第零話 非常識的な日常
『起動シマス……』
電子音の様な声が一つのデバイスから漏れた。小型端末の様なそれから唐突に、大気中にスクリーンが投影される。起動して数秒経ってから、スクリーンのDownlodeの文字がWelcomeの文字に切り替わる。
「眠い……」
端末が音立てている隣で、一人の青年はそう呟いてベッドからゆっくり起き上がった。まだ視界がグラグラしていて仕方ないので、再び掛け布団を被り、睡魔に身を任せようとした、その時。
「ごー主人様ああああああっ♡♡」
ズバァァンッと、トンデモない音を立ててドアを開け放ったと同時に、ベッドへフライハイしてくる一人の少女。
「だぁぁぁぁやかましいんだよぉぉぉぉっ」
青年のベッドに寝ながらのドロップキック(地味た両足でのキック)が少女をヒット!…せずにかすった。だが軌道は変えられた様で、ベッドの横の床に直接顔を打ち付けた。ゴキッと生々しい音が響く。
「あゔゔぶぅぅ……」
なんかよく分からない呻き声を上げている。
「はぁ……」
眠る気力と気分を削がれて、青年は大きな溜息をつき、机の上の端末と魔道研究用のノートを手に取り部屋を後にした。
「ご主人様ぁ……」
朝からボロボロになった少女も、顔面強打という災難にもめげず、青年について行くのだった。
彼らの住まうこの世界。それは常識という固定概念が何一つない、非常識的な世界の一端である。むしろ、固定概念にとらわれている者の方が逆に非常識呼ばわりされる世界でもある。こんな世界にさっきの青年。もとい、天澤神介は、とある一軒家を拠点に、三人の仲間と共に生活している。高身長で髪がとても長い。右眼が常に隠れているのが気にかかる人も良くいるらしい。
自室を出て、一階へと降りた彼に金髪のエルフの青年がリビングから手を振る。
「おせぇぞー。飯冷めちまうぜ?」
「わーってるってのー。」
神介はそう受け答えながら、洗面台で軽く顔を洗っている。そして洗い終えて、リビングへと向かう。
改めて、神介は彼の顔を見る。アーネスト=フェベリメール。エルフのクォータで金髪である彼は、その風貌から不良によく絡まれるらしい。その度に返り討ちしにてやっているので、よく拳を血みどろにして帰ってくる。昨日も昨日で、何やら不良共に集団リンチを食らったそうだが…そんな手で作られた飯が目の前にあるわけで。流石に一瞬神介もためらったが、腹も減っていたのですぐさま平らげた。
「あー食った食ったぁ……」
「お前、今すぐここで寝そーだな…」
たまたま休日に当たったので久方ぶりにずっと寝ていようと、神介は昨日から布団に潜りっぱなしだった。今日はゆっくり休めるだろうと、思っていた。否、思っていたかった。しかし、現実は無情にも彼の目的である"寝る"動作さえも奪う。
「ご主人様ああああああっ♡」
「やかましんだよ」
本当にやかましい。さっきの少女が神介に背後から抱きつく。神介は神介で軽く一蹴したが、当の本人にはこの言葉にすら何の効力もないらしい。
「またぁ、ご主人様も照れ屋ですねぇ♡」
「お前の脳みそは大事なとこだけふっとんでんのか?」
水村腐宇華、通称変態である。常にメイド服を着用し、何故か神介をご主人様と呼んでいる。赤みのかかった茶髪にドレスカチューシャ、という風貌から、彼らの所属する機関の中でも絶大な人気を誇っている。が、本人全くは気にしてない。
「あのな、腐宇華。先週からずっと俺は寝るという人間に必要不可欠なこうどうすらまともに出来てないのだよ。」
「ふむふむ…という事は、いわゆる私の膝枕で寝たいという事ですねっ!」
「どうしてそうなった。」
疲れる。と、神介はため息をついた。まぁこれが日常なんだ。そう言って割り切ろうとしたところへ、また一人の少女がリビングへ入ってきた。
「…………おはよう……」
常人に聞き取れるか聞き取れないかくらいの音量で少女は口を開いた。
「おはー」
「おはよー」
「お、おはよう」
彼らの仲間の内、最も無口で、神介と並ぶ程のキレモノである彼女の名は、雪村静花。機関公認の魔導研究学に手配されるローブを着用し、メガネをかけているのだが、読書が好きなだけに本当に他との干渉がない。らしい。
こんな彼らは、今日もまた新たな日を始めていく。
非常識的な世界の一端のその更に中のとある機関、次元世界 WORLD of FRONTIA防衛特殊機関 The FRONTIA FORCESの一員として。
彼らはまた、今日を過ごしていくだろう。
この世界が、直にあの狂気に壊されて行く事など、微塵も考えずに。
えと、今回書いて見たんですけど、ネタを温め過ぎてよくわからんことになってしまいました。
次から少しずつ整理して書いて行きたいと思っていますので、暇な時に暇潰し程度で見ていただければ(多分暇潰しにならないと思いますが…)幸いです。