う、うん、ゲーム
家を出てバス停へと急ぐ。
私の通学経路は、家近くのバス停でバスに乗って駅へ行き、そこから学校近くの駅まで電車だ。
バスを一本乗り損ねると、電車とのタイミングがずれて遅刻ギリギリになる。その際は駅から学校まで走ればなんとかなるが、時季が時季だし個人的な理由もあるしで出来るだけ走るのは遠慮したい。
兄と話していた分少し危なかったが、なんとか間に合ってバスに乗り込む事が出来て一安心。
さて、駅に着く迄の時間は有効に使おう。
私は空いている席に座って携帯端末を取り出す。そこで「しまった」と顔をしかめた。
VRMMOについて検索しようとしたのだが、肝心の名前を聞いていなかった。
どうしよう、と考えたのは一瞬。
初のVRMMOだ。そのまま「VRMMO」で検索出来るだろうと操作。
案の定と言うか、当然と言うか、簡単にトップに出てきた。 と、一緒に出てきたページ説明文を見て、私は一人納得する。
確かに人工知能の事が前面に出てる説明内容で、これは気づかなくても仕方が無い。なりより、VRMMOなんて出ないと諦めてかけている状態なのだ、検索すらする事も無く歯牙にもかけなかっただろう。
さてさて、ではそんなVRMMOの名前はと言うと、
WorldAuthorOnline
どうやらそれがゲームの名前みたいだ。
「ワールド...オーサー、かな?」
頭文字で略したらWAO。ワオだワオ。凄く言いやすい。
などと考えながら公式サイトを開く。音楽が流れてる様だが、残念ながら音は切ってあるし、手元にイヤホンも無い。まぁ、PCの時に聞く機会はあるだろう。
ザッとトップ画面から項目を見た感じ、PCのネトゲの公式サイトと代わり映えしない。
そりゃ変わり様が無いのかもしれないけど、初のVRMMOなだけに何処か期待していたんだけどな。
何故だか裏切られた気分になっていると、バスが駅に到着した。
続きはホームで電車を待ってる間かなと、私は携帯端末をしまいこんで歩く事に集中する。
しかしその考えはホームに降りて、後回しにされるのだけど。
「あ、めぐ、おはよー」
「理恵、おはよう」
ホームに降りると、幼馴染の理恵が“珍しいことに”私より先に居た。
「何か失礼な事考えて無い?」
「何の事かな?」
実に勘の良いやつである。
否定したと言うのに、疑り深い目で私を見ないで欲しい。実際珍しいのだから仕方ないじゃない。
「? 何かいい事あった?」
疑り深い目を向けてきていたと思ったら、不意に目をぱちくりさせてそんな事を言ってきて驚いた。思わず顔に手を当ててしまう。
「え、そんな分かりやすい顔してた?」
確かに兄から待ち望んだVRMMOを聞かされて、内心パラダイス状態だとは言え、簡単に指摘される程浮かれてはいないと思っていたのだけど。
「クラスメイトでも察する程には、あ、何かご機嫌、ってわかるね」
「何時もの“幼馴染だからね”を超えちゃうかー」
「で? で? 何があったのよ?」
何やらニヤニヤとした笑みを浮かべて詰め寄ってくる理恵に、私はどうしたものかと視線を泳がす。
「えっと、その、待ち望んでたゲームが発売されまして……」
途端、理恵が浮かべていたニヤニヤ顏がスッと抜け落ちた様に真顔になる。その変わり様はちょっと怖いです。
「ゲーム?」
「う、うん、ゲーム」
「……かぁ〜! 裏若き乙女がゲームで喜びますか! もっと甘酸っぱい感じなのは無いの!?」
「理恵、ちょっとおっさんくさい」
「だまらっしゃい! めぐが嬉しそうな時ってゲームばっかりじゃない!」
理恵には、私がゲーム好きになっている事は当然知ってはいるのだけど、理恵が言った通りなので、ちょっと恥ずかしくて言いにくい。
「そういう理恵は何か無いの?」
「私はめぐのお兄さんに恋してる」
「幼馴染で同級生のお姉ちゃんとか勘弁して欲しいかも」
「結果マジだよー」
互いに小さく笑い合う。何時ものやりとり。
兄をイケメンと言ったのは、何を隠そうこやつだ。確かに顔のパーツは整ってはいると思うけど……やっぱ家族だとわからないものである。