十四話 町と旅館
明けましておめでとうございます。今年もこの小説をよろしくお願いいたします。
新年初投稿の十四話です。
辛い山下りは終わり、たどり着いた町。少し暗くはなっているが、まだ街の様子は良く見える。そこには木や石で出来ている建物が建ち並び、少しばかり鋪装された大きな街道が通り、一定間隔で街路樹が植えられている。そんな街を人が歩く。これはまるで、大正時代の様な街並みだ。大正浪漫を感じる気がするなぁ。
街並みは本当に大正時代の様だが、人は少し違う。殆ど皆、洋服に近い、いや殆ど洋服と変わりない様な服を着ているのだ。
大正時代にタイムスリップしてきた気分になるが、どうしてもこの洋服の人達を見ていると少しばかりそういう気分ではなくなってしまう。和服って良い物なのに……洋服が悪い物だと言う気はまるでないが。
そう言えば街へ行く時は普段巫女装束の梨沙さんも洋服を着ている。この国の服は基本洋服なのかな。
「まずは旅館に行きましょうか」
「分かった」
俺が街の雰囲気を感じていると、梨沙さんにそう言われたので答えた。その後は梨沙さんの後ろに付いていき、旅館へと向かった。
たどり着いた旅館は木製のなんと言うか貫禄の有る旅館だった。梨沙さんがバビっとチェックインを終えて、部屋に着いた。
「長い山道の旅お疲れ様でした。今日はもう遅いですし、ゆっくり休みましょう」
「お疲れ、様」
「少ししたらご飯を食べに行きましょう。ここの御料理美味しいんですよ。楽しみにしてて下さいね。」
「ありがとう」
あっという間に荷物整理は終わり、料亭へ向かい、メニューを頼む。俺も梨沙さんも本日のおすすめディナーを頼んだ。
数分ほどすると、まず前菜である野菜が出てきた。これは人参、じゃがいも、それに玉ねぎのソテーだな。まずはひと口。うん、ハーブの効いた塩味で上手く纏められていて旨い。それに野菜はホクホクで温かい。なにか心がほんのり暖まるような味だ。
野菜を食べ終えて少しすると綺麗な透明感のある黄金色をしたスープが来た。それはコトコトと野菜をしっかり煮込んで作られているのが感じられる。スープに濃縮された野菜の旨み。牛骨なのかな、ガラからも出汁を取ったのであろう肉のコクも出ている。これは良いな。
スープを味わい終えると遂にメインディッシュだ。これはなんだ……兎のステーキか何かかな。兎の肉なんて見たこと無いけど。そんな感じに思える様な見たことも無い肉のステーキだ。恐る恐る食べて見ると、意外といける。凄い歯ごたえだが噛めば噛むほど旨味が出る。うん、これは癖になりそうな味だ。このステーキとジャーキーを合体させた様な感じ、いいな。
最後はデザートだ。デザートは単純な柑橘類のシャーベットだった。でもこのただのシャーベットという物が良い。さっきのステーキで口の中にある肉々しいスッキリとした味わいのシャーベットで爽やかにする。色々と思考を凝らしたスイーツで無くとも大満足出来るデザートだった。食後のデザートは別腹だよ。
「美味しかったですか」
「最高」
梨沙さんにそう問われたので気持ちよく返事をした。
何を使っているか迄は、流石に分からなかったが食事については元の世界並には発展しているのか。
最初は魔法について調べることだけが目的だったが、文化や技術の進み具合も確認出来るなんて、好都合だ。この街への旅行で色々な事を調べて回ることにしよう。
でもまぁ、歩き疲れた上に、足も痛いし今日はお風呂に入ってもう寝よう。
お風呂は、室内露天風呂。温泉もあるのか。温泉は良いものだからな。これは嬉しい。折角だから、ゆっくりと浸かって疲れた体を休めよう。
温泉は最高に気持ち良かった。しっかりと湯船に浸かって温もり、もうすっかり体の芯までほかほかだ。疲れも取れたような気がする。それに露天風呂から見える景色が俺達が下りてきた山が見えた。こんな大きい山を登り下りしてたのかと思うと自分に自信が持てた。
……だが一つ問題が発生したのだ。着る服がない。疲れきって忘れていたが、服屋へ行っておらず、まだ服を買っていない。これはまごうことなき無能である。
恐らくだが、梨沙さんは巫女装束を持っているだろう。巫女装束を着れば良いじゃないかって。でもここは街なのだ。こんなところで巫女装束を着てるとただの変態だ。そうとしか見られない。梨沙さんが特殊過ぎるのだ。だからといって今日着てきたの服もかなり汚れているので着る気がしない。まぁ、梨沙さんがそれを持ってきているとも限らないのだが。
……結局それが当然であるかの様に梨沙さんが持って来てくれていた巫女装束に着替えた。こんにちは、巫女装束。別れをしてからこんなにすぐに会うことになるとは思わなかった。
って、もういいよこのパターン。一体何回俺は巫女装束を着れば良いんだ。それでも、これから何かある度に巫女装束を着なければならなくなりそうな未来が見える。この調子が続くといざという時にまで巫女装束を着なければいけなさそうで辛い。いつになったらこの巫女装束の呪いは解けるんだ。
けれども、この客室の中なら梨沙さん以外の誰にも見られないし、まぁいいか。
……これっぽちも良くないよ。慣れと言う物は恐ろしい。




