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ぐぬぬ…

 私は周りを見渡して、近くに人が居なかったことに胸を撫で下ろす。遠くの方に人影は見えるが、戦闘中の様だし私の声を気にかける余裕は無い筈だ。……たぶん。


 気にしても仕方が無いので気を取り直し、私は光芒の元にしゃがみ込んで草のオブジェクトに目を向ける。


 花や茎はないけど、やっぱりどう見てもデザインがタンポポのそれである。根がどうなってるか気になる所だ。

 ともかく、コレが採取できる物なのか確認してみるとしよう。

 私は人差し指を立てると、草のオブジェクトを二回突っついた。すると、極小さな鈴の音と共にウインドウが現れる。


 《自動採取を行いますか?》


 その言葉の下にはYesとNoの選択肢。どうやら採取物なのは確かみたい。その選択肢に、私は迷うこと無くYesを押した。

 手作業で採取するのも試すつもりではあるけど、まずはコレの全体の形や何のアイテムかを知っておきたい。


 Yesを押すと、草のオブジェクトの上に丸い縁取りの絵が表示される。それは葉っぱとシャベルが描かれた絵で、その縁をなぞる様にケージが増えていく。その途端に行動制限が掛かり、首から下の自由が効かなくなった。


「おぉぅ……すっごい違和感……」


 この行動制限は、採取中は無防備になるという仕様にする為の物で、Mobに攻撃される以外に解除されることは無い。手作業だと行動制限は掛からないから、時と場合で使い分けたらいいんだろう。


 それにしても、身体が動かないと背後が妙に気になってくる。VRじゃなかったらグリグリ視点動かすんだけどなぁ。

 まぁ、公式情報によると自動採取の時間は五秒なので、そこまで気にしなくても良さそうか。実際、もう終わるし。


 ジッとケージが絵の縁をなぞり終わるのを待ち、少しワクワクしながらどうなるか先を見届ける。


 《思ったより根が深かった様だ……。》

「ありゃ?」


 絵があった場所にそんなインフォが表示された。草のオブジェクトに変化は無い。どうやら失敗したらしい。


 まぁ、〈採取〉のレベル1だし、最初はそんなものなのかな。


 もう一度と、再び草オブジェクトをタップして自動採取を試してみる。そして待つ事五秒。


 《うまく引き抜けなかった……。》

「むぅ……」


 引が悪いなぁと思いながら、もう一度試す。


 《引き抜く手が滑ってしまった……。》

「ぐぅ……」


 インフォの内容がやりきれないが、もう一度試みる。


 《力み過ぎて千切れてしまった……。》

「わっ! ぁ、大丈夫なのか……」


 驚いたけど、草オブジェクトはまだそこにある。もう一度だ。


 《失敗続きでボロボロになってしまった……。》

「ぁ……」


 そのインフォが表示されると共に、草オブジェクトは散る様に消滅してしまった。

 最初のワクワクを返せこら。


「ぐぬぬ……」


 もうこうなったら意地でも自動採取を成功するまでやってやる。

 私は黙ったままその場で立ち上がり、近くの光芒へ猛然と走り寄る。途中にウサギが居たけど、そんなん無視だ無視!




