一風変わった桜餅・1
「和モノ春花企画」に参加してみたくて書いてみました。
「はぁ~~~~………………、暇だぁ」
長い溜息と間を設けてから、私こと鈴蘭は溜息を吐く。
ちなみに現在の体勢はでろ~んと商売用の机に上半身をダレ~っとした状態である。
つまりどういうことかと言うと……。
「もぉ~! 鈴蘭ちゃん! お客様が全然来ないからってだらけすぎだよぉ~~!!」
「あはは、ごめんごめん~。でもほら~、片栗ちゃんも机にでろ~んってしてみなよ~。すっごくきもちいいよ~~」
プリプリと怒りながら、お店の従業員である片栗ちゃんが私を怒る。
あ~、怒った顔も可愛らしいな~~。と思いながら、私は彼女も同じようにだらける世界へと招く。
「ご、ごくり! だ、だめだよぉ~! 鈴蘭ちゃん、ちゃんとしてよぉ~~!!」
「ちっ、片栗ちゃんはだらけ世界の住人にならなかったかぁ……」
「す、鈴蘭ちゃん~~! もぉ~~~~!!」
顔を真っ赤にしながら、片栗ちゃんがプリプリと怒りながら両手を挙げて私へと迫る。
しかも相当怒っているのか、視線の先に見える彼女が着ている着物のお尻の辺りからは可愛らしい白色の猫尻尾がピンと立っているのが見えた。
……猫尻尾。なのだ。
今、私に対してカンカンに怒っている片栗ちゃんの尻尾には可愛らしい猫尻尾が生えており、白色の髪が綺麗な頭には同じく白色の猫耳が付いていた。
改めて言おう、今目の前に居る片栗ちゃんは猫の獣人なのだ。
そして、私鈴蘭こと山裾鈴蘭は異世界からやって来た……というよりも連れて来られた人間だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『薊様の気紛れ』
それはこの世界の神様である薊様が気紛れで別世界の人間を連れて行く行為であり、連れて来られた人間はどうにもならない状況に涙するという傍迷惑な行為だった。
そんな現象に巻き込まれた私は、普通の女子高生だった。
特に目立ったことがない普通の女子高生。
ただ普通と違うことといえば実家が和菓子屋さんを営んでおり、私自身も少しだけだけど菓子作りが出来るということだけだ。
だからだろうか、というかそのお陰なのかは分からないが、私はこの世界で上手く暮らしていくことが出来ていた。
……厄介なおまけが付いてくるような形でだけど。
そんな感じに大雑把にこの世界に来ることになった出来事を思い出している私だったけれど、片栗ちゃんの怒りはまだ収まっていないようで、ムスッとしながらプンプンしていた。
もう、可愛いな~! このぉ! なでなでしたいな~~!
「大体、鈴蘭ちゃんはグッタリしすぎてるよぉ~!」
「あはは、ゴメンゴメン片栗ちゃん。だけど、春でこんなにも気持ちが良いんだから仕方ないよ~?」
「う~、それは認めるけどぉ~。正直、わたしだって軒先でごろにゃんって丸まりたいよぉ~」
「それじゃあ、しちゃいなよ~YOU! なんなら、私が膝枕してあげるよ~?」
恥かしそうに本音を語る片栗ちゃんだったから、悪乗りしつつ私は両手を広げてバッチコーイ! とする。
すると、もう私にデレッデレになっている片栗ちゃんは恥かしがりながらも、椅子に座った私の太股に頭を乗せようとした。
だが、それをしようとした瞬間――店の引き戸が力いっぱい開かれた。
「鈴蘭よー! 愛しのわらわがやって来たぞーーい!!」
嬉しそうに極上笑みを浮かべながら、着崩した着物を着た狐獣人の女性が店内へとやって来た……が、固まった。
どうやら何かを勘違いしたようで……。
「お、お主ら……よもやそのような関係にまで至っておったとはのう……、恐るべし、春……!」
「ちょっと待ってくださぃ~~~~!! わ、わたしと鈴蘭さんはまだそんな関係じゃないですよぉ~~!!」
「え……、まだって言わなかった今? いつかはそうなりたいって思ってるわけ?」
「危険じゃあ、危険人物がおるのじゃあ……!」
