一風変わった桜餅・3
「はい、召し上がれ」
「いただきます~はむ……はむはむ……、これは……上品ですねぇ~♪」
食紅を混ぜて溶いた小麦粉を薄く焼き上げ、漉し餡を包んで桜の葉を巻いた桜餅……通称長命寺を片栗ちゃんは美味しそうにモキュモキュと食べる。
本当、食べる姿は愛らしくて良いなぁ。そう思いつつ、私は美味しそうに食べる片栗ちゃんの様子を見ながら作った粉が無くなるまで次々と桜餅の皮を焼いていく。
その様子を見ながら、片栗ちゃんは桜餅を呑み終えて口を開いた。
「上品だったんですけど、ど~みょ~じのほうがわたしは好きですねぇ~♪」
「あはは、そっかそっか~。とりあえず、これと道明寺が私の世界で基本的に有名な桜餅なんだよね~」
「このように美味しい桜餅を一風変わったものに仕立てるように、ですかぁ~。薊様も難題を言いますねぇ~」
そう言いながら、片栗ちゃんは2個目の長命寺をはむはむと食べ始める。
やっぱりその表情は凄く可愛らしい。
……とは言っても、片栗ちゃんが言ったのは事実だと私は思う。
正直、道明寺も長命寺も桜餅として完璧だと思うし……手の加える余地なんて無いと思う。
「う~ん、どうするべきかなぁ……」
唸り声のように口からうんうん悩む声を上げつつ、焼き上げた皮で漉し餡を包み、桜の葉を巻いていくを繰り返していく。
元々やり慣れている行為なので簡単に長命寺は出来上がっていく。
そしてそれを待っていました。とでも言うように店内へと入ってきた大勢の着物姿の獣人さんたちへと片栗ちゃんの手で受け渡されていった。
受け取った彼らは長命寺を頬張り、その甘さが美味しかったようで笑みを浮かべているのが見えた。
それは子供だったり、大人だったり、老人だったりと様々だけど……自分が作ったお菓子でそんな表情を浮かべてくれるというのは本当に嬉しいものだと思う。
「なんか、良いよね。この光景って……」
「そう、ですよねぇ~……。この光景は神社じゃ得られなかった物です」
「私も元の世界だとどうでもって思ってたけど、もっともっと笑顔になって欲しいな~」
「鈴蘭ちゃんなら、みんなを笑顔に出来るよぉ~♪」
私の言葉を聞きながら、片栗ちゃんは優しく笑いながら言ってくれる。
……うん、そうだよね。だってこうして片栗ちゃんも笑顔になってるんだから。
「そういえば、このちょ~め~じって、くれぇ~ぷに似てますねぇ~」
「うん? ああ、一応粉物だし、包むからそう感じるのかも知れないけど……どうだろう?」
「一度くれぇ~ぷで作ってくれませんかぁ~?」
「クレープで? 良いけど……あ、そういえば米粉のクレープって言うのもモチモチで流行ってたんだったなぁ一時期」
片栗ちゃんの言葉でそういうお菓子があったのを思い出していると、期待していますっ! というかのごとく目をキラキラとさせながら片栗ちゃんは私を見ていた。
しかも、尻尾は期待していますって言うのを表現するようにブンブンと振られてる。
そんな片栗ちゃんを見ながら、私はくすっと笑いつつクレープ生地を米粉で作り始めることにした。
……ちなみに今更だけど、何故元の世界の食材が大量に出ているのかというと答えは簡単だった。
それはこの薊様が用意した箱に手を置いて、欲しい物を念じながら開くとそれらが揃っているのだ。
きっと薊様が『薊様の気まぐれ』を応用でもしたりして創った道具なんだと思うけど、実際のところは良くわからない。
というかきっと、スーパー●●とか●●商店とかコンビニとかで商品が無くなっているってことが起きたりしているんだろうなぁ……。元の世界の人ごめんなさい!
