表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

金魚

作者: さら

あんまり金魚出てこないです

金魚は跳ねた、生きようと。


水槽の枠とガラスの破片、水たまりと金魚。それだけでなんとなく、なんとなく何が起きたのか分かった。



ガシャンッーーー


うるさかった教室がその音が響いた途端に静まり返った。音の元凶へと誰もが目を向けた先には、大人しそうな少年が唖然と床を見つめていた。きっと何が起きたのか理解できていないのだろう。


「だいじょうぶか?!」


誰かが投げかけた言葉により静寂は破られ、少年に対する言葉や状況に対する困惑、興味でまた教室は煩わしくなる。


騒ぎを聞きつけてか徐々に人が増えてきて、教師までもが駆けつけて着たせいで、さらに騒がしくなる教室に、僕の思い人は眉を寄せた。音は出さずに口が「うるさい」と動く。視線が誰ともなく睨む。その姿すら美しい彼女に僕の心臓は血液を大量に全身に送って反応した。



彼女は不思議な人である。決して不思議ちゃんとかそういうわけではない。僕みたいな凡人には理解できないような存在、という意味で、だ。


纏っている雰囲気が特別なのだ。僕が彼女を好きだからとかそういうものを抜きしても特別なのだ。周りとは一線を引いているような気配があるのに、どこか人を惹きつけてしまうような、神秘的な雰囲気がある。その神秘的な雰囲気が彼女の整った容姿に似合っていて、彼女の魅力が増すんだろうな、と僕は思っている。


ただ、僕はこれだけで彼女を不思議な人とカテゴライズしたわけでない。これだけならば、麗しのクラスメイト、で終わっていただろう。ーーこれだけでも僕の心臓は鷲掴みにされていたのは、僕とあなただけの秘密だ。




あの秋の終わり、冬の始まりが訪れそうな日、立ち入り禁止のプールで僕たちは、僕は青春をした、と思う。


夏が終わり、立ち入り禁止となったプールに、堂々と足を踏み入れようとしていた彼女を見つけて、花に誘われる虫のごとく、自然と彼女の後をつけてプールへと足を踏み入れてしまっていた。


「…なに?」


綺麗な形の眉を寄せて、不快そうに振り向きながら問いかけられた言葉に、慌てた。つける気なんてなかった。無意識に、本当に無意識に彼女の後をつけてプールに忍び込んでしまったのだ。僕はこの時、恋の恐ろしさを実感させられた。恋は人を馬鹿にする。


「え、いや、その、た、高瀬が、高瀬が、プ、プールに入ってくのが見えて…さっ」


「それが?なに?」


「いや、だ、だから、その…、よ、よ、よくないなっ!って」


「注意しに来てくれたの?わざわざ?」


「え?あ、そう!注意!注意したくて!先生に見つかると高瀬も困るだろ?だ、だから、その、その前にっ、ちゅ、注意を!しっようと!」


「ふーん…」


我ながら馬鹿だと思った。もう焦りすぎて声も裏がえる、何を言ってるのかもわからない、わざとらしすぎる、挙げたらキリがない程怪しすぎる。物凄く疑われているのがわかる視線を愛しの彼女からプレゼントされて心が痛い。


もし、ストーカーだとか思われたら嫌だな。いや、つけている時点でストーカーみたいなものだが、これは本当に恋のせいであって、あの、その…、と心の中でも言い訳してるがもう自分でもよくわからない。理由なんてないんだから。無理やり理由をつけるとすれば、"あなたに恋しているからです"としか言いようがない。


ーーバシャッ


豪快な水の音が聞こえて思考を切り上げ、そちらを向くと、僕の愛しの彼女が、枯れ葉や虫の死骸が漂う汚れたプールに真珠の様に美しく光り輝く脚を突っ込んでいた。


「え?な、なにして…」


「プールに入ってんの」


「は?入ってんのって…、今10月末だぞ!?寒いだろ!それに水だって汚ねーし!お、おい!高瀬!」


僕はただ、ただ、彼女の美しい脚を、あの虫の死骸やらで汚くなったプールから出して欲しくて、穢れて欲しくなくて、必死に声を張り上げて彼女の名を呼んだ。


「別段寒くないよ?ちょっと冷たいけど、前園くんも入れば?意外に楽しいよ?」


「いや、え、さ、寒くないならいいのか…?」


きょとん、と首をかしげて「何言ってんのこいつ?」みたいな顔で寒くないと教えてくれた彼女はとてつもなく可愛くて、僕の胸はキュンキュンどころかギュンギュンなっていたせいで彼女の美しい艶かしい脚は未だに虫の死骸が浮かぶプールに囚われたままである、が、しかし、彼女からのお誘いは魅力的だ。汚いプールとはいえ、想い人から一緒にプールに入らないか?と誘われている(と僕は解釈した)。そう考えるとなんだかこの汚いプールが神秘の泉かなんかにすら見えてこないこともないから不思議である。


ーーパシャン


恋は本当に人を馬鹿にするようだ。

気がつけば彼女の隣に座って、彼女に水をあまり掛けないように足を神秘の泉に突っ込んでいた。またもや無意識である。


「どう?気持ちいでしょ?」


少し得意げに、楽しそうに、愛らしく、上目遣いで僕に問いかける彼女に、なんかもうダメだ、理性とか崩壊しそうだ。足に枯れ葉や虫の死骸がくっついてきてようが、むしろそれすら特別なことのように思えるくらい幸せで、言葉を紡ぐことすら出来そうにない僕のポンコツ脳みそは、なんとか首の神経に命令を出して、僕を頷かせた。