 ◆◆◆




 わかった事が二つある。

 まず一つは、自動採取で失敗した際にオブジェクトが消滅するのはランダムな事。一回目の失敗で消滅する事があれば、六回ぐらいまで消滅しなかった時もあった。

 二つ目は、ノンアクティブなMobでも近寄ると威嚇してくる事。攻撃をしてくる様子は無かったから無視し続けていると、威嚇をやめて私から意識を外すのも確認した。


 勿論そうなったら経験値にさせていただく。抜剣からの即時にアーツ〔スラッシュ〕で一撃な為、大変美味しゅうございました。

 武器を変えるとこうも威力が違うのかって感じだ。まぁ、一撃なのはウサギだけだったけどね。

 と、こんな情報が集まりつつ、私のレベルが3となった。採取はいまだ成功していない。


「なんでだー……」


 遣る瀬無さを盛大に詰め込んで呟き、何回目になるかも分からない自動採取を開始した。

 ここまで成功しないとなると、何か他に条件的なものがあるんじゃないと勘ぐりたくなってくる。

 もしそうだとしてその条件って何よとため息をついて、自動採取の経過を表すケージを見続ける。


「……お?」


 そしてついに、失敗のインフォらしきものが表示されずに自動採取が終了した。


「成功した! ……って、ちょっ、消えたんだけど!?」


 喜んだのもつかの間で、草のオブジェクトが散って消滅してしまった。


「えぇー……なんで……ん?」


 成功したんじゃないの!?と私は慌てたが、オブジェクトが散った場所をよく見ると、葉から根まである草が一房添えられる様に落ちていた。

 それは、先程まで地面に生えていた草オブジェクトと同じ形をした葉をしていて、私はすぐに自動採取によって採取したアイテムだと気づく。


「なんて紛らわしい」


 慌てた私はなんだったんだと苦笑を浮かべつつ、それを手に取って眺める。根の形も主根と側根と、花があったら完全にタンポポだこれ。

 ともかく、WAO始めてから初の採取物だ。失敗続きの苦労もあって、嬉しさに表情が緩むのが自分でもわかる。

 早速これがどんなアイテムか調べようと、私はタンポポ擬きを注視し始める。それをシステムが認識し、〈識別〉アビリティの効果が現れる。


 《【陽光草】:素材アイテム

 ランク:1 品質:D

 数ある薬草の一種で、もっとも身近な薬用植物である。

 葉には回復力を高める効能があり、回復ポーションの素材として古くから使われている。非常に苦いがそのまま食べることで傷を癒す事もできる。

 根は栄養価が高く、葉よりも回復の効能があるのだが、害のある毒成分も含まれる為に使用する事はできない。》


 どうやらこのタンポポ擬きは陽光草という名前みたいだ。ランクは1~10まである内の最低ランクで、品質は最大であるSを除いてA~Eの内でD。プラスとマイナスが付く仕様を考えると大分低めだ。

 まぁ、ランクは一番最初の街の近くに生えてる物だし仕方ない。品質はアビリティのレベルを上げたり、手作業で頑張れば上げられるかな?

 形を覚えたら次は手作業で挑戦してみようと、陽光草を眺めていると、


 《【陽光草】の情報が素材図鑑に乗りました。メニュー欄にあるブックから確認できます。》


 というインフォが表示された。素材図鑑?

 そんなものあったっけと思いつつもメニューを確認すると、確かにブックという項目がある。タップして展開してみると、エネミー図鑑、素材図鑑、武器図鑑などといった項目がずらりと並んでいた。操作やメニュー等の情報は公式サイトを見て確認してたけど、どうやら見落としてたらしい。


 試しに素材図鑑を開いてみると【陽光草】だけしか項目はない。他の部分はすべて無記入で、まだ判明してない事を表す「???」すらなく少し寂しい有様だった。


 これはいくつ判明してないか逆算できないようにする為なのかな?【陽光草】しかないし、とりあえずコレ見てみようっと。


【陽光草】を選択してみる。先ほど<識別>よって表示された名前と説明文が表示されて、ランクや品質などの情報はなかった。先ほどのインフォのタイミングと合わせて考えてみると、図鑑はアイテムの名前と説明が判明したら埋まると考えてよさそう。

