居た
ギルドハウスの中に踏み入れた瞬間、中に居た何人かのプレイヤーがこちらへ視線を向けてきた為、一瞬身構えるも<感知>に反応は無い。
その事に気付いて落ち着いて見渡してみれば、視線を向けてきた殆どがプラカードを掲げている人達で、パーティ募集中に人が来て反応しただけの様だ。すぐに視線をはずして、既にパーティを組んでいると思われる人達と会話を続けている。
私は出入り口の横に立ち、プラカードの内容を確認するそぶりをしながらギルドハウス内を見渡していく。
どうやら、先ほど考え付いたログアウトしているという予想は当たっていたらしく、中に居た人の数は少ない。
<感知>も反応が無いし、大丈夫かな。
そう考えて少し張っていた気を緩め、カウンターに向かって数歩近づいた瞬間──。
そりゃ、居ない訳ないですよねー。
<感知>が出すアラートを認識して思わず足を止めた私は、周囲にソレがため息だと気取られない様に小さく息を吐いた。
なんともまぁ、嫌らしいタイミング。と、私は今の立っている位置を把握して内心毒づく。
カウンターに向かって歩いていた私の位置からでは、プレイヤー達がたむろする場所を見るには振り返る必要がある。カウンターに用がある人なら、ここまで来て唐突に振り返るなんて事はほぼないだろう。
それを考えると、今<看破>を使っているプレイヤーと目が合うなんて事はない。自分の見抜きがばれる事は早々無いわけだ。
「なるほど……蔑称になる訳だ」
他のMMOでは名前は常に表示されているし、装備とかだって内容を見れる事は多々ある。
けれど、この<看破>を使って見られるのは不快感がすごい。見抜きとは良く言ったものだ。
それにしても、恐らく相手の<看破>発動と同時に足を止めちゃったのに、それを不審に思わずに<看破>し続けるとは余程ばれないと思っているのかな。それとも、自分以外もアビリティ使ってると思って、特定されないとでも思っているのだろうか。<感知>の反応を見るに、<看破>使ってるの一人だけみたいだけど。
まぁ、続けてくれてる方が振り向いた時に特定しやすいから別にいっか。
大仰にならない様に私はその場でくるりと振り返り、プレイヤー達に視線を走らせる。
パーティメンバーと談笑をする人達、人差し指を立ててメニュー操作をしている人達、掲示板に書き込みでもしているのか、タイピング操作をしている人達──。
「居た」
私と視線ががっちり合い、驚愕の表情を浮かべている一人の男性プレイヤー。
《<感知>対象を認識しました。アビリティ効果を完全レジストしました。》
<感知>のアラートインフォが消え去り、新たなインフォが表示される。
恐らく視線が合った相手側にも何かしらのインフォが表示されたのだろう。一瞬だけど、視線がインフォが表示される位置に動いて、驚愕の表情が一層濃くなった。
そんな表情のまま再び視線を向けてきた男性プレイヤーに、私は声に出さずに口の動きだけで「見、抜、き」と畳み掛ける。途端に相手は取り乱し、慌てた様に宙に指を動かしてロクアウトしていった。
それを見届けた私は、小さく息を吐きながら知らず知らずに入っていた肩の力を抜く。
これでとりあえずは大丈夫かな。




