隠したいの
ギルドハウスを後にした私は、マップを表示させてメルトレレスの街並みを眺めて行く。
マップを表示しながら見て行くと、海に沿って北と南に細長く伸びた街のつくりをしている事に気付いた。
おっと、あの看板は宿屋かな。チェックしとこう。こう見てると、北側に売買目的の店や居住区があって、南側は広場を中心にギルドハウスとかの施設がある配置になってるんだなぁ。
行く先に他のお店もあるのかなぁと、マップ片手にキョロキョロ辺りを見る姿は、傍から見たら完全にお上りさんである。
そんな感じで歩いて雑貨屋らしき店を見つけたすぐ後、教えてもらったお店に到着した。
どうやら布製や革製の衣類などの軽装な物を売ってるお店の様だ。店の彼方此方にそういった物が展示してあり、店内にチラホラといる杖や弓を持っているプレイヤーが吟味している。その中にはフードが付いたローブを着ているプレイヤーもいた。
それを見て、入り口に立っていた私も品を見るプレイヤーの一部に加わる。
うーん、ローブは動き回るには邪魔くさいから、もっと短い...ケープみたいなの無いかな。最悪マントでも良いけど、形によっちゃローブと変わらないからなぁ。
プレイヤー達の合間を縫って展示されている品を眺めていくが、お目当ての物が中々見つからない。なんか、心なしか品数が少ない気がする。
所々に空きがある店内に首を傾げながら奥に進んで行くと、隅の方にそれらしき物を見つけた。近寄って行き手に取る。
《レザークローク。(フード無し)
防寒、防塵を目的とした羽織り物。防水には適さない革なので、防水には期待出来ない。》
フードが着いて居ないし丈が長い。体を覆いすぎて動き回るには不向きそう。
一つ隣の丈が短い方を見てみる。
《ポンチョ。(フード無し)
防塵、防風を目的とした羽織り。防水も期待出来るが、フードも無く丈が短い為に意味を成しにくい。》
へぇ、ポンチョなんてのもあるんだ。でもフード着いてないや。他にも丈の長さが違うのが幾つか有るけど、どれもフードが着いてないなぁ。
「何を探してるのー?」
フード付きの物が全く無くてどうしようか唸っていると、突然後ろから声をかけられ肩が跳ねる。
……なんか私、このゲーム始めてからこんなんばっか。
「驚かしちゃった?」
「いえ、大丈夫で──」
慌てて振り返って声を元に目を向け、私は驚きに目を見開き数回しばたたかせる。声をかけてきた人は、私よりも小さな女の子だった。
表示されたマーカーの色は緑。つまり少女はNPCだ。 能動的にNPCが話し掛けてくると思ってなかったから、面食らってしまった。
「外套探してるの?」
このお店関係のNPCなのだろうか、後ろに陳列されている品を覗き込みながら少女が聞いてきたので私は頷いた。
「どれにするか悩んでたの?」
「フード付きのを探してたの。でも、どれも無くてどうしようかなって」
「フード付きなら、もう売れ切れちゃったよ」
「え! それ本当?」
コクリと頷く少女。そんな事を知ってるなんて、やっぱりお店関係のNPCなのは確かなようだ。
それにしても、売り切れとは困った。もしかして、これも一つの品薄状態なのだろうか。回復アイテムだけだと思ってたら、思わない所まで影響があったとは。
「フード無くても、ここらへん雨降らないから大丈夫だよ!」
難しい顔でどうしたものかと悩んでいたら、購入しないと思われたのか少女が慌ててセールストークをしてくる。
少女の慌て様に苦笑しそうになるも、それより気になる情報を口にしていたのが気になった。
「ここって雨降らないの?」
「うん、全然降らないよ! 海が静かだから港が出来たってお父さんが言ってた!」
メタな事を言えば、最初の街だからシステム的に悪天候にはならない設定にしてあるって事なのかな。逆に、街から離れたら雨も降る事になる訳か。
どちらにせよ、私がフード付きを欲しがる理由は雨じゃないからなぁ。
「綺麗なのに隠すの?」
欲しがる理由を少女に言うと、物凄く不思議そうに首を傾げられた。てかNPCにまでそんな評価なんか、これ。
「周りの人に凄く見られるから、隠したいの」
少女はキョロキョロと周りを見回して、
「本当だ! 皆お姉ちゃんの事見てるー!」
無邪気に楽しそうな笑みを浮かべた。その声量は中々のもので、此方のやり取りを見ていたプレイヤー達が場が悪そうに視線を逸らしていく。
無邪気な子供パワー恐るべし。
「たがらフード付きが欲しいんだ」
「わかった!」
きゃっきゃと楽しそうな少女に、私は苦笑いを浮かべながらそう締めくくると、ガシッと少女に手を掴まれた。
え?何?
