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そゆこと

時間をかけて、一頁の文字数増やした方がいいのだろうか。

 怒鳴られるとは思っていなかったのだろう兄は、浮かべていた笑顔から少し驚いた風に目を見開き、眉を八の字にして困った様に苦笑いを見せた。


「そんなに遅たかった?」

「ぅ……言うほど遅くないけど、周り見て察してよ……」


 怒鳴る程待っていないのは私自身よくわかっていた為、兄の質問に言葉を詰まらせる。


 だけど心情的には、怒鳴らずにいられないのだ。


 兄の出現と私の怒声で周りの視線は更に集まり、私をNPCだと思っていた人達はざわつき始めている。


 そんな周りの様子を、兄は気負う様子も見せずに一瞥し、小さくため息をついた。


「確かにこんな事になってるなんて思わなかったよ。タクの事なんて放って、すぐこっちに来ればよかった」


 兄の口から出た“タク”という名前に、私は誰だろうと首を傾げる。


「とにかく、一旦此処から離れよう」


 名前の相手を誰何する暇もなく、兄は私右手を掴み歩き始める。


 私もここに居続けたくないので、抵抗することも無く兄に手を引かれて後を追い始めた。


 その際、感じていた視線のプレッシャーが少なくなっているのに気づき、私は不思議に思って辺りを見回す。


 人の数は変わっていない。顔の向きも此方を向いている。

 ただ、その視線の多くが兄に向かっている事に気づいた。それも、好奇の目だ。


 何故兄がそんな目で見られているのか不思議に思いながら、私は手を引かれたまま、前を歩く兄の後ろ姿を見つめてこの場を離れた。


 係留施設を離れ、様子が窺えなくなるまで私達を見つめる視線は続いたが、その後はパッタリと感じる事はなかった。


「何処までいくの?」


 視線を感じなくなっても歩く兄に問いかけると、兄は進む先を指差しながら口を開いた。


「もう少し行くと街の中央で広場になってるんだ。そこにベンチがあるし、タクも待ってる」

「そのタクって、おに──シキのフレンド?」


 危うく何時もの様に呼びそうになり、慌ててアバター名で呼びなおす。


 これは咄嗟の時、思いっきり“お兄ちゃん”と呼んでしまいそうだなぁ。


「そうだけど、明来も知ってる相手だよ」

「ちょっとお兄ちゃん、今、素な感じで名前呼ばなかった?」

「明来こそ、何時もの呼び方になってるよ」


 普段の呼び方をした時、圧倒的に私が不利だこれ!