 これは図鑑を埋めていくというのも楽しいかもしれない。見たことがないアイテムを見かけたら、積極的に識別していこう。


 さて、根の長さも分かったし、手作業で採取してみるなかな。


 手に入れた陽光草をインベントリにしまうと、効果が切れていた〔ポイントサーチ〕を再使用し、近くの光芒まで駆け寄る。近い距離でも走ると〈疾駆〉が上がるんだよね。


 お? 名前が出る様になってる。


 光芒の元でしゃがんで陽光草を覗き込むと、人の名前と同じ感じに草オブジェクトの上部に名前が表示された。


 んー……近寄らないと表示はされないか。


 離れた位置にある光芒を探し、その元にある陽光草を凝視するも、名前が表示される事はなかった。距離があると駄目な様だ。


 もしかしたら、これで〈探索〉無しでも探せる様になってるのかな?そうだとすると〈識別〉は必要になる訳だけど……。


 私は少し考えこむ。


 うーん、別に〈識別〉無しでも大丈夫になってそうな気もするんだよなぁ。

 怪しいのは図鑑だけど、識別しなくても埋める方法って無いんだろうか。例えば人に聞くとか本を読むとか……あ、なんかそのまま図鑑とかありそうな気がしてきた。


 自分で自分の考えに肯定し、街に戻ったら探してみようと心に誓って意識を戻した。

 街探しは日が落ちて戻ってからでいい。今はまず陽光草の採取とクエストを消化してしまおうと意気込む。

 そして、目の前の陽光草を掘り返そうとして私は固まる。


 道具とか用意してなかった……。短剣でも大丈夫かな?


 街に戻ったら採取に使えそうな道具も探そうと誓い、私は腰の短剣を一振り抜き取ると、シャベルを使う感覚で地面に突き刺した。

 流石に根元まで突き刺さるなどといった事は起きなかったが、確かな手応えに私は行けそうだと思い土を掘っていく。


 確か側根の長さがあったから、少し広めに……。


 インベントリにしまった陽光草の形を思い出しつつ掘り続け、暫く辺りに土を掘る音だけが響く。

 陽光草の周りを広く掘り終わると、短剣の柄頭で根元の土を叩いて崩していく。崩れた土は硬くもないので手を使って除けた。

 手が汚れたりするのかな?と思ったが、そういったことは無い様で、土の感触はしても汚れないといった不思議な体験が出来た。


 なんか芋掘りみたい。


 いつかに体験した芋掘りを思い出して、私は無性に楽しくなってくる。汚れを気にせずに土に触るというのも何年ぶりだろうか。


「よいしょよいしょと……」


 しゃがんだ状態だと深く掘りにくくなってきたので、今は地べたに座り込んで棒倒しの様に周りの土を掻き出している。

 衣服も汚れること無いからできる事だけど、なんだか凄く子供に戻った気分。

 意気揚々と掘り進み、後は引っ張っても抜けそうな所まで来た。だけどここまで来たなら最後まで丁寧に掘ってみようと、私は身を乗り出して根元に手を伸ばす。


「採れた!! わぷっ」


 少し手惑いながらも掘り終わった。私は思わず陽光草を掲げ、根に着いていた土を顔に浴びてしまう。

 反射的に顔を振るい土を払おうとするも、どうやら採取が終わったと認識されると消える様で、目の前の穴も綺麗に戻っていた。


 でもなんか髪に砂利が混じってる気がする……。


 気の所為だとわかっているが、気持ちを切り替える為に肩などから土を払う動作をする。髪も一旦フードを外し、フルフルと頭を振るって被り直した。


「さて、品質はどんなものかなぁ」


 一通り土を払う動作をして満足した後、私は掘り出した陽光草に識別をかける。


 《【陽光草】:素材アイテム

 ランク:1 品質:B-

 数ある薬草の一種で、もっとも身近な薬用植物である。

 葉には回復力を高める効能があり、回復ポーションの素材として古くから使われている。非常に苦いがそのまま食べることで傷を癒す事もできる。

 根は栄養価が高く、葉よりも回復の効能があるのだが、害のある毒成分も含まれる為に使用する事はできない。》


 品質がBになってる!


 私は嬉しさに小さくガッツポーズをとった。

 マイナスは着いているけど、ちゃんとした道具を使わずになのだから、これは十分な結果だろう。

 これは記念に取っておこうと、大事にインベントリにしまい込む。と言うのも、当分手作業で掘らないつもりだからだ。

 〈調合〉アビリティのレベルを上げたいから、この後は複数手に入る可能性がある自動採取で採取していく予定である。

 ……まぁ、あの失敗がずっと続いたら、適当に手作業で掘る事になりそうだけど。


「〈採取〉のレベルも上げなくちゃなぁ……」


 先は色々と長い。

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