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侮るなかれ

作者: 朝日奈流星
掲載日:2025/12/04

見た目だけで判断してはいけない。

【1】

真田俊介は待ち合わせ場所であるコンビニの駐車場に独り佇んでいた。

9時30分という約束の時間よりも20分も早くに来てしまったのだった。そのコンビニというのが自宅からは少々離れた場所にあるので、道路の混雑状況が分からずそれを考慮したためである。

仕方なく彼はコーヒーを買い一服しながら今から登る予定の山の情報をスマホで見ていた