三十四話 久方の余韻
三十四話です。
失踪しそうな今日この頃。でも、止まれない。
「ごめんなさい、私……取り乱してしまって」
「いえいえ、俺なら全然問題ないですよ」
梨沙さんが泣き止むまで俺はそのままの状態でただ慰みになるのか分からないような慰めをしていただけだった。
だが、時間が慰めてくれたのか、梨沙さんも泣き止み、今に至る。
「ふふ、一葉君は優しいですね。やっぱり私のお姉ちゃんみたいですね。いや、もうお姉ちゃんです」
ふと気が付けば、無限に出てくる郷愁の念も落ち着いていた。確かにこんな事ばかりになるのは嫌だ、そんなことになるのなら、帰りたいと思っていたのは事実だ。
だが、梨沙さんを置いて逃げるなんてそんな事出来るはずがなかった。
そう、これはもう間違いなく、俺にとって梨沙さんは特別な人となっていた。
まるで家族みたいに固い絆と信頼によって結ばれている感じみたいだ。
まるでお姉ちゃんだと言った梨沙さんの感覚も近いかもしれない。
……ん、お姉ちゃんだって。
かなり時間差があるがさっき梨沙さんに言われた言葉を思い出す。
なんだよ。まだ、お姉ちゃんなのかぁ。
でも、前に言われた時冗談なのか本気なのか分からないような言い方だったけど、今回は完全に本気で言ってる。そんな目と声をしていたから分かる。
……もう完全に俺の事男としては見られていないじゃねぇか。他意はなく、額面通りに。本当に。
でもまぁ、戦争が始まるまで毎日毎日巫女として梨沙さんと仕事していたら、お姉ちゃんに思うのはある意味では、至極真っ当なのかもしれないが。
でも、どうせならお兄ちゃんって呼んで欲しいなぁ……
「梨沙ちゃん、どう。落ち着けたかしら」
真弥さんが、そう梨沙さんに問う。
「はい、なんとか落ち着けました。一葉くんのおかげです」
「そう、良かった。出せる感情は出せるときに出した方がいいからね。抱え込んだって良いことなんてないから」
「大丈夫です。もう十分に放出しましたから。ちょっと一葉くんに迷惑かけたかも知れませんが」
「いえ、本当に俺も大丈夫ですから」
俺の方こそ、梨沙さんのお蔭で心の整理が軽くできたから、むしろお礼を言いたいところである。
その上に俺の性格上、普段なら出来そうにもない行動をしてしまった上に、その行為を怒らないでくれて、凄く嬉しかった。
「ほら、真優も二人みたいに感情出した方が良いわよ。それともなに、夢咲君の胸が無いと泣けないの。あっ、もしかして私の胸の方がいいの」
ちょっ、何を言っているんだこの人は。俺が困惑していると、真優さんが其処を触れずにさらっと流して答えた。
「私は別にいいんだから。真弥姉の為に戦ったのよ。これくらい覚悟の上よ」
「……あまり強がらなくていいんだからね」
そこは突っ込んでくれよという気持ちもあったが、そこにはなんだか強がっているという感覚を確かに感じた。弱音を人前で吐きたくないという気持ち自体は分かるが。
俺も、梨沙さんにばれないように感情を隠そうとしたしな。簡単にばれてたけど。
大体、ここにいる人は人の気持ちを読み取るのが上手いし、逆に結構感情もかなり表情に出て来ているので分かりやすい感じがする。
人と人とが分かり合うための力が発達している世界。それも無意識で。こんな事が出来るなんて今までは実に平和な国だったことが簡単に察せられる。




