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一風変わった桜餅・2

道明寺成分が不足中です。

「そ、それで……鈴蘭ちゃん。桜餅っていうのはどういう物なのですか?」


 しばらくゴロゴロとニャンニャンプレイをしていた私と片栗ちゃんだったけれど、正気に戻った片栗ちゃんは顔を真っ赤にしながら私から離れたことでプレイは終了した。

 あれ? こういうのをプレイって言うんだっけ?

 ……ま、いっか。それよりも……。


「あれ? この世界には桜餅って無いの?」

「ありませんよぉ~。というよりも、美味しいお菓子自体鈴蘭ちゃんが齎してくれたんじゃないですかぁ~」

「ああ、そうだったそうだった。それじゃあ、道明寺から作ってみるから食べてみてよ」

「は、はいっ!」


 笑いつつ私は首を縦に振りつつ、この世界に来てからのことを軽く思い出すけれど……お菓子作りをし続けた覚えしかないなぁ。

 というか、ただの女子高生がこんなことになるなんてね~。

 とか思いつつ、桜餅というお菓子に期待を抱いているのかフリフリと揺れる片栗ちゃんの尻尾を私は見ながら、道明寺を作るための材料を取り出し始めた。


 『薊様の気まぐれ』でこの世界に連れて来られた私は、最初落ち込んでしまっていた。

 何で私が、とか。家に帰してとか、ずっと泣いてて神社内に与えられた部屋の中に篭っていた。

 けれど泣いていてもお腹は空くもので、神社の巫女をしていた片栗ちゃんが食事を良く持って来てくれていた。

 ……ああ、そういえば、その頃の片栗ちゃんは何というか凛々しい感じだったんだよね~。

 それがこうなったのは意外だったけれど……。


 そんな日々のことを思い出していると、食紅を混ぜたお湯と道明寺粉が入った鍋が沸騰したらしく、鍋の縁全体から泡が吹き零れてジュワワと音を立てた。


「うわっとと!? 考えごとしてたら駄目だった駄目だった~!」

「鈴蘭ちゃん、何してるのぉ。もぉ~!」


 慌てながら鍋の火を消す私とそれを見ていた片栗ちゃんが、叱るような声を上げる。

 だから私は苦笑しつつ、失敗失敗な感じに頭をポンポンと叩きつつ……、


「いや~、ゴメンゴメン。あの頃の片栗ちゃんを思い出しててさぁ~」

「っ!? あ、あれはそのぉ~~……」

「いいのいいの。言わなくってもわかるよ? 神社ってかなり厳格だったから気が張ってたんだよね?」

「にゃうぅ~~……」


 私がその頃の片栗ちゃんを思い出しながら口にすると、片栗ちゃんは顔を真っ赤にした。

 あの頃の巫女服姿の凛々しい片栗ちゃんも格好良かったけれど、今の従業員姿の片栗ちゃんも凄く可愛いな~♪

 そんな可愛らしい片栗ちゃんを見ている私だったけれど、蒸らしている間にも時間があるので餡子を用意することにした。


「片栗ちゃん、餡子玉をつくろっか」

「は、はいっ! 確か、一口ほどの大きさに丸めるのでしたよね?」

「そうだよ~。そして、餡子は保存していた物がここにあります!」

「おぉ~!」


 この世界の冷蔵庫に近い物で保存されていた粒あんが入った容器を取り出すと、片栗ちゃんの目がキラキラと光るのが見えた。

 本当、甘いものが好きだな~♪

 そう思いながら、木製スプーンで粒あんを掬うと片栗ちゃんの前へと差し出した。


「はい、片栗ちゃん。あ~ん♪」

「! あ、あ~~ん! …………ん~~~~っ!!」


 私の言葉に片栗ちゃんは尻尾をピンとさせて、大きく口を開けたのでその口へとスプーンを咥えさせる。

 すると、パクンッとスプーンを咥えると……片栗ちゃんは、美味しそうにその場で小躍りを開始した。

 本当、この世界って甘味に飢えてるな~。ていうか、凄く幸せそうで良かった良かった。

 うんうんと頷きながら、小躍りしつつ尻尾をゆらゆらさせる至福な表情の片栗ちゃんを見ていたけれど……現実に帰してあげよう。


「片栗ちゃん、そろそろ正気に戻って~!」

「はぅ!? ご、ごめんなさい、鈴蘭ちゃん~! あまりの美味しさについつぃ~~!!」

「美味しかったなら良かったわ。それで、どんな感じだった?」

「はいっ、こう……口に入れたら濃厚な砂糖の甘みとザラザラっとした小豆の舌触りが口いっぱいに広がって凄くおいしかったですぅ~!」


 そう言いながら片栗ちゃんは先程の味を思い出そうとしているのか、ポワワワ~~ンと目を輝かせた。

 あ~、これはちょっとやそっとじゃ戻らないぞぉ~? 仕方ない。


「はい、片栗ちゃん。正気に戻る!」


 ――パンッ!


