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ふぇあ!?

 フワリと身体が浮き、意識が遠のいていく感覚。最初の頃はこの感覚が怖かったが、今では慣れたもので気にならない。


 どうせこの思考も直ぐに途切れ─────て気づけばVRの中だ。


 普通なら感知出来ない様な、一瞬の空白。だけどVRと言うものに慣れてしまえば、“入った”と理解できる瞬間。


 視界が暗転して、目の前にトップ画面が表示される。そのトップ画面には、先程インストールしたWAOのアイコンが増えている。


 この時の様子を、VRをしたことが無かった理恵に説明した時、視線でフリックできるPCって言ったっけかな?


 正直言うと、この画面の使い勝手は悪い。最初の頃は、それはもう関係の無いものをフリックしまくったものだ。


 今は慣れたと言うより、コツの様なものを覚えたので操作はお手の物。


 スイスイとWAOを起動して暗転、タイトルロゴがデカデカと表示される。そして、いきなり下から大量の泡が湧き立ちて視界を塞ぐ。


 私は反射的に目を閉じようとしてしまうが、まだアバターに入り込まないトップ画面なので、視界が目蓋で閉じられる事は無く、そのまま泡が過ぎ去って行くのを眺めて景色が一転。


 泡が過ぎ去ると、辺り一面コバルトブルーとなっていた。


 少し驚いて辺りを見回すと、上からは屈折した淡い光が差し込み、周りはカラフルな魚達が泳いでいるのが見受けられた。


 さっきの泡と周りの景色を見るにここは海で、私はその中を飛び込んだ演出なのかな。


 ただの暗転で済ませない演出に感動していると、目の前に仮想ウィンドウがポップして初期設定が始まった。


 各種シークエンスの仮想ウィンドウが目の前に広がり、周りの景色もあいまって幻想的な光景だ。


 それにしても暇だ。


 初期設定は、VRMとの神経や脳波のやりとりを感知して、ゲームでの動作調整や五感の感度調整などで、私自身が何かをすると言うわけじゃないから手持ち無沙汰になるんだよね。

 なにより、私の場合だと調整が少々特殊な状態になってるから、余計に時間が掛かるからなぁ。


 ボーと、ポップしては消えを繰り返すウインドウを眺めていると、やはり調整が上手くいかないらしい。同じ内容のシークエンスが先ほどから繰り返されている。


 うーん……やっぱり少し縛りプレイになっちゃうけど、仕方が無いか。少し鎮め──あれ?


 急に全てのウインドウが消え去ったと思ったら、すぐ調整完了のウインドウがポップする。


 いや、いい事なんだけど今まで初期設定で手間取ってたから、問題無いと逆に「おや?」となってしまった。

 無事に終わったならいいんだけどね。


 最後にポップしたウィンドウを注視する。するとウィンドウが拡大された。


 《初期設定が完了しました。

 アバターの製作に移ります。

 アバターのデータが確認されました。コンバートしますか?》


 その文の下にはYES/NOの選択肢。もちろんYESを選択。


 途端、再び泡が湧き立ち視界を塞ぐ。それが過ぎ去ると、私の感覚はアバター中に入っていた。

 初期装備と思われる衣服に包まれた身体を見回して、手足を動かしてみる。


 うん、違和感は全くない。ゲームの中、アバターというのを感じさせない、本当の生身の様だ。


 ちなみに景色の海は演出だけの様で、水の抵抗は無く泳げたりは出来なかった。


 それにしても、身体が出来て五感も備わって気づいた事だけど、段々と海の中に沈んでいる。


 地面があるのか不安になりながら海底を見ていると、コツンと足先に硬い感触。同時にフワリと身体が浮き上がった。硬い感触があったあたりには、小さな波紋が広がっている。


 目には見えないけど、床があるのかな。

 私は恐る恐る足を伸ばして感触を確かめた後、波紋の上に両足を乗せて着地した。


「VRならではの景色って感じ」


 足元から広がる波紋を見た後、周りを見回して独り言ちた。


 そんな私の前に、ウィンドウがポップする。内容は、アバターを弄るかこのままゲームを開始するか、その応否を問うものだった。


 もちろん弄りますよ。今のままじゃ、リアルと同じ外見だし。


 選択肢を選ぶと目の前に泡が湧き立ち、私のアバターが現れて項目がズラリと表示される。


 目の前のアバターは言うなら鏡の様なものだ。項目を弄るとアバターに反映されて、どう変化するかわかりやすくなっている。


 まぁ、体型とかは変えるつもりはないから、それらの項目は除けていく。胸という、マニアックで悪魔の様な項目も除けていく。


 躊躇ってなんかいませんよ。あるし、胸あるし、私普通にあるし。


 除けてしまえば、残りの項目は数少ない。

 兄も待っている事だし、パパッと設定してしまおうと意気込んだ時、突然とある音が聞こえた。


 ───コンコンコン。


「……ノックの音?」


 思わず辺りを見渡すも、扉なんて物はありはしない。そもそも何処からこの音が聞こえたのか。

 気のせい───とするには余りにもハッキリと聞こえ過ぎた。


 ───コンコンコン。


 なんだろうと考えていると、再びノック音。それはこの空間全体から鳴っているかの様で、音の発生源を見つける事が出来ない。


「ど、どうしよう……」


 ノックとは、入室していいかの確認の合図だ。つまり、このノックは合図を待っている事になる。誰にだ。私にだ。


 この空間には私しかいないのだから、私に聞いているとしか思えない。返事した方がいいのだろうか。


 ───コンコンコン。


 なんか怖いんですけど。


「えっと……何方ですかぁー?」


 怖くなって思わず聞いてしまった。恐々とした声で情けないいが、普通に恐いのだから仕方ない。

 といいますか、これ何処に向けて言えばいいんですかね。


「シキの知り合いですよ」

「ふぇあ!?」


 キョロキョロと周りを見渡して返答を待っていると、辺りに響き渡る様な声が聞こえ、驚きに飛び跳ねてしまった。


「すみません、驚かせてしまった様で」

「い、いえ、お気になさらずに!!」


 慌てて周りを確認しなおすが、何も変化は起こっていない。


「そちらに入ってもよろしいですか?」


 返事をしたのだから当たり前だけど、先程からのノック音は声の主の様だ。


 聞かれて私は悩む。許可してもいいのだろうか。正直得体がしれない。


 そう言えば、誰何した時にシキの知り合いと言っていたけど、シキって兄のアバター名のシキだろうか。


「ぇ、えーと……ど、どうぞ?」


 考えようにも答えが出ず、結局は許可してしまった。


「では、失礼します」

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