一風変わった桜餅・4
某●っ子とかな料理漫画のテンションになってる感じです。
それから数日後、私達の前に薊様が現れ……出来上がった一風変わった桜餅を食べに来た。
そして今、薊様は何時ものように用意された薊様席という別名を持つ椅子に座り机に肘を置きながら、私を見ていた。
そんな私を見守るように片栗ちゃんが祈るように両手を合わせる中で、私は机の上にお題の桜餅を置いた。
「さて、鈴蘭よ。お主はわらわにどのような桜餅を食べさせてくれるのじゃ?」
「はい、薊様……。これが……、私が作った一風変わった桜餅です!!」
そう言いながら、私は薊様席の上に置かれた皿の蓋を開けた。
するとピカーーッ!と光が飛び出る……わけは無いけれど、きっと周りにはそんな風に見えて居るように感じられた。
その証拠に周囲から見物に来ている獣人たちから「おおっ!」という声が聞こえる。
「おぉっ!? お……お? ……鈴蘭よ。これはなんじゃ?」
「一風変わった桜餅、ですが?」
「……わらわには、シュークリームにしか見えぬのじゃが? それも、緑色の」
「でしょうね。事実シュークリームです。……けど、食べてみたら私の答えが分かります」
目が点になりながら、薊様は私が用意した桜餅……というかどう見てもシュークリームを見ているけれど、私は食べるように勧める。
そんな私を薊様は切れ長の瞳でいぶかしむように見ていたのだが、はあと溜息を吐きつつ……シュークリームを掴んだ。
「ならば、食べてみるべきかのう。……じゃが、美味しくなければわらわは許さぬぞ?」
「判っています。……どうぞ、ご賞味ください」
「ふむ。では、いただこうか……はむっ、はむっ……むっ!?」
パクッと薊様はシュークリームに齧り付き、モグモグと噛み締め……ゴクンと呑み込んだ。
瞬間――、ピンと狐尻尾が立った。
「こ、これは……!? 見た目はシュークリームのはず。それなのに、何故じゃ! 何故、こんなにもカスタードクリームがモッチリとしておるのじゃ!? これではまるで本当に桜餅を食べている様な気がするのじゃ!? 鈴蘭よ、どういうことじゃっ!?」
「その理由は簡単ですよ、薊様。何故なら、このシュークリームに使用している粉はシュー生地とカスタードクリームの全てがもち粉を使用しているからですっ!!」
「な――、なんじゃとーーっ!!」
私の言葉にノリが良い薊様はガガーーンッ!といった感じに驚いた様子で立ち上がり、ポーズを取った。
なので、私も料理漫画なノリで行こうと思う。
というかもう何時もこのノリだから停まれない! 止められないっ!!
「もち粉を使ったのでカスタードクリーム自体は温かい内はとろとろですが、冷めるとモッチリとした食感を生み出しています。そして春らしさと香り付けとしてさくらんぼのお酒であるキルシュを使っています」
「なるほどのう。さくらんぼの酒か……うむ、ほのかに香るが……良い香りじゃ」
「ありがとうございます。そして、生クリームは粒あんと混ぜ合わせた所謂あずきクリームです」
「うむ、生クリームのまったりとした味と、粒あんの甘みがマッチしておるのう」
「これがこのシュークリームであり、桜餅でもあるお菓子の中身です」
私がそう言い終えると、薊様は納得しながらもう一口それを口にする。
もむもむと食べ終え……ジロリと私を見た。
「うむ、これはある意味シュークリームであり桜餅でもある……が、お主の工夫はそれだけではないのじゃろう? 初めはこのシュー生地……抹茶を使用しているだけじゃと思っておったが、抹茶の苦味は無く……むしろ、塩っ気がある。お主、何を混ぜたのじゃ?」
「それは……これです!」
そう言いながら、私はそれを取り出した。
そう……桜の葉の塩漬けを粉状にされた物である桜の葉パウダーを。
