希望的観測ばっか
ギルドの出入り口が見える距離まで近づいた私は、一旦物陰に隠れて人の出入りをうかがう。
何故にそんなにコソコソするかと言うと、昼食前にギルド内でやらかした事を引きずっているからである。
ゲーム内の時間で言えばかなり時間は経っているだろうけど、やっぱり少し気になる。
しばらく眺めていたが人の出入りは非常に少なめであり、宿屋のような喧騒もさほど聞こえない。だけど、入ったきり出てこない人が結構いる。というのに何故こうも静かなのだろう?
物陰に隠れているといっても、街頭が届かない暗がりで建物に寄りかかっているだけな為、距離があって聞こえないという訳ではないと思うのだけど。
しばらく頭を悩ませ、ふと考えつく。
ギルドの中でログアウトしてる、のかな?
それに考え付くと間違っていない気がしてきた。
そもそも、ゲーム内よりもリアルの方が時間の進みとしては早いのだから、何もできないなら殆どがログアウトするんじゃなかろうか。
それならば入ったきり出てこない人がいても不思議ではないし、騒がしくならないのも当然だ。
後は、<看破>をかけてきたプレイヤーが待ち伏せしてないかどうかなのだけど……。
私は<感知>が発動した時の事を思い出す。
アラートが出た時に<感知>が発動していると考えていいはずだけど、その時を思い返してみるとダーツさんの<看破>の説明と食い違う。
<看破>は相手を見続けて効果が出ると言ってた。けど、<感知>のアラートが出るタイミングは、“視線が集中した瞬間”だ。つまり、効果が発動したタイミングじゃなく、私を対象に何かアビリティを発動させようとしたタイミングで<感知>の効果が表れている。
上手くいけば、誰が見抜きをしようとしているのかわかるかもしれない。
<看破>の効果を出すには見続けなければいけないのだから、感知した瞬間に辺りを見渡せば目が合う筈。後はその相手を牽制すればいい。
見抜きという蔑称があるのを考えれば、おおやけにはされたくないと思うし、気付かれれば下手な事はしないだろう。
「……なんか、希望的観測ばっか」
小さく独りごちる。
なら、少しでも特定されないようにしようかな。と、私はケープから全体を覆うクロークに外套を羽織り変える。これで装備からの特定はされ難くなるだろう。
フードをしっかり被り、されど口元は外からしっかり見える様にしておく。これは見抜き相手の為である。
「ま、居ないに越したことないんだけどね」
肩を竦めながら呟いて、私はギルドの入り口へと向かうのだった。
ギルド内にすら入ってないってどういうことなの。