「こっちきてー」
「え、ちょっ!?」
突然の事に反応が追いつかないまま、少女に手を引かれて店の奥へと連れて行かれる。
ぁ、ちゃんと奥も作られてるんだ。
少女の手を無理矢理振り払う訳にもいかず、私は流されるまま場違いな事を思った。
「お母さーん!」
「どうしたの? お店で何か──あら?」
「ど、どうも……」
少女のお母様ご登場です。ってか、なんだこの展開。
「すみません、ミミルが何か問題を?」
「何もしてないよ!お母さんにお願いがあって連れて来たの!」
少女が何かしでかしたと思ったのか母親が私に頭を下げ、ミミルと呼ばれた少女が怒った様に声をあげた。
別に名前は本人に教えて貰わなくても問題ないらしい。ミミルという名前が少女の頭上に表示されている。
「あら、そうなの?」
「私ちゃんと店番してたもん!」
ミミルは腰に手を当ててそっぽを向いてしまう。今にもプンスカという擬音が聞こえてきそうだ。
まさに怒っていますと言わんばかりの仕草が逆に可愛らしく、私は小さく笑う。
とりあえず、こうなった訳を母親に説明するとしよう。
私はそう思い、一歩前に出た。
◆◆◆
「そうしたらここに連れて来られまして……」
「なるほどね」
自己紹介をしてセラと名乗った母親は、私の説明を聞いて合点がいったと頷く。そしてニッコリと笑みを浮かべた。
「メグルちゃん、運が良いわね。ミミルも今朝言ったこと良く覚えてたわね」
運が良いとはどういう事なのだろうと私は首を傾げ、母親に褒められたミミルはくすぐったそうに笑う。
「実は今朝方に船が着いて、色々売り切れていた物の仕入れができたのよ」
……その船って、もしや私が乗って来た奴では。
「それの用意でお店をミミルに任せていたの」
「お店に出てないけど、フード付きあるでしょー?」
「えぇ、あるわよ」
それで私を奥に連れてきたと言う訳なのね。
でも買えるのだろうか? 回復アイテムは1日の販売数が決まっているとか聞いたけど、他のもそうではないのかな。
「全然構わないわよ。それに、ミミルに連れて来られて駄目なんて、メグルちゃんに悪いもの」
購入出来るが聞いてみると、笑顔で普通にOKを貰えた。販売数とはなんだったのか。
ま、買えるならなんでもいいや!私は結構現金な奴なのです。
「じゃぁ───」
私の要望を聞きながらセラさんが幾つかの外套を出していき、そこから直接見て触って数を絞りこんでいく。
ケープとポンチョのどちらにするか悩んだものの、実際に着てみてケープにした。ポンチョは意外と丈が長めで、剣を振るうには邪魔になりそうだったからだ。
後は大き目のクロークを一着。これは悪天候用に買った物。マントは良くある背中側でバッサバッサする形だったので、スッポリ体を覆うクロークにした次第である。
色は両方ともくすんだ灰色だ。防水性のある皮がこの色という話なので、そこは仕方ない。
ニュービーの服と合わせると若干浮いていたので、セラさんに衣服も見繕って貰う。軽鎧ぐらいは装備する予定なので、鎧の下に着れて、さらに丈夫なものにしておく。
締めて四万六千でした! クロークが高かった! 防水性があるとそんなものらしいので我慢である。
残り三万四千な訳だけど、防具一式買えるか微妙すぎる。
それでも悪くない買い物だったので、良い気分で親子に別れの挨拶をして笑顔でお店を出た。
ギルドで道聞くのに1頁。外套買うのに1頁。
驚きの進行速度である。




