おはよ
ゲームとは言わないVRだけでも体験したい。
「明来、一緒にVRMMOやろう」
初夏が始まり初め、衣服に少し悩み始める時期。そして目に見えてきた夏休みの月日と、その目前のテストに恐怖する学生。
そんな学生の私にいつもの朝食中、リビングの扉を開け、にこやかな笑みを浮かべて私──春夏秋冬 明来の兄はそう言った。
それはもう、見る人が見たら見惚れる様な笑みなのだろう。友達曰くイケメンらしいし。妹である立場で言うと、まぁ整った顔立ちではあるよねって感想だけども。
「……明来、流石に無反応で食パン食べ続けられるのは悲しいかな」
まるで絵に描いたような困った表情を浮かべる兄。友達曰く母性本能を擽ってヤバイらしい。顔が整っている分、表情による感情表現が分かりやすくていいなって思ってる。
「明来ぅ……」
泣きが入り始めた我が兄。昔はこんなんじゃ無かったのだけど、今言っても仕方が無い。
咀嚼していたパンを飲み込み、手にちぎり取っていたのを一旦皿に置く。
「おはよ」
そして、いい感じに冷めた紅茶を口に運ぶ。
「……おはよう。にいちゃん泣きそうだよ」
肩を落として項垂れる兄を横目に、再びパンの咀嚼を開始する。学生の身分である私には、朝という時間は非常に限られているのだ。
それをみた兄は小さく溜め息を着き、向かいの椅子に座り込んだ。
「母さんは?」
「ご飯作って二度寝。こんな朝早くにどうしたの?」
我が兄は大学生だけど、今日の曜日は朝早くの講習は受けてなかった筈だ。
「明来に早く伝えたくてね」
「……それでわざわざ早起きしたの?」
「オープンが今日からだしね」
我が兄は何かと私を気にかける。仕方が無い事かもとは思うけど、少し申し訳なさが込み上げる時がある。それは全て私の事を考えてだし、実際凄く助かってもいるからだ。私からは何も返せないと言うのに。
とはいえ、今回は物珍しい。
「私がVRのオンゲ、あまり好きじゃないの知ってるでしょ?」
そう、私はVRのオンラインゲームはやらない。その理由も兄は知ってると言うのに誘ってきたのだ。
VRの説明なんて今更、今日VRなんて珍しくもない。技術の発展が目覚しい中、もはや日常の娯楽としてのVRゲームなんて、一番身近な代表例だ。
それは、昔のゲーマー達が待ち望んで止まなかったヴァーチャルでありながらリアリティ溢れるのゲーム世界。もう一つの仮想現実。 だけど、実際にリリースされていくゲームはオフラインかMOばかり。それも、MOは軒並みFPSなどの対人物ばかりだ。嫌いなジャンルって訳じゃないけど、私の趣味じゃ無い。
私がやりたいのはMMORPG。それもファンタジータイプだ。剣と魔法で自由気ままに戦って、疲れたら適当な生産でもする。そんなVRMMORPGがやりたい。
しかし悲しいかな。現実は世知辛さにまみれていたのだ。
とある有名ゲーム会社のインタビュー雑誌に掲載されたこの一言。
『ゲームを問題なく運用できるサーバーの確保が不可能』
流石に実際はもっと暈し気味ではあったけど、要約するとほぼこう言っているのだ。実に悲しい現実である。
そんな訳で私は、VRは定番なオフラインゲームだけ遊び、オンラインゲームはPCの戦闘も生産も出来る物で遊んでいる。だって、戦闘の合間に採取したり、チャットしながら生産したりとかが好きなんだもの。
まぁ、そんな理由で私はVRMOはやらないのだ。
「明来が嫌いなのはVRMOだろ?俺が言ったのはVRMMO。ちゃんと聞いてなかったな?」
「……」
兄が言った事をパンと共にゆっくり咀嚼。そして意味と共に飲み込み、
「嘘!? 出たの!?」
親が起きても不思議でじゃない声量で叫んだ。