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遅いよッ!!

 結果から言って、私は入港する時の様子をみるより、船上の様子を観ることに熱中した。


 船長さんは私を出汁にした後、細かい舵を取る為に船首から離れ、私に向かって笑顔を見せていた男達も真剣な表情で持ち場の仕事を始めたのだ。別に放っとかれたわけじゃないよ。


 ともかく、私に気を向ける人がいなくなったので入港の様子を観ようと思ったのだけど、船員である男達がマストを素早く降ろす様や、船長さんの巧みな舵取りで船を接岸させる様等、船上の方が観ていて凄いと思う物が多く、結局船上から視線が動かなかったのだ。


 その為、私は着岸する寸前まで係留施設の様子に気付く事が出来なかった。


「なにこの人集り……」


 係留施設に着岸した船の上で、私は小さく呟いた。


 船長さんの、錨を下ろす者やボラードにロープを括りつける者への指示で、その呟きは掻き消えて答える人はいない。


 目の前に広がる光景。それは、沢山のプレイヤーと思われる人達がこの船を見ている光景だった。


「ぁ、そっか」


 何故こんなに人が集まっているのか考え、一つの予想が浮かび上がる。


 船長さんの話を聞くに、この船は冒険者───新規プレイヤーを港街に送っている。つまり、この船が港街に来たって事は、新しくWAOを始めた人が来たって事と同一だ。


 ただでさえ時期外れな新規参加に、興味本位で見に来たと考えれば───ってまって。ちょっとまって。

 と、言うことはだ。新規に始めるプレイヤーを見に来たこの大勢の中、私は一人降りる事になるの。なにそれ辛い。


 船の上から係留施設の様子が見えていると言うことは、逆に係留施設の方から私が見えると言うわけで、既に何人かのプレイヤーは私に視線を向けている。


「……ここでログアウトしたい」


 INしたら、港街の中央にテレポートしてないかな。


 既に感じる凄い視線に心が折れそうになり、逃避したくなってくる。だってなんか〈感知〉アビリティが何かに反応して、視界の隅にアラートのインフォが出てるんだもん。


「桟橋の用意が出来たぜ、お嬢ちゃん。それにしても大勢での出迎えだな。やっぱりいいとこの出か」


 この後に待ち受ける事に一人暗くなっていると、あらかたの指示をだし終わったのか、船長さんがパイプを吹かしながら声をかけてきた。


「なんですか、いいとこの出って……」

「ん? 違うのか?」

「よく分かりませんけど、船長さんが思ってる様なものじゃないと思いますよ」

「そうか、それは悪かっ───コラァッ!! 客下ろす前に積み荷下ろす奴がいるかぁッ!!」


 船長さんの突然の怒声に私はビクついて、何事かと船上の方に振り返る。


 どうやら、船員の何人かが積み荷下ろしを始めようとしていたらしく、そこには先程までなかった樽や木箱があった。


 この船、貿易船でもあったんだ。


「おっと、悪いな、急に声をあげて」

「いえ、驚いたけど大丈夫です」


 申し訳なさそうな船長さんに、私は気にしてない事を笑顔で伝える。


「そうか、そりゃよかった。ともかく、桟橋の用意は出来てる。船から降りれるぜ」


 笑顔が引きつりました。

 助けてお兄ちゃん。って、そうだ。兄がいるはずなんだ。早く見つけて合流しよう。


 私は小さく気合いを入れて、船から降りる心の準備をする。


 乗る時ならまだわかるけど、降りる時の心の準備ってなんなんだろうね。


「それじゃ、船長さん。ありがとうございました」

「おうよ。達者でな、お嬢ちゃん」


 私は船長さんにお辞儀をし、桟橋へと足を向けて歩く。ここは高低差と縁でまだ視線は通らない。あと数歩進んだら、身を隠す物陰はなくなる。


 迷ったら足が止まると思い、走り歩きの様な勢いで桟橋に足をかけ、


「......ぅぁ」


 猛ダッシュでUターンしたくなった。


 見られてる。それはもう、すっごい見られてる。何に反応してるのか、〈感知〉のインフォが止まらないのですが。何かタゲられてるって事なんだろうけど、街中、それもプレイヤー相手にってなんだろ。


 極力視線を意識しない様に、私は思考をそらして行く。しかし、それも聞こえた声に引き戻される。


「何かイベント?」

「NPC……じゃ、ないよな?」

「ニュービー装備だし違うだろ」

「称号も初期のだな」

「そういうイベNPCかもよ?」


 もしかして、時期外れ過ぎてイベントだと思われて、こんな人が集まった感じなのだろうか。


 期待裏切って申し訳無いのですけど、私プレイヤーです。そんなジロジロ見てもプレイヤーですって。


 桟橋を降りきるまでが、物凄く長く感じる。


 流石にプレイヤーだと分かると思うのに、なんでこんな見られてるのか不思議な───


「プレイヤーじゃないでしょ、あのアバターは」

「俺もああいう銀髪にしたかったわぁ」

「私もあんな綺麗な金髪にしたかったなー」


 銀髪のせいかぁーっ!!


 そういえば、アインツの手で尋常ならざる銀髪にしてたんだった。そりゃ注目集めるはずです。


 綺麗だったからそのままやったけど、現在後悔中。やっぱりズルはいけないよ、ズルは。ズルするとこんな目に遭うよ。


 髪を隠したくなるが、下手に手で髪を隠そうとしたら余計に注目されそうなので、それを堪えて桟橋を渡りきる。


 目の前には、通り抜ける隙間はあるものの、沢山の此方を見るプレイヤー。 この中の何処かに兄がいるはずなんだけど。


 恐る恐る辺りを見回す。見回す際、目が合うプレイヤー達が揃って驚くのに困る。


 あぁ、もう。お兄ちゃん何処だよッ!!


 もう本当にログアウトしてやろうかと思った瞬間、手を上げながら此方に向かってくる人に気付く。


「すみませーん、通してくださーい」


 その声を聞いて、安心して涙でそうになったのは私の一生の秘密だ。


 全体的に身体を覆っているが重装とまでは行かず、柔軟に動ける様にできた鎧に身を包み、兜は被らずにその銀髪をなびかせている。

 その顔つきは、スキャニングアバターを全く弄らなかったのか、毎日見慣れたものだ。


「ごめん、ちょっと遅くなった」


「───っ、遅いよッ!!」


 私は大きく息を吸い、色々な心情をない交ぜにして、目の前に現れたお兄ちゃんを怒鳴った。

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