「私の名前は四季メグルだからね!」

「聞いてるだけじゃ気にならないよ」

「私が気になるの!」


 能天気に笑いながら進む兄に、私は憤慨しながら繋いだ手を揺さぶる。されるがままに笑う兄に、本当にわかっているのか不安になる。


「で、私が知ってるってどういう事なの? 今日始めたばかりで、知り合いなんていないけど」

「アインツは数にいれてあげないのかい?」


 いや、あの真っ白けAIを知り合いの枠にいれるのは、些か抵抗があるというか。出会いを無かった事としたいというか。


 目を逸らして何も言わなくなった私に、前を向いて歩いていた兄は不思議に思ったのだろう。

 顔だけを動かして私を窺い、私の様子を見て苦笑を浮かべた。


「彼女をそんな邪険にすること無いと思うけどなぁ」

「え、アインツって女性なの?」

「……食い付くのそこ?」


 だって普通に気になるんだもの。見た目からも声からも判断し難いし、性別がない特殊アバターなのかと思ってた。


「女性らしいよ。母性や父性の話題になった時、本人がそう言ってた」

「……」


 いったい何がどういう流れになって、システム管理AI相手に母性と父性の話題で話すことになるんでしょうね。謎です。


 いやでも、AIから見たらそういう話題って重要なのかな。なんか、ほら、真に人間らしくなる為にみたいな。


「ほら、見えてきた」


 どうでもよい事を考えていたいると、兄がそう言いながら正面を指差した。


 兄が指差した先は確かに広場となっているらしく、中央に大きめのちょっとしたオブジェが存在していた。


 その周りにベンチが設置されており、うち一つに座っている男性が手を振っている。


「あの手を振ってる人?」


 兄が頷いたのを確認し、私は再び手を振ってる男性を確認する。


 兄より軽装の鎧は身体の特別弱い場所を守る様な物で、防御力より機動力を重視している印象を与える。

 しかし、ベンチ横に立て掛けてある身の丈もありそうな大剣を見ると、せっかくの機動性を無駄にしている様も見受けられた。


 その髪は赤く、少し長めのウルフヘアでセットされており、瞳の色もまた赤であった。


 うん、知らない人だ。

 あ、でも、あの顔の角付きはスキャニングアバターじゃない。となると、中の人が知ってる人なのかな。


 タクという東洋風な名前の割には西洋風な顔つきのアバターに近づくと、向こうから声をかけてきた。


「おー、無事合流できたみたいだな」

「タクのせいでメグルに怒鳴られたよ」

「タクじゃねぇ! ヴィーツって呼べっつってるだろ!」


 驚き弾かれた様に兄を見る。

 もしやこの兄、アバター名ではなく本名呼びしてるのか。


「って、シキがタクって呼んでるって……もしかして拓篤さん!?」

「おう! 久しぶりだな、明来ちゃん」


 私の驚いた声に、拓篤さんが入っているアバター、ヴィーツが朗らかな笑みを浮かべた。


 目の前にいる拓篤と言う男性。彼は兄の幼馴染であり、良く連んでいた唯一無二の親友(拓篤さん談)である。


 連んでいたと過去形なのは、県違いの大学の為に実家を離れて住む事になり、早々に会うことが出来なくなったからだ。


 本人が言った通り、非常に久しぶりの邂逅だ。


「拓篤さんもWAOやってたんだ」


「そりゃVRMMOって聞いたらやらずにいられないだろ! てかヴィーツな、ヴィーツ。明来ちゃんは?」


「……四季メグル。漢字で四季にカタカナでメグル」


「……大丈夫かそれ?殆ど本名じゃねぇか」


 始めて同じ感性の人に出会った!


 嬉しさのあまり、思わず両手で握手しようとしたが、いまだ手を掴む兄に引き寄せられて出来なかった。


「何?」

「いや別に」

「……相変わらずだな、お前」


 私の疑問に、兄は素知らぬ顔頭を振り、それを見た拓篤さんが呆れた風にため息をついた。


「それにしても、メグルちゃん大変だっっただろ」


 何の事かと首を傾げると、拓篤さんは「ほら」と私達がきた道を指差した。


「船から降りる時、すっげぇ人いただろ?」

「あぁ、うん。凄い見られて、もうログアウトしてやろうかと思った。なんなのあれ?」


 私の言葉に「ログアウトは宿屋内とかじゃないと危ないけどな」と、拓篤さんは苦笑をして続ける。


「あそこに停泊してる船な、新規プレイヤーがWAOにINすると出港していくんだよ。それに気付いた奴らが、クランメンバー確保に集まったんだろうな」


 クランと言うのは、WAOのコミュニティコンテンツの一つで、他のゲームであるようなギルドとかとコンテンツの内容は一緒だ。


 WAOには、プレイヤーが利用出来る施設にギルドというのがあるから、そういったコミュニティコンテンツの名前がクランになったんだろう。


「船の事はなんとなく察してたけど、それだけであんなに集まるものなの?」

「あ?そんな人いたのか?」


 説明を聞いても腑に落ちない私に、拓篤さんは意外そうな表情で兄を見た。


「かなりいたよ。レイド組むどころか、ユニオンも組めそうだったよ」

「ハァ? なんでそんな人が...」


 拓篤さんもその人数は予想外だったらしく驚いた表情を浮かべた後、「あぁ」と独り言る。


「それ、もしかしてあれかもな」

「あれ?」

「新規が来るとアイテムも一緒に輸入されてくるんだよ」

「確かに荷下ろしみたいな事はしてたけど……」

「あれフレーバーじゃなく、本当にアイテムの荷下ろししてるんだぜ」

「それが人集まる事に関係が?」

「掲示板とか見てないか? 今プレイヤー間でアイテムが枯渇してて、一日にNPCが販売してる量も決まってっから、買い占めや転売が横行してるんだよ」


 掲示板は見ていたけど『転売野郎マジうぜぇ』みたいな明らか罵声なレスは覗いていないので知らなかった。


「おかけで慢性的な物資不足なわけで、輸入されてきたアイテムを我先に手に入れようと人が集まってるんだろ」

「そんな理由で人が集まって、私は見られまくったの……」

「ただでさえ注目されそうなアバターだもんなぁ」


 人集りの理由を知った私は辟易した様に肩を落とし、拓篤さんは堪える様な笑いをあげた。


「やっぱりこの銀髪目立つ?」

「まぁ、そこまで綺麗に設定できてる奴なんてそういないからなぁ。それに、顔がスキャニングアバターなのもでかい」

「そっか、スキャニングデータ作るのって結構お金かかるもんね」

「いや、そうじゃなくてな……兄も大概だけど、妹も相当だな……」

「?」


 はて、呆れた様にため息をつかれましたが何故だろう。兄妹揃ってスキャニングしてる事に呆られたのかな。


 私がスキャニングアバターをそのまま使う理由を拓篤さんは知ってる筈だけど、兄もしてたからな。ぶっちゃけ私も知らなかった。


「まぁいい。とりあえずフレ登録しようぜ」


 すぐ移動したので兄とも登録はまだなので、拓篤さんの提案を頷く。


「……いい加減手を離してくれない?」


 この兄はいつまで人の手を掴んでいるつもりなのか。

 ジト目で兄を見やると、兄は無表情でジッと私を見ていた。正確には、私の───。


「……お兄ちゃん、手」

「あぁ、ごめん」


 兄は短く謝ると、すぐに手を離してくれた。

 そんな私達を、拓篤さんが気まずそうな顔で見ていたのに気付き、私は苦笑いを浮かべた。


「じゃ、全員のフレ登録しちゃおうか」

「……だな」


 離してもらった右手の人差し指と中指以外を握って、指の腹を正面に向けて胸元の高さに持ち上げる。


 そして、指先で数字のゼロを書く様にクルリと手首を回し、頂点に戻った所で縦におろす。


 すると、軽快な鈴の音と共にメニューウインドウが手元に現れた。


 もちろんこれは、音声で呼び出す事も可能だ。


 音声の場合は“Call,Menu”と言えば現れる。ただ、結構ハッキリとした声量で発音する必要があり、慣れない人は恥ずかしがる。


 私は現れたメニューの中からフレンド関係の項目を選択していく。


 一番最初のフレンドが身内ってのは味気ないけど、まぁMMOあるあるだよね。


 などと思いながらフレンドリストを表示した時、インフォも表示された。


 始めて開くし、操作説明のヘルプかな。公式サイトで一通り確認してあるから別に見なくても───


 《【アインツ】さんとフレンド登録がされました。》


 私はフレンドリストをそっと閉じた。


「……」


 落ち着け、落ち着け私。はい、深呼吸して、気を落ち着かせてフレンドリストを確認しましょう。きっと見間違いたがら。


 改めてフレンドリストを表示する。

 そこには、輝かしき第一番目のフレとしてアインツの名前があった。


 なんで!? いつ登録された!? そんなそぶりなかったし、普通、登録相手に承認するか確認くるでしょ!? あいつ管理AIの癖して自分の権限乱用しすぎじゃない!?


 と、内心驚愕の嵐だった私は、はたと正気に戻ってフレンドリストを見つめる。


 そしておもむろにアインツの名前をタップして、


「チッ、消せないしブラリも駄目か」

「は?」

「なんでもないよ。さぁ、登録しちゃお」


 アインツのフレンドリストは見なかった事にしよう。使う事も早々ないだろうし。

 まぁ、バグ見つけた時ぐらいは、ありがたく使おうかな。


 《【シキ】さんとフレンド登録がされました。》

 《【ヴィーツ】さんとフレンド登録がされました。》


 二人に飛ばした登録申請が承認され、それを知らせるインフォが表示された。それと同時に、二人の頭上にキャラクターネームが表示される。

 どうやらフレンド登録した人同士だと名前が表示されるシステムの様だ。


「これでよし。二人はこの後なにするんだ?」


 私は一度兄と顔を向けあった。

 待ち合わせはしていたものの、特になにするとは決めていない。


「メグルについていくよ」


 私のどうするかといった思いを察したのか、兄はそう笑みを浮かべて言った。


 どうやら私が方針を決めて良いらしく、兄はそれについて来るようだ。


「盾を買いたいところだけど……お金無いし、クエ受けにギルドかな?」


 特に初心者支援は無いらしく、インベントリの中は空で所持金も無いのを確認する。


「おさがりでいいならあげるよ」

「ぁ、いいの?」

「盾持つのか?」

「別に盾役を目指してるわけじゃないからね」


 なにやら意外そうに驚く拓篤さんに、私は苦笑する。


「自衛用か」

「そゆこと」


 私は頷きながらも、兄から取り出された盾を受け取る。

 あ、これニュービー装備だ。


「お前これ、ニュービースモールシールドじゃねぇか。よくまだ捨てずに持ってたな」

「メグルが使うかと思ってね。下手にレアだと受け取らない気もしたし、丁度良かったよ」


 流石は私の兄、よくわかってらっしゃる。


 スモールと言うだけあってその大きさは非常に小さく、鍋の蓋といっても通じそうだ。勿論その作りは確かで、盾としての性能はちゃんとある。


 受け耐えるより、受け流す目的で盾を持とうとしている私にとって、小さくて取り回しがし易いこの盾はあつらえ向きだ。


「盾も手に入れたし、とりあえずフィールド出てみようかな。」

「ギルドでクエ受けなくていいのか?」

「あれ簡単な討伐系クエだと制限時間あるらしいじゃん。すぐお金欲しい理由なくなったしいいよ。」

「せっつかれるからね、ギルドのクエって。」

「それもそうか。そんじゃ、メグルちゃんがどれくらい戦えるか見にいくか。」

「結構自信あるよー。」

「そりゃ期待だな。」

「危ないと思ったら手助けに入るからね。」


 街中からフィールドにでる為には門を通る必要があるので、私達は中央広場から移動を開始する。

 その間の会話は、勿論ゲームの事だ。


「そういや、メグルちゃんって何のスキルとったよ? 剣しか持ってないし、〈剣〉意外想像できないんだが。」

「草抜きスキルとかポーション作るスキルとか。」

「〈調合〉取ったのか⁉︎チャレンジャーだなぁ。」

「チャレンジャー?」


 挑戦者などと呼ばれる理由がわからず、私は首を傾げる。

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