驚愕する狐獣人――薊様に片栗ちゃんが言い訳をするけれど、混乱しているからかさらに墓穴を掘っているということには気づいていない。
だから私はせめてもの情けで墓穴をさらに広く掘ってあげることにした。
しかもその掘った墓穴は私の手によって広がった上に、薊様によってコンクリートで固められることとなった。
……あ、片栗ちゃんがプルプル振るえて涙眼になってる。……やりすぎたかも知れないわ。
「う、うぅ~~!!」
「あ~……、ごめんね。片栗ちゃん、弄りすぎちゃったわ」
「うむ、恥辱に恥らう姿は溜まらんかったぞ!!」
「し、知りません! というか、薊様! 何をしに来たのですかぁ!?」
両手を合わせて手を前に出す私と、可可と愉快に笑う薊様に見られながら片栗ちゃんは苛立ちながら叫び声を上げる。
その叫びを聞いて、私も何故薊様が此処に居るのかと思ったが……すぐにピンと来るものがあった。
神様である薊様がこの店にやって来る理由、それは……。
「……薊様、またですか?」
「うむっ! ここ最近ご無沙汰じゃったから、お主の菓子を食べたくなったのじゃ!!」
「それで、今回のお題は何ですか?」
そうなのだ。薊様は気紛れレベルにお菓子が食べたくなる。
そして、その度に私に対して無理難題……と言うわけではないけれどこんな物を食べてみたいとか言う感じにお題を出してくるのだ。
「ふっふっふ……。今回のお題は、『一風変わった桜餅』じゃ!」
「「……はい?」」
「春といったら桜餅じゃとわらわは知っておる。じゃが、ここ最近は和菓子じゃない物を食べたいのじゃ!」
「あ~、桜餅美味しいですよね~。私は道明寺派でしたよ」
「じゃが、もう一方の桜餅にも良い味わいがあるじゃろう?」
「どうみょ~じ? もういっぽう??」
懐かしきつぶあんのモッチリとした食感を思い出しながら、私はそれを口にするが薊様にもう一方も思い出してやれという風に言われた。
まあ、関東風の桜餅も美味しいですよ? けど、個人的に餅粉を焼いて漉し餡を包んだものよりも、道明寺のほうが食べたって気になるんですよね~。
ちなみに片栗ちゃんは良く分かっていないのか首を傾げている。
っとと、そんなことよりも……。
「桜餅じゃない桜餅のお菓子を食べたいってことで良いのですね?」
「うむ! じゃが、安直に桜餅を何かに包んだ。なんてしても駄目じゃぞ?」
「わかりました~っと」
「では、出来上がったらわらわを呼ぶが良い。良い物を期待しておるぞ!」
可可可と笑いながら薊様の姿は徐々に消えて行き、最終的にその場に初めから居なかったかのように姿が消えた。
本当、神出鬼没な人だ。……いや、神様か。
「は、はひゅぅ~~~~……」
そう思っていると、片栗ちゃんがペタンとその場でしゃがみ込んでしまった。
どうやら威勢が良いことを口にしていたけれど内心では薊様にビクビクだったみたいだ。
「大丈夫、片栗ちゃん?」
「しゅ、しゅずらんしゃまぁ~~……、わ、わたし、怖かったんですからねぇ~~!」
「お~よしよし、片栗ちゃん怖かったんだね~」
半泣き状態の片栗ちゃんの頭を抱き寄せてなでなでしながら、慰めてあげると心地が良かったのか片栗ちゃんの喉がゴロゴロとなるのが聞こえる。
お腹の辺りに片栗ちゃんの顔があるので顔は見えないけれど、きっとデレ~って蕩けているだろう。
その証拠に尻尾がグニャングニャンと気持ち良さそうに揺れている。
「うにゃぁ~~ん♪」
「ああもう、片栗ちゃんは可愛いな~~」
「しょんにゃことニャイですよぉ~~♪」
蕩けきってる片栗ちゃんの蕩けた声を聞きながら、私は薊様のお題をどうするべきかと考えていた。
来週中に後編まで書こうと思っています。
春の花として、鈴蘭・片栗・薊を使用しました。
後は一風変わった桜餅を題材に使用してみます。
さてさて、どんな桜餅になるんでしょうね。
というか、エルミリサ書かなくてごめんなさいぃぃぃ~~~~!!(平伏