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これは酷い

 妄想に熱中していたヴィーツさんを正気に戻し、私達はウリ坊を探して辺りを移動し始めた。しかし、それからが長かった。


 時間がゴールデンタイムになって先程よりも人が増え、街道付近にフリーの敵性Mobが全く無いのだ。


 比較的近くにポップする事もあるが、私達だけではなく他の人も近くにいて、下手に手を出すと取り合いや横殴りになりそうになる為、手が出せないでいた。


 実際に、何処かでアクシデントでもあったか罵詈雑言が聞こえてくる事もある。


「こりゃ駄目だな。街道離れた方が賢明だわ」

「そうだね。三人だし狼が出ても不安は無いし、そうした方が良さそうだ」


 二人の言葉に私達は街道付近を離れて、狼が出現すると言う方へと足を向ける。


「それにしても凄い人集りだね。同じ場所にこんな人がいると、/ch(チャンネル)移動したくなるよ」


 ヴィーツさんは「確かにな」と私の言葉に苦笑しつつも同意し、シキはどうしてこれ程人が集まるのか教えてくれた。


「回復アイテムを使わずに経験値を稼げる場所が、ここしか無いから仕方ないんだよ。回復魔法が使えるとPT組んで森行くし、街道を離れ過ぎると狼が出るからね」

「狼ってそんなに強いの?ウサギとウリ坊が大丈夫なら怖くない敵なんでしょ?」


 ヴィーツさんとシキは顔を見合わせると、お互いに少し難しそうな表情を浮かべて唸り出す。どうやら言葉だけのニュアンスでは伝わりにくい事があるようだ。


「さっき言ったが、狼は足して二で割ったような動きなんだけど、その動きのパターンは全く違ってな。VRでの戦闘慣れしてる奴は平気だろうが、じゃなければ翻弄されて死に戻りだろうな」

「それに慣れてても無傷は難しいだろうし。なにより狼はアクティブだから、リンクや連戦になり易くてソロだとちょっとね」


 説明を聞いて「なるほど」と私は頷いた。


 ウサギとウリ坊は言わばチュートリアル用、狼は実戦用で、AIが大分違くて戦い易さが違う感じだろうか。それになによりも、狼がアクティブなのが厳しい所と思われた。


 目の前の敵と戦っている場所に、いきなり横や後ろから攻撃されるのだ。ただでさえ、VRゲームでの一人対多人数は高難易度と言うのに不意打ちを受けたら持ち直しは難しいだろう。


 そしてそういった理由で人が寄り付かなくなり、更にフリーの敵性Mobが増えてリンクし易くなる。酷い悪循環だ。


 だけど逆に、人がいなくて周りに気を使わなくていい狩場な訳で、上手く〈調合〉で回復アイテム作れたら無茶するのも有りかなと頭の隅で考える。


「少数のPTでも、ちゃんとした盾役がいれば自然回復でやっていけるし、結構美味しいんだけどな。上手い人は森のPT行くから、野良じゃ正直微妙なところなんだよ」


「じゃぁ、今居る人達って身内なのかな」


 街道から離れた場所で点々と居る数人の集まりを見ると、和気あいあいとした雰囲気で戦闘をしている。


「だろうな。そう言う俺達もいい例だろ。盾役もしっかりいるしな」


 ヴィーツさんは不敵な笑みを浮かべながら、親指を立ててシキを指した。指差されたシキは苦笑しつつも「任せてよ」と頼もしいセリフを言いつつ盾を掲げて見せた。



 ◆◆



 その後、狼にターゲットされることも無いまま運良く近くにウリ坊がポップしたので、私は二人が見守る中戦闘を開始した。


 そして、二匹目のウリ坊を倒した私は、肩で激しく息をしながらうなだれている。


 ウリ坊に苦戦をした訳では無く、アーツを連発した事によるスタミナ切れであり、戦闘自体は非常に緩いものだった。それはもう、非常に。


 と言うのも、ヴィーツさんが言った通りウリ坊の攻撃は真っ直ぐに突進してくる物だったのだが、その突進が本当に“ひたすら真っ直ぐ”な突進なのだ。


 どれだけ距離があろうと、私がたった一歩横にずれ様たとしても、走り出したウリ坊は全く軌道修正をすることも無くその道を直進していった。


 結果、走り出すのを待ち、走ったら横にずれてタイミング良く剣を振り下ろすという作業ゲーが始まった。まなじタフなのが更に作業感に拍車をかけていて、思わず「これは酷い」と呟いてしまったのも仕方ないと思う。


 とはいえ、確かにパワーはあるらしく、試しに突進を打ち返すかの様に剣を振った時、振り抜く事が出来ずに引っ張られて互いにダメージを負う事があった。この事を鑑みるに、ウサギは速さに対する防御でウリ坊は力に対する回避の重要性を伝えるチュートリアルMobなんだろう。


 若干ウリ坊の回避のし易さが異常な気もするけど、余裕があるならとスタミナ消費の感覚を掴むために、二匹目はアーツを試して倒したのが今というわけだ。

二回消えて泣いた。

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