戦え僕らの〇〇君!
主人公の名前は是非とも自分の名前を入れて楽しんでください。ただし女性の読者の方には微妙かもしれません……だって明らかに男ですからね。
でも気にせず読んで頂ければ嬉しいかぎりです。
生きる者がいる限り争いは無くならない。
いま語ろう。
学校という名の戦場で起きた下らない戦いを……。
***
【〇×高等学校・東校舎1階・保健室】
「〇〇君……私達いつまでココに居ればいいのかな?」
「聞かれてもな。冷静さを保っているように装っているが、未だにパニック状態なんだ」
「ゲームなんですよねコレ?」
「質の悪いゲームだよ……たぶん」
説明しよう。まずはそれからだな。
事の始まりは生徒会の勝手な言い争いだった。
一週間後の文化祭。
それは学園生活で充実する数少ないイベント。人によっては普段から習慣になっているウザい授業から解放される日……だが結局のところウザい授業と何の代わりも無いくらいダルいイベント。
少なくとも俺はそう思う。
その文化祭。この高校では3年生が飲食物の出店をするのだが、そこで生徒会が場所取りに揉めたのだ。
なかなか決まらないことに痺れを切らした生徒会。
そこで提案されたのが『クラス対抗バトル・ロワイアル』
放課後の学校で、3年A組・B組・C組から男女2名が代表して選ばれ、場所取りを巡って闘うというものだ。
もちろん暴力的なことでは無い……らしい。
制限時間は2時間。
学校中に置かれているアイテムなどを使って頭に被ったヘルメットの天辺に付いている風船をチームの両者共割られたら負けらしい。風船と言ってもバラエティ番組で芸能人が体を張ってゲームをする時のアレである。
正直なところ、やる気なんてものは小指の甘皮ほどもない。
こんなイベントを提案した生徒会共のふにゃけた脳みそを拝みたいものだ。きっとスモークチーズのような不細工な脳みそなのだろう。
いや、これは言い過ぎか……スモークチーズは悪くない。悪いのは一欠片の罪悪感を持たない生徒会を許した教師にある。
いや、結局のところ素直にイベントに参加した俺が悪いのか?
……少し自己嫌悪。
ここまでくると生徒会に対して劣等感すら感じてしまう。
それにしても俺は何故にC組代表に選ばれたんだ?
俺の目の前でちょこんと座っている星野は陸上部の主将だし頭も良い、なんとなくクラスのヤツらが多数決により選抜したのも納得がいく。
だが、俺は帰宅部で頭も良い方ではない。41名いるC組での成績は20位くらいだ。
問題というか疑問はまだある。
それは代表者のバランスの悪さだ。
A組の黒岩と草薙はヒョロヒョロした見るからに文化系に対し、B組の和久井と田所はバリバリの体育系。
特に女子の田所は剣道部の主将。様々の大会で優勝している。
つまり田所が竹刀を手にした時点で俺達の負けである。
ちなみにA組の女子、草薙は美術部の部長だ。
最近の女子は強いなマジで。
……と、まぁこんな感じで説明したところで状況が変わる訳でもない。
俺と星野はかれこれ1時間ほど保険室で隠れているのだが……年頃の男女が1時間も1つの部屋でどうかと思う。だが俺は女が苦手だし星野も自分から意見を言う性格じゃないので、一定の距離を保ち向き合いになって座り込んでいる。
「星野、ナイスアングル」
俺は星野に向かって親指を立てた。
「アングル?」
パンツ丸見え。
「オマエ見た目どおりのガキっぽいパンツ履いてんのな? ここはギャップの激しさを狙って食い込みのあるエロいパンツじゃないわけ?」
「……☆♀√∞!」
とっさに座り方を変える星野。
言葉になってねぇ言葉を出すなよ……鈍いヤツめ。
つーか前言撤回だな、微妙ではあるが良いムードじゃん。
「コホン……も、もぅアイテム無くなってますかね?」
「さぁな。別にそこらへんにある物も全部アイテムとして使えるだろ? それより誰か1人でも脱落してないのかよ?」
しかし、願いも虚しく戸を破壊するような勢いで保険室に突入してくるA組の黒岩。
その手にはBB銃が握りしめられている。
「くらえC組の虫けら共! 勝利するのは僕のクラスだ!」
「んな物どっから持ってきやがったクソ黒岩がぁ!」
パパパパパ!
発射されたBB弾は容赦なく俺達に襲いかかる。
条件反射というものか、積極的に参加している訳でも無いのに体は窓に向かっていた。
「星野走れ! 窓から逃走だ!」
「は、はい!」
窓を開けて飛び出し運動場を全速力で走る。
これじゃ見つけてくださいと言わんばかりに目立つ、だが後悔しても遅いよな。
もともと無い頭使って作戦とかへったくれも無いと思うし……こっちには陸上部の星野がいるから逃げるのは大丈夫だろ。
そうこう思っている間に俺より遅れて窓から飛び出した星野が俺の背後でペースを合わせてくれている。
俺達は東校舎から北校舎へと移動した。
戸を開け、廊下に出て目に飛び込んだのは男子トイレだった。
俺は星野の手を引っ張り男子トイレへ。
いつ、また襲われるかわからない状況……正直俺は焦っていたのだろう。
「〇〇君ストップ! ワタ、ワタシ女子! 女! 胸に自信無いけどスカートとか掃いてるし紛れもなく女なんですけど!」
「喜べ! 男子トイレに入れるなんて滅多に味わえない経験だぞ!」
「ちっとも喜べません!」
ベキッ!
「ひっ!」
突然現れた太い足が男子トイレの壁を破壊した。
B組の筋肉バカ和久井が待ち伏せしていたのだ。
凄まじい上段回し蹴り。
ダメだ、マジで怖いよコイツ……まるでヤクザじゃん。
「おどれドコの組のモンじゃい!?」
「さささ、3年C組のモンじゃ〜い!」
あまりの怖さに答えちゃったよ俺!
「逃げるぞ星野」
「また!?」
向かうは階段。やはり体を鍛えてばかりいるだけの筋肉バカ和久井は足の方は遅い。
これなら逃げれる。
だが思う。
逃げてどうする?
戦わないでどうする……と。
「〇〇君! 出口!」
出口?
確かに出口と書かれた張り紙が階段の近くの扉に張ってあるが。
「早く行こ」
その扉を指さす星野。
「行ってどうする? 明らかに罠だろ、発想が便所のラクガキと同じだぞ」
「……」
「……」
「……ハッ! そうか」
天然にも程があるぞ、将来苦労しそうな性格だな。
「待ちやがれC組のヤツ〜!」
俺の名前をちゃんと呼べ筋肉和久井。
「いったん散るぞ星野」
「う……ちょっと心細いけど致し方ありませんね」
ダッ!
星野は二段とばしで階段を上がっていった、俺は何の考えもなく職員室へ。いや、ぶっちゃけ心の中でゲームの中止を訴えに行くつもりだったのかもしれない。
ガラッ!
「ゲッ! 草薙」
職員室の窓際、校長が大事にしているらしいサボテンに水を与えているA組の草薙が俺に気付いた。
教師の姿はない。会議か何かだろうか?
「や、やるのか草薙?」
草薙のメガネが不気味に光る。
「さぁ……ワタシ争いごとには興味ないし、なんとも言えない」
「……ごもっとも」
争いはよくないよな確かに、なら何故に参加したんだよコイツ?
「だからコレで解決」
パスッ!
うわっ! ズルい、自分で頭の上の風船割りやがった。
自決だ!
しかし自決か……それもいいな。
俺も自決すれば楽になれる……だが、なんだかんだ真剣にやっている星野はどーなる? 自決なんて卑怯なことをしていいのか?
「オラァァC組のヤツ!」
うぉ! しつけぇぞ和久井!
俺は草薙にお疲れと言って職員室を出た。
草薙は小さく手を振った。
『廊下は走らない』の張り紙の横を走って、あまり使用しない薄暗い階段を駆け上がる。
途中でタイミングよく星野と合流。その手には見覚えのある物を持っていた。
「星野! お前ソレ黒岩の銃じゃねぇか!? 倒したのか?」
「はい、2階でたまたま黒岩君を見つけちゃって。ワタシに気付いてなかったから後ろからチョップで風船を……必殺星野チョップです! いけませんか?」
「別にいいんじゃね、黒岩の呆気をとられた顔が目に浮かぶぜ」
とにかく、これで残るはB組の和久井と……た、田所。
クソッ忘れてた!
まだ田所がいたんだった。
とりあえず屋上にでも行って形だけでも作戦考えてみるか……和久井や田所にも弱点というか勝てる方法があるか……も?
「ようこそ、〇・〇・く・ん♪」
ぎゃあああ!
竹刀を装備した田所!(ラスボス)
「残念だけど、ここまでのようね〇〇君。そして星野さん」
「くっくっくっ、俺もまぜろよな田所」
あ〜ダメだ。和久井と田所に挟まれた。もう逃げ場はない。
「〇〇君」
「くっ! 一か八かだ星野! 和久井に向かって撃て!」
「はい!」
パパパパ!
「がははは! そんな攻撃痛くもかゆくも無いぞ!」
BB弾は和久井の体を跳ね返り、地面に転がる。
「ジ・エンドだC組のヤツ!」
万事休す!
「和久井君が走ってくるよ〇〇君!」
「……南無三」
俺は目を瞑って‘死’を覚悟した。
ズルッ!
ビターン!
散らばったBB弾で足を滑らせて転ぶ和久井。
チャンス!
「ダァァイナマイトシュート!」
和久井の頭部に蹴りをいれる。
スパーン!
B組の強敵、和久井撃破!
スパーン!
同時に星野の風船が割れた。
「星野!」
「ご、ごめんなさい〇〇君」
田所の攻撃により一撃で風船を割られた星野。
パカッとヘルメットが真っ二つになる。
星野自身にはケガはない。
「人間の攻撃じゃねぇぞ田所! テメェ宇宙人か!?」
「たわけ! 歴とした地球人だ!」
うそつけ! 格闘マンガじゃあるめぇし、地球を侵略しにきた田所星人だろ本当は。
「とりあえず死んどけ〇〇!」
「口調変わってんぞコラァ!」
ブンブンと竹刀を振り回す田所。
紙一重で避けているものの、やられるのは時間の問題だ。
ジワジワとフェンスに追い込まれていく。
心配そうに見守る星野。
そうだ!
「悪あがきは止めて大人しく死ね〇〇。サッカーゴール付近に焼きそばを売るのは我々B組だ!」
「今だ星野!」
「なに!?」
慌てて後ろを振り向く田所。
キョトンとした顔で佇む星野。
「くっ騙された!」
リタイアしたヤツに助けてもらうほどみっともないことはない、ただ名前を借りただけだ。
スパーン!
隙をついて田所の風船を叩き割る。
「か、勝った」
「くっ……不覚」
田所はガクッと膝を折り座り込んだ。
星野が満面の笑みで俺に駆け寄り抱きついた。
「やった、やりましたよ〇〇君♪」
「おう星野!」
妙な達成感だ。
もう文化祭のこととかどうでもいいぜ、最高に幸せだ。
女に縁がない俺が抱きつかれるとは……美人といえば美人で、モデル並のスタイル。良い子や……理想の女の子がこんな近くにいたとは今まで気付かなかったぜ。
その後、文化祭で俺達のクラスの『星のおでん屋』は大反響だった。
バトルロワイアルの締めくくりは俺だったのにネーミングが明らかに星野から取っている。
しかし俺が幸せを掴み取るのは後の話。
2年後。
バトルロワイアルをキッカケに星野と付き合い始め、順調に恋を実らせ、ついに結婚した。
俺達二人の間には3人の子供が生まれ、幸せな家族生活をおくっている……。
***
……と、勝手な妄想をしながら今日も俺は学校に向かっている。
こんなオチで申しわけありません。