三十三話 失意の勝利
三十三話です。
失踪しそうな今日この頃。
今までの花火の爆風よりも圧倒的に強い爆風と激しい火花をバリケードに身を隠しながらやり過ごす。
少し時間が経つと爆風も落ち着いて来た。そこには梨沙さんの付けた傷の場所を境界にして、真っ二つに折れて、軽く焦げ付いている盾と盾が壊れた為に爆風をもろに受けてしまった奴の姿があった。
やった、何とか勝てたのか。そう思い、少し心を落ち着けていると、上から大量の水がばらまかれ始めた。
「ひゃ、冷たっ。」
うぅ、服がびちゃびちゃだ。どうやら花火での火事を防ぐため、真優さんが緊急用消化装置を作動させたらしい。
だが、やはり相手はさっきまでの雑魚とは一味も二味も違った。
ここまでやられて、その上に盾まで破壊されたのにまだ戦意を喪失していない。
そして、奴は膝を着きながらも、最後の足掻きとしてだろうか。サブウェポンとして持っていたであろうマシンガン的な武器を乱射し始めた。
それを止める方法は、残念だが今の俺達にはなかった。
だが、あくまでサブウェポン。多少強固に作られてあるバリケードは敵の弾を平然と受け止めてくれている。が、照準もつけずに発砲している為、店の壁や天井が穴だらけにされてしまった。しかし、マシンガンがバリケードに通用しないと分かったであろうにも関わらず、まだまだ銃弾の雨は止まなかった。
魔力というものが、何処から産み出されていて、どういった特殊なエネルギーなのかは分からない。けれど、無から有を作り出す事は出来はしない。
だからなのかは分からないが、少しずつマシンガンの威力が落ちていき、遂に止まった。
これで、俺達の勝ちではある。だが、後味が悪すぎる。なぜならば、マシンガンが止まった理由。それは、さっきまで戦っていた人が息絶えたからだ。
なんだろう、罪悪感だろうか。違う、それとは違う。悲壮感かな、いや、そうでもない。なんというか虚無感と言った方がまだ近い気がする。
静寂の中、ここにいる俺達全員がそんな行き場のない思いを持っていた。
「この人がこの世界からいなくなったのは皆のせいなんかじゃない。もう限界にも関わらず魔力を使いすぎたからよ」
まだ、一番平常心に近い真弥さんが言葉を慎重に選びながら、俺達を慰めてくれた。自分自身も辛いだろうに。
俺達が戦わなければ、誰かが間違いなく死んでいた。だからどうしようもなかった。それに俺達は生きている。普通訓練も受けていない民間人である俺達があんな状況になったら死んでいた可能性の方が圧倒的に高い。つまり、ラッキーなんだよ。
頭の中でそう思う。が、譬え直接手を下していなかったとしても、俺達が戦った事で人が一人死んだというのは逃れられない事実なのである。
これが、戦争……生き残る為に人を殺せと強要される世界。
帰りたい。元の世界に帰りたい。また会いたいよ、お父さん、お母さん。
なにか、物凄く郷愁にかられる。それも心の底から無限に沸き上がってくるかのように。
その気持ちを押さえる事は出来なかった物の隠して、すぐ隣にいる梨沙さんの方を見る。
梨沙さんは 、俺に話しかけようかとしていたが、躊躇していた。
そして、俺と目が合うと笑顔でこちらを見返して来た。その笑顔は一瞬で作り笑いという事が分かり、俺に心配をかけさせないように気を使っているのが意図も容易く分かり、逆に心が締めつけられるかの如く痛々しい笑顔だった。
もう、俺はいてもたってもいられなくなり、気が付いた時、俺は梨沙さんを抱きしめていた。
急に抱き着かれて困惑気味だった梨沙さんだが、今さっきの自分の表情と俺の行動から俺の気持ちを汲み取ってくれたのであろう。
彼女は俺の胸の中で泣き出した。一度涙が流したら、そのまま感情が堰を切ったのであろう。ただ、ずっと、声を潜めながらもずっと泣いていた。
「一葉君、私……人間として最低な事を……」
降り注ぐ水の中、俺はただ黙って話を聞き、背中をさすってあげることしか出来なかった。