好きです、ゆあさん。僕と付き合ってください。気づけばうなづきつつ頭の中で告白していた。頭の中で。口に出す勇気はない。


「こんなに気持ちいのに、なんで入っちゃいけないんだろうね?」


「な、なんでだろうな?」


よくわからないが、彼女の問いかけをそのまま返してみる。なんでって言われてもわからない。それに彼女の隣という最高のポディションは誰にも渡したくないから今後も誰も入ってきてほしくない。もういっそ、僕と彼女以外プール立ち入り禁止みたいなルール作って欲しい。切実に。


「立ち入り禁止って言われると、みんな来ないって不思議じゃない?」


「そ、そうか?」


「そうだよ。別段入ったら死ぬってわけでもないし、ただ、入られたら学校が困るから言ってるだけでしょ?」


「うん?そうだな、」


まったくもって凡人の僕には彼女が何を言っているのかさっぱりわからないが、麗しい彼女が言ってるのだからきっと、凄いことを言っているのだろう。たぶん。


「勝手にルール決められて、勝手に私たちのこと縛り付けて、それを破ったてって私たちの勝手でしょ?なのに怒ってきてさ、誰もそれで良いです。なんて納得してないのに、学校にはいった時点で納得したも同然?みたいな選択肢も与えないで檻の中に閉じ込めてさ、なんなんだろうね?」


「…ああ」


「檻?しきり?そう、見えない仕切りで私たちを囲って小さな世界を作って、それが全てだって、お前たちの世界だよって言ってくるんだよ。学校以外もそう。全部、全部、仕切りで区切られてさ、」


「ああ、そうだな…」


話についていくことが出来なくて、相槌を打って、聞いてますよー感を出してみる。話についていけないことで彼女に嫌われたくない。それにそんなことも理解できない馬鹿だと思われるのも嫌だ。もう既に恋の病のせいでかなりの馬鹿を晒しているのでこれ以上は隠しておきたい。カッコつけたがり屋なのだ、男って生き物は。


「教室の金魚と一緒。勝手に水槽に入れられて、外に出ることも叶わない。こんなに窮屈な場所を世界だって思わなきゃいけない。」


「たしかにな」


「仕切りなんて、水槽なんて割れればいいのに…」


半分以上理解できなかったが、とりあえず肯定的な相槌を打ってみたが、どうだっただろうか。女性は話を肯定されたがるらしいから、これで彼女の心も少しは俺に傾いてくれただろうか?そうだったら嬉しい。嬉しすぎて小躍りしたい。むしろ小躍りしたら彼女の心が僕に傾くみたいななのはないだろうか、引かれて終わりそうだな…。


「…そうすれば、自由になれるのに」


たぶん、彼女は僕と会話なんてしてないんだろうな。いや、してるんだ、だけど自分の中の思いを吐き出してるだけ。そこにたまたま僕がいたから、僕に彼女の崇高な思想を吐露してくれたんだろう。恋で馬鹿になってたさっきまでの僕グッジョブ!おかげで彼女の素晴らしい思想を理解はできなかったが聞けることができた。最高に幸せで天に昇れそうだ。



この日、彼女は僕の中で"不思議な人"とカテゴライズされた。凡人には理解できない思想なのに、何故だか崇高なことを考えていると理解させる何かがあるのだ。何を言っているのか理解できていないのに、崇高だとわからせる何かが。きっと神がかり的何かが。



あの秋の終わり、冬の始まりが訪れそうな日、僕は彼女の崇高な思想を、彼女の隣で共に神秘の泉に浸りながら知ることが出来、人生最大の青春をしたに違いない。誰よりも素晴らしい青春を謳歌していた。





ガヤガヤと煩わしい教室のくすんだ薄水色の床に落ちる赤色がヤケに目立っていた。


つい数秒前まで必死に跳ねまわっていたのに、今はピクリとも動かない金魚を見て、あの青春を謳歌した日の彼女の言葉を思い出した。


"水槽なんて割れればいいのに""自由になれるのに"


水槽が割れても僕らは自由になれない。生きるために必死に跳ね回ってた金魚は死んだ、水槽が割れたせいで。


きっと凡人の僕らは水槽の中で生きてることすら気づかずに平穏に生きている。誰も水槽の中だと気づかないから、立ち入り禁止のプールには入らなかった。でも、彼女は気づいてしまった。ここが水槽だと、恐ろしいことなのに、気づいてしまった。麗しい彼女は気づいてしまった。






水槽が割れたら死んでしまうのに。








美しい彼女と赤色がその日、重なった。

金魚って赤ですか?オレンジかな、とか迷いましたが、面倒くさくなり赤でいっかって。


男の子の心の中の口調と話口調とでちょっと違和感を感じるかもしれませんが、わざとです。私の趣味です。荒々しい口調の人が実はなよっちいと、トゥクンッ!ってなります。

女の子は中二病患ってます。男の子は不思議ちゃんではないとか言ってますが、好きな子なので特別に見えるだけで、不思議ちゃんだし中二病です。顔は美少女です。中二病患ってますが、美少女です。


何が書きたかったのか毎回自分でもよくわからなくなり、尻切れトンボですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。感謝感謝です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