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媚態の花  作者: 花南
19/24

07/07

「マリー・ルイーズ」

「どうしたの? ギー」

 セージのハーブティーを薬草園に撒いていたマリー・ルイーズが顔を上げる。

「ボードレール家って、警察にコネクションはありませんか?」

「警察? あることはあるわよ。お父さんのコネだけど」

「お願いしたいことがあるんですが、いいですか?」

 教え子のためだ。少しくらい無茶をしてもいいだろう。やれるだけのことはやったという満足感が欲しかった。


 マリー・ルイーズのコネによって、警察の資料室に入ることを許可されたギーは、そこでその当日の資料を見させてもらった。

 ポールの死因は銃による自殺。遺書には自分がカロルを殺したことについて述べたこと、自殺に至るまでの社会的に追い詰められた状況などが書いてあった。ポールはオリアーヌに昇進したと説明したが、実はその逆である。クビになったのだ。

(だけど今の時代クビになる人なんて山のようにいるのに、それだけで自殺するものでしょうかね?)

 次はカロルの資料。なるほど、ルノーが言っていたように少しだけぽっちゃりした子のようだ。可愛いかと聞かれたら愛嬌のある顔立ちのような気がした。刺された回数はあまり多くないことからピッキュアリズムの可能性が少しだけ低くなった。アランの言うとおり、性嗜好異常者の犯行に見せただけのものかもしれない。

 次は犯行現場。サン・ドニ門近くの何本か奥の路地裏。このあたりはパリの中でも治安が悪く、ギーもあまり行きたい場所ではない。

 カロルの周辺からはポールの毛髪とおぼしきものが見つかっている。となってくると、ポールが犯人で確定だろうか。

「うーん……納得がいかないんですよねえ」

 死ぬ直前のポールの行動があまりに不自然すぎる。クビになった翌日に少女を変態の犯行に見せかけて殺害、そして自室に鍵をかけて自分も自殺、そんなことがあるのだろうか。

 パリ市内で他に起きた事件は、男女組の強盗犯が銀行強盗、ひったくり二件、ブランドショップの万引きが一件、観光客の置き引きが二件、交通事故が三件。どれもそんなに関係なさそうだった。

 警察署から出て考え事をしながら歩いた。ポールが犯人だとしたら何故そうしたのか、ポールが犯人じゃあないとしたら誰が犯人なのか。考えても答えがすぐに浮かんでこない。

 考え事をして歩いていたせいか、後ろをつけてくる足音に気づくのに遅れた。いきなり路地裏に連れ込まれてギーは声にならない悲鳴をあげる。アランだ。

「警察に私のことを話したか?」

 先程警察に行ったことを言っているのだろう。首を左右に振るとようやく口を塞いでいた手を解放してくれた。

「まだあの事件の犯人を捜しているのか? いちおう解決したんだろうに」

「ポール=デュピュイトランはけっこう不自然な行動をいっぱいしているんですよ。納得がいかない上に、娘のオリアーヌは僕の生徒です」

「なるほど、生徒のために頑張る先生か。泣かせるねえ」

「からかわないでください」

 アランを押しのけて帰ろうとすると、彼はこう言った。

「本当は犯人が誰だかわかっているんだろう?」

「なんのことですか?」

「プロファイラーってのは一番犯人に近い存在じゃあないのか? お前には犯人の気持ちが理解できるはずだ」

 なにもかもうんざりしたように、ギーはアランを振り返った。

「あなたは僕の気持ちがわかりますか? 僕は殺人事件を見ると『怖い』と感じるんですよ。人を殺したいと思ったことはありません。あと……」

 これは言うべきかどうか迷った末に、ギーはついに言った。

「僕はあなたの理解者にはなれませんよ」

 アランはギーを見て黙り込むと、何も言わずに踵を返して表通りに消えて行った。ギーはため息をつくと、そのまま駅のほうへと歩いていった。


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