていた俺は、大変なことを一つ思い出した。
ああっ、今晩泊まる場所がない。一食お風呂付きという最高の待遇を受けさせて貰っていたという幸福で、完全に忘れてしまっていたのだ。いくら聖人君子な彼女でも、常識的に考えて今日一緒に食事をしただけの男を一泊なんてさせる訳がない。おそらく、彼女は友達が遊びに来たようなものだと感じているのだろう。夕飯を食べて帰る少しゆっくりしてから帰る。そう思っているのだろう。今日初めて会った倒れていた人と友達を同じような待遇をする事は不思議なのだが。
彼女に無理を言って頼むとしても対価になるお金も物も持っていない。でもだからと言って他に当てなんてなにもない。
拒否されることは百も承知だと思いながら、彼女に俺には帰る家がないことを絵に描いて伝えた。すると、流石に彼女もびっくりして、何かを考え始めた。何処か俺が泊まれそうな近くにある旅館でも考えているのかな。でも旅館を教えて貰っても泊まるためのお金なんてこれっぽっちも持っていないんだけれどもなぁ。そういうことを思い始めた時に、彼女が何かを伝えようと紙に何かを描き始めた。
だが、彼女の描いていた物は俺の予想していた物とは大きく違っていて、あまりに意外だった。彼女の描いていたもの、それはこの家の見取り図だった。その見取り図の中にある小さい部屋に丸が付けられてあった。その後、すぐに彼女に手を引っ張られ、連れていかれた。
そして、その部屋についた。小さいながらも綺麗に掃除されていていい部屋だ。この部屋を使っていいのか、と彼女に伝えると微笑みながら頭を縦に振った。
なんていう人だ。彼女は今まで生きてきた中で、最も親切な人だ。間違いなんてない。こんなに親切な人に会えるなんて人生の中でもトップクラスの幸運だと思う。もしも彼女が助けてくれなかったならば、俺は今頃のたれ死んでいただろう。こんな訳の分からない世界に、下準備も全くなく飛ばされて生きていける訳など無いのだから。いや、しっかり下準備をしていても辛い。いつか、彼女に恩返しをしたい、いやするんだ。俺はそう心に決めた。
いろいろ思った後に、俺は彼女と一緒に部屋に布団を引いていた。懐中電灯を見てみたら十時を指していた。昨日の睡眠では大して疲れも取れていないので、今日は少し早めに眠ることにしよう。昨日に今日とたくさん歩いたのでまだ足が張っている。足の裏もまだ痛むので、しっかりと休めることも大切だ。
彼女に今日はもう寝ることを伝えると、彼女は頷いてくれた。分かったと言いたかったのだろう。あっ、そういえばパジャマも持っていない。流石にこれ以上彼女に何かを頼むということはとてもじゃないが申し訳なく、憚られる。親切な彼女の事だ。頼めばおそらくパジャマを用意してくれるだろう。だが、それが巫女装束という可能性が非常に高い。今晩は大人しく巫女装束を着たまま寝るしかないか。今日は涼しいし寝汗も大してかかないだろう。
そして俺はそのまま床についた。今日は気を失って昼から寝て、夜に起きてまたすぐに寝るという、寝てばっかりの一日だったな。明日からどうしようか、彼女の神社のお手伝いでもしようか。でも、神社の手伝いって何をすればいいんだろう。普通に考えたらやっぱり掃除かなぁ。その後も色々と考えたかったが、結局明日何をするのか、特に考えがまとまる前に眠気に負けてしまい、意識が眠りの世界に入ってしまった。