「これは、桜の葉パウダー?」
「はい、正直どうやって桜餅感を出そうかって悩みましたよ。米粉のクレープだったり、米粉ケーキに桜の花の塩漬けを混ぜたり、逆の発想を狙って餅を餡子で包んだときはちょっと頭が可笑しくなってると思われましたし……」
「あー……、それはすまぬな……」
何処か遠い目をする私に薊様は申し訳なさそうに謝ってくる。
まあ、お陰で試行錯誤が出来たんだけどね。
そう思っていると、薊様がジッと桜餅風シュークリームをゆっくりと味わうように食べ始めた。
「……シュー皮に練り込まれた桜の葉の塩漬けパウダーの塩っ辛さ、そしてそれを補うモチモチとしたカスタードクリームとさくらんぼの良い香り、さらにほのかな餡子の甘みが混ざった生クリーム……これはまるで、本当に桜餅を食べているかのようじゃの……」
「ありがとうございます、薊様」
薊様の評価に、私は頭を下げて返事を返す。
そんな私を見ながら、薊様はくすりと笑みを浮かべ……、
「じゃが、このような意地悪な課題をこのように返してくるとは……やはりお主は面白いのう、鈴蘭よ」
「そう、ですか? ……それで、お題のほうは?」
「ふふっ、決まっておろう……。『一風変わった桜餅』、そのお題を達成とする!!」
「やりましたね、鈴蘭さ――みゃああああああ~~~~っ!?」
直後、薊様の力なのかパン、パパンッ! と私の周囲でクラッカーが鳴り響いた。
その音で、こちらへと近づこうとしていた片栗ちゃんがビクッとし、耳と尻尾を逆立ててその場で固まってしまった。
「か、片栗ちゃ~~んっ!? 大丈夫!? 大丈夫なのっ!?」
「しゅしゅ、しゅずらんちゃん~~……」
「ああ、怖かったねぇ。怖かったんだねぇ、何度も同じことやっちゃってるけど、本当怖かったんだねぇ……」
「可可ッ! 片栗よ、お主もいい加減慣れるが良い!」
「む、無理ですよぉ~~! それに、外の人たちだってビクビクってしていますよぉ~~!」
「「え? あ……」」
薊様と揃って振り返ると、片栗ちゃんの言葉の通り……薊様の評価を見ていた町の人達がビクビクとしているのが見えた。
中には慌て過ぎて着物が肌蹴かけている子供も居た。
「あ、薊様……」
「うぅむ……、すまぬのぅ皆の衆! これは侘びが必要じゃな! 鈴蘭、片栗よ! 今から花見の準備をせい!!」
「「え?!」」
「このシュークリームに、道明寺、長命寺、その他お菓子をたっぷり作るのじゃ! それを持って皆で花見じゃ花見~~!!」
「は、花見って……、準備には時間が掛かりますってばっ!!」
「大丈夫じゃ、時間はまだまだある! それに今日が無理なら明日があるのじゃ!」
可可と笑う薊様の言葉に反応し、ビクビクしていた町の人達から「おお~~っ!!」という歓声が響いた。
さすが薊様、人望がありすぎる。というか、かなり長いこと作らないといけないってことか~……。
「はぁ……、仕方ない。片栗ちゃん、大丈夫かな?」
「お任せください、鈴蘭ちゃん! わたしは鈴蘭ちゃんのお店の従業員なんですからぁ~! だから、お手伝いしますよぉ~~!!」
「うん、じゃあ……やろうか」
どんと胸を張る片栗ちゃんを見ながら、私は調理場へと歩き出す。
そんな私達へと薊様はのん気に手を振る。
「美味しいお菓子を期待しておるぞ、二人ともっ!」
期待するような声を聞きながら、私達は互いを見ながら笑うと……振り返り、返事を返した。
「「お任せをっ!!」」
とりあえず、これにて完結です。
色々と手探りな感じに書いてみましたけれど、和モノ春花企画なのに和モノが少ない感じになってしまいました。
今度書く機会があったら、和ものを上手く使えるようになってみたいですね。
最後に、読んでいただいてありがとうございました。