「にゃにゃう~~~~っ!?」


 ポワワンな片栗ちゃんの目の前で手を叩くと、尻尾をピンと立てて片栗ちゃんは驚いた声を上げた。

 だけど仕方ないよ。片栗ちゃんが正気に戻らなかったんだから……。

 尻尾を逆立てながらキョロキョロ周囲を見回す片栗ちゃんへと私は声をかける。


「さ~、今度こそ始めるわよ~!」

「わ、わかりましたぁ~~!!」


 私の言葉に慌てながら、片栗ちゃんは餡子玉を作り始める。

 とりあえず、作る数は……今のところは20個ぐらいかな~? 後で増えると思うけど。

 そう思いながら、私たちはササッと餡子を丸めて餡子玉を作った。

 ……まあ、作り終えてから手を洗う間に片栗ちゃんが本当の猫みたいに自分の手をペロペロと舐めているのは面白かった。

 だけど、後でちゃんと手を現せたけどね。だって、衛生面はキッチリとしないと!


「っと、葉っぱの塩抜きもしておかないと~!」

「葉っぱですか?」

「そ。これが無いと桜餅は桜餅じゃないって言えるしね~!」


 怒られてしょんぼりしていた片栗ちゃんだったけれど、聞きなれない言葉に首を傾げる。

 だから私は不敵な笑みを浮かべながら、桜の葉の塩漬けを取り出した。

 当然、桜餅の姿が分かっていない片栗ちゃんは見せた葉っぱにより首を傾げることとなったが、お楽しみは最後まで取っておかないとね~!

 教えてくださいオーラをかわしながら、ボウルへと葉っぱを入れるとその中に水を入れて塩を抜きを行う。


 それから少し時間が経って、鍋の中で蒸らした道明寺粉はすっかりふやけて良い感じになっていたので、軽く混ぜ合わせてから均等になるようにヘラを走らせ……作業を始めることにした。


「桜色のお餅ですか?」

「うん、食紅を混ぜているからこんな色なんだよ」

「なるほどぉ~。あ、もしかしてこれが桜餅の由来ですかぁ~?」

「大体はそうなんだけど、ちょっと待ってね」


 納得した様子の片栗ちゃんを制止させてから、私は鍋の中の道明寺を一定量取ると手の上へと置いた。

 当然、手は軽く濡らしているのでベッタリとくっつきはしない。


「これを広げて、その上に餡子玉を載せて~。綺麗に包んだら、最後に塩抜きした葉っぱを巻けば~~……はい、出来上がり!」

「お、おぉ~~~~っ!!」


 ササッと作った道明寺(桜餅)を見て片栗ちゃんは瞳をキラッキラに輝かせた。

 その顔を見ながら、私は出来上がったばかりのそれを差し出す。


「さ、食べてみて!」

「は、はぃ~~~~!!」


 凄く嬉しそうに返事をしながら、片栗ちゃんは私から桜餅を受け取るとパクッと口にした。

 そして、しばらくモキュモキュと口の中で噛んで、ごっきゅんと飲み込むと……ほわぁ~~っと笑顔となった。


「ほわぁ~~~~♪ お、美味しいですぅ~~♪」

「うん、いい笑顔だね~。さてと、残りもチャチャっと作りますかってね~!」

「はうっ!? わ、わたしも手伝いますぅ~~!」


 袖捲くりをする仕草で私が言うと、片栗ちゃんが幸せ空間からピコンと戻って来て手伝いをしてきた。

 戻って来て感心感心。まあ、そうなるのにも理由はあるのだ。

 何故なら……。


「すずらんちゃ~~ん! おいしいものつくったの~~!?」

「おー、鈴蘭! おれにも食わせろ!!」

「甘い物~~!!」


 あまりしないはずの匂いに釣られたのか周辺を歩いていた人たちの姿が障子っぽい紙の引き戸越しに見えた。

 当然その姿は全員、多種多様な着物であり、多種多様な耳と尻尾を生やした獣人だ。

 その様子を見ながら、私はくすっと笑いつつ外の人たちに声をかける。


「はいは~~い、ちょっと待っててくださいね~~。すぐに作りますから~!」


 私がそう言うと外から歓声が聞こえた。

 その歓声を聞きながら、私は片栗ちゃんに声をかける。


「さってと、それじゃあ速く作りますか~~!」

「はい! ジャンジャン創っていきましょう!」


 こうして、私は甘い物を求める街の人たちへと桜餅を振舞うのだった。

よし、今日は道明寺を食べよう!

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