私がですか?
その自然な笑みは彼がNPCとは思えなく、なんだか無感情にNPCと呼称するのが憚れる気持ちになってくる。
「はい、おかげさまで。 まぁ、運が良かったのもありますけど」
「おや? 何かあったのですか?」
苦笑いを浮かべる私に、ハルバークさんが不思議そうに聞いてきたので、私はお店での顛末を掻い摘んで説明した。 すると、ハルバークさんは小さな皺を眉間に作って唸る。
「ポーションだけではなく、衣類も品薄になっていましたか……」
どうやらNPCの方でも──いや、もう住民と呼ぼう。 住民の方でもポーションが品薄と言う話は広がっているみたいだけど、他の物まで品薄なのは知らなかったみたいだ。
「でも、船が来たから他は大丈夫じゃないですか?」
「当分は大丈夫でしょう。ですが、このまま森の問題が解決しなければ再び品数は減ってしまうと思います」
森の問題。
それはきっとエリアボスが関係している事なのだろうとは思ったが、ふと気になる事があった。
私達プレイヤーにとっては、倒さないと先には進めないと言うシステムの仕様となっているが、住民にはどういう扱いになっているのだろう?
住民から話を聞いて情報収集というのも、らしいと言えばらしいし、聞いてみようかな。
「森の問題ってなんですか?」
「ご存知ではありませんでしたか」
「はい。 えっと……メルトレレスに着いたのがつい先日なんです」
「なるほど」
アバウトな誤魔化しだったのだけど、ハルバークさんはそれで納得してくれたらしい。
「一ヶ月程前からなのですが、森の中の街道付近にランペイジベアが現れる様になりまして、商業の方々が襲われて物流が止まり、危険ということで一般人の通行を封鎖しているのです」
ほほぅ。 住民の方ではそういった感じになっているのか。
「それで品薄になっているんですね」
「はい」
ちょっとワザとらしいけど、話をつなげる為に、あたかも今知った様に私は振る舞う。
「とは言え、今の品薄状態はギルドとしても困っているのです。
ランペイジベア出現と同時期に大勢の冒険者が来たので、対処をお願いしようとギルドからクエストを出したのですが、討伐がここまで難航してしまうとは……」
言われちゃってるぞ、攻略プレイヤー達。 まぁ、最初に突っ走り過ぎた人が多過ぎたせいで、アイテムがままなら無くて挑戦出来無いって様子だったから、今回の船到着で無事に終わるだろう。
「メグルさんも、もし良かったら討伐クエストの協力をお願いしますね」
「え……私がですか?」
いやぁ……流石に私がレイドボスに参加しても、役割分担に困るんじゃ無かろうか。 タンク出来ないし、後衛でもないし。
協力を頼まれたなら出来ることはするけど、進んでやろうとは正直思わない。 それとなく辞退しとこ。
「私なんか全然戦力になりませんよ。 今日だってちょこっとクエストやりながら草抜きしてただけですし……」
「草抜き?」
流石に特殊な言い回しは通じないらしい。
「薬草採取の事です」
「──メグルさんは〈採取〉スキルをお持ちなのですか?」
うん? なんか変な間があったな。
ハルバークさんの表情に、変化は特別ない。 先程の間も、沈黙と言うより喋り出しが少し遅かったといった感じだ。
「はい。 薬草採取に必要そうなスキルは一通り持ってますよ。 ただ、肝心のレベルがまだ低いですけどね」
「もし良ければ、採取した薬草を見せていただけませんか?」
唐突なハルバークさんの頼みに、私は目を瞬かせる。
「えっと……いいですけど」
思わずな頼み事に一瞬返答に窮した私だったけど、別に拒否する理由もないのでインベントリを開く。
どうせ見せるなら、品質高い方がいいよね。
そう思った私は、唯一手作業で採取した品質B-の陽光草を取り出し、ハルバークさんに差し出した。
「──メグルさん」
陽光草を受け取って識別でもしたのか、しばらく陽光草を見ていたハルバークさんが私に視線を移す。 そして──。
え、ちょ、これって!?
「ギルドから一つお願いを聞いてくれませんか?」
《条件が満たされました。 エクストラクエストが発生します。 諾否をお答えください。》
ハルバークさんの手前に表示されたインフォメーションに、私は驚きに目を見開いた。