そんな風に箱から食材を取り出すときに際に行う何時もの行為を経て、今現在私は熱したフライパンで米粉で作ったクレープ生地を焼いていた。
「わぁ、白いですねぇ~」
「うん、米粉を使っているから白いんだよね。それに卵も使っていないからさ~――よっと!」
薄く伸ばされた生地はすぐに固まっていき、手早くそれを裏返してもう片面も焼き上げていく。
1枚終えるとまた1枚と続けて行き、用意した皿の上には段々とクレープ生地の層が出来上がった。
そして、作った生地がすべて無くなってから、フライパンの火を止め……巻くことを始める。
「とりあえず、初めは……変哲の無い漉し餡だけを巻いてみようか」
「じゅるり……。はいっ!」
多く積み上がったクレープ皮を見ながら私が口にすると、片栗ちゃんはちょっとはしたないけれど食欲旺盛といわんばかりに舌なめずりを行う。
そんな彼女に苦笑しつつ、私は皮の上に手早くササッと巻いていく。
そしてそれをすかさず片栗ちゃんは頬張った。……って、食べたかったのね。
「モチモチしますぅ~~♪」という嬉しそうな声を聞きつつ、今度は漉し餡を皮の上に薄く伸ばしてから半分に折り畳んでグルグルと巻き上げていった。
それを軽く指で千切って口に入れると、モチモチとしたクレープの食感と皮によって薄まった漉し餡の甘みが口の中へと広がった。
「……うん、もっちもちで上品さよりも和を感じさせるカジュアルな感じかな」
「ん~~♪ 新しい食感ですぅ~~♪ 前のくれぇ~ぷはサクサクってしてたけど、こっちはもきゅきゅって感じで美味しいですぅ~~♪」
嬉しそうに2個目のクレープを食べ始める片栗ちゃんを見つつ、私は苦笑するけど……美味しいなら良いかと考える。
けど、ちゃんと後で運動させたり、歯磨きもさせないといけないかな~?
そう思いながら、今度は先程と同じように漉し餡を薄く塗った上に生クリームを掛けて行ってから巻いた。
「……うん、今度は漉し餡の甘さとクリームのまったり感がいい感じ。……けど、漉し餡が負けてるかな?」
「はむはむ、これも美味しいですぅ~~!!」
「片栗ちゃん……」
可愛いけど、さっきから同じことしか言わなくなってる片栗ちゃんに苦笑しつつ、私はどうするべきかを考える。
というか、本当どうしよう……。
……あ、あずきクリーム。
「とりあえず、今度はあずきクリームを作ってみようかな。たしか……」
生クリームで作ったホイップクリームに粒あんを混ぜてみて、っと。
見た目がちょっと薄紫っぽくなってるけど、まあいっか……。
それを今度は薄く塗ってみて……、完成!
「で、味のほうは……良い感じかな。けど、一風変わった桜餅かって聞かれたら違うと思うしな~……うぅん」
「大丈夫ですか、鈴蘭ちゃん? 少し落ち着くのはどうですぅ~?」
「あ……、そんな顔をしてた? ありがとう片栗ちゃん、心配させちゃったね」
「いえいぇ~~♪ ……と、ところで、他の味も食べたいんですけどぉ……、良いですかぁ?」
モジモジしながら片栗ちゃんが恥かしそうに問いかける。……その様子に私は苦笑しつつ、入り口のほうに視線を向けるとやっぱり今日も店先に他の人たちが居るのが見えた。
「まったく~、分かったわ! みんな~、色んな種類のクレープ作るから入ってきて~!」
そう私が口にすると、外から「やったーー!」という歓声が聞こえた。
そんな何時もの毎日の光景に苦笑しつつ、私はクレープを作っていくことにした。
けれど、そのお陰か……私は創るべき一風変わった桜餅の手がかりを手に入れたのだった。
3話構成で創ろうとしたはずが後1話続くことに。
ナンバリングに変えようかな。