雪神様
雪神様は不思議な神様、冬の日にしか姿を見せてくれない。
雪を降らせる冬の日にしか、真っ白い雪が一年中積もっている御山にあるから社から出てこない。
雪神様は不思議な神様、いつも静かに笑ってる。
村の皆がありがとうと言ってもただ静かに笑って一つうなずくだけ、声を聞いたことがある人は誰もいない。
雪神様は不思議な神様、毎年姿が変わっている。
ある年は大人の姿、ある年は子供の姿、ある年は年老いた姿、どれが本当の姿なのかは誰にもわからない。
でもそんな雪神様は山の麓にある小さな村を守護してくれる。
冬の間だけしかいないけど、子供たちといっぱい遊んでくれる。
言葉はないけど、雪神様が優しいことはみんな知ってる。
だから村のみんなは、雪神様が大好きだ。
今年も雪神様がやってきた。
御山の入り口にまで、子供たちがかけていく。
御山の社から出てきた雪神様はまっ白い裸足の足で昨晩降り積もった新雪の上をすいすいと歩いてくる。
綺麗な青空の髪をさらさらと、雪交じりの風に遊ばせながら踊るように、駆けよってくる子供たちのもとへ歩いてくる。
子供たちが駆け寄ると、今年もふわりと静かに微笑んでくれる、氷のような薄青の瞳が柔らかな光をともす。
一人一人の頭をちょっとだけ冷たい真っ白い手で撫でまわし、首をかしげて子供たちの顔を一人一人見ていく。
それが元気だったと聞いているのは、みんなわかっているのでみんな声をそろえて元気だったよと答える。
声の大きさにびっくりしたように切れ長の目をちょっとだけ大きくしたけれど、すぐにうれしそうに笑う雪神様。
子供たちと手をつないで、村の真ん中にまで歩いていく。雪神様のそばにいるとちょっと寒いけど、みんな短い間しか遊んでもらえないので、寒さを我慢してこんなことをして遊ぼうと口々に提案してく。
雪神様が小さく笑いながらうなずけば、子供たちから歓声が上がる。みんな遊ぶ道具をとってくるといって次々と家へと駆け戻る。
そんな様子に苦笑をして、傍にやってきた村長に静かに一礼する。今年もよろしくと言いながら村長も頭を下げて、子供たちと遊んであげてくださいと微笑む。
わかったというように、雪神様はうなずいてまた集まってきた子供たちを率いて村の広場に走っていく。
大人たちはその様子をほほえましそうに眺めながら、宴の準備をする。毎年恒例の雪神様をおもてなしするための宴だ。
雪神様も村の皆も楽しいことが大好き。
子供たちは雪神様とたくさん遊び、大人たちは宴の準備をしているうちにいつの間にか太陽がとっぷりと沈んで夜になった。
夜になったから宴が始まる、みんな風邪をひかないようにたっぷりと着込んで村の中央に集まると雪神様を囲んで宴を始める。
笑い声や、談笑する声、楽器の音色、音に合わせて踊る人の歌声。
雪神様は宴を楽しむ。
子供たちに誘われて一緒に踊って笑ったり、大人たちの会話に耳を傾けたり、楽器を教わったりと楽しそう。
やがて、宴もお開きになる。
みんなが名残惜しそうに家に帰ろうとした時、みんなを雪神様が引き止める。どうかしたのだろうと不思議そうに集まれば、雪神様はニコリと微笑む。
そっと手のひらを夜空に向けて、小さく小さく皆に聞こえないような声で何かを呟いた。
ふわりふわりと雪が降り始める。皆が一斉に空を見上げる、金色の雪が降ってきたのだ。
子供たちは歓声を上げ、大人たちは驚きの声を上げる。
金色の雪はキラキラと降り積もる。ほんの少ししか降らなかったけど、みんなが喜ぶ姿を見て雪神様はうれしそう。
そして小さく小さく透き通るような声でつぶやいた。
「今年もよろしくね」
みんなにその声は届かなかったけど、雪神様は満足そうに微笑んだ。