合わない目線
短編ホラーに挑戦です。
少しでも怖がる人を出すのが目標です。
どうしてあなたは私と目線を合わせてくれないの?
あなたは昔からずっと私の憧れだった。
小学校の頃のあなたはまだまだ背が低かった。
それでもあなたは格好良くて、クラスの人気者だったね。
みんなに囲まれているあなたと、背ばかり高くてクラスの隅で縮こまってた私とは、目線が合わなくて当然だったよね。
中学校からあなたは身長が伸び出したっけ。逆に私は早くも伸びなくなったよね。
それでもあなたはまだまだ私に届かなくて、上にある私の目を見れないのは当然だよね。
高校生の時には身長は同じくらいになったかな。私はすっかり伸びなくなってたから。
身長も周りの女の子と変わらなくなったし、デカ女と呼ばれるようなコンプレックスもなくなったっけ。知ってる?私、同じクラスの広瀬君に告白されたんだよ。
でも断った。だって、私はあなたの目しか見てなかったから。
なのにあなたは私の目を見てくれなかった。変わり始めた景色に興奮してたのかな?
あの時に私の告白から目を逸らしたのも……きっと私が昔と違って映ったから戸惑ったんだよね?
そして大学生になった今、あなたはすっかり私より大きくなってたね。それに飛び切り格好良くなっちゃって……大学に入ってすぐに女の子が格好良いって噂してたよ。
そんなあなたに目線を合わせて貰いたくて、私はいっぱい背伸びをしたよ。
慣れないヒールを履いて、お化粧も勉強したし、ファッションも沢山勉強した。
私、あなたと目線を合わせる為に、たくさん頑張ったんだよ?
あなたからすれば少し見下ろすくらいかな?とっても見やすいでしょ?
背伸びした私とあなたは絶対に丁度良い高さに目があったはずなの。
だから、私の告白から、あなたが目を逸らすなんて有り得ない。
有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない
有り得ない筈だったの。
でもね、ようやく気付いたの。
今までは私ばっかり目の高さを合わせようとして、あなたの目の高さを私に合わさせようとしてなかった。
きっとこのせいだね。
だから私は慣れない手つきであなたの目線を私の高さに会わせたの。
とっても大変だったよ?私も女の子だから、結構力は弱いの。もうデカ女じゃないの。
あなたは少し嫌がったけど、ようやく目の高さを私に合わせてくれたね。
……なのに、どうしてあなたは私と目線を合わせてくれないの?
そんなに虚ろな目をして、ぼんやりと遠くを見つめているの?
「私の目を見て……」
引きずるのにも苦労するほど重たかったあなたは、今ではすっかり軽くなって、私の女手でも簡単に抱き寄せれた。
きゅっと抱き締めたあと、私は再びあなたの目の高さを私に合わせる。
地味な顔立ちの私に似合うかなと思った白の可愛らしいワンピースは似合わない派手な赤に染まってしまった。
派手な子は嫌いだった?でも、白いワンピースも見てくれなかったよね。
「どうしたら……私と目線を合わせてくれるの?ねぇ、教えて?」
両手に収まる彼は答えない。
涙が溢れた。
そんな私を、もうデカ女じゃない私をそれでも嘲笑うかのように、喧しいサイレンは私の顔を似合わない赤に染めた。
「なに……?邪魔しないでよ……たっくんがそっちを見ちゃうでしょ?」
私はあなたの目線を奪う、あいつらを許さない。
大丈夫。あなたの目線に入るものは、あいつらの邪魔な目は、地面の高さまで落としてあげる。
そして私は握り慣れた包丁と、握り慣れない鋸をあいつらに向ける。
「あああああああ!」
一人落とした。
二人落とした。
三人目は……
ぱんと懐かしい音を鳴らした。
思い出すね。あなたに憧れるようになったのは、一年生の運動会だったっけ。
大嫌いなリレーで、のろまな私の分まであなたは走って……クラス勝ちに導いてくれた。
とても格好良かったよ。
リレーが終わった、私の恋が始まった時の懐かしい音と共に、私の目の高さは地面に落ちた。
ピアスは似合わないかなと思って、穴を開けるのは止めたのに、穴、開いちゃったね。
派手な赤に、似合わない穴、あはは、駄目なセンスだね。これじゃあなたは見てくれないよね……
「……え?」
……だと思ったのに、格好悪い私は見て貰えない筈なのに……今まで一度も合わなかった筈の視線は……
「たっ……くん……やっと……見てくれた……」
初めてあった。
地面に情けなく這いつくばる私と、地面に転がるたっくんの目線は、確かにその時ぴたりと合った。
……そっか……背伸びなんていらなかったんだ。
私は背伸びしすぎて……またデカ女になってたんだね。
あるがままの私、格好悪くてのろまでグズな私、似合わない赤い口紅に赤いワンピースに針の通らない穴を開けた……惨めな私。
あれ?それとも派手な子が好きなのかな?
そっか、だからあんな女に騙されたんだ。
良かった。あの女を地味な青色に染めてやって。赤くしてたらたっくんは目を覚ませなかったね。
「うん……たっくん……私も……愛してるよ」
最後の最後に、たっくんは私に笑いかけた。
そして一言。
「これでお前と目線を合わせなくて済む」
それが最初で最後の目線だった。
彼の目は、背伸びしても届かない高さに昇ってしまった。
そして私は、ずっと下まで目の高さを落とした。
それでも幸せ。
たっくんが最後の最後に目線を合わせてくれたのは、
この私なのだから。
如何でしたか?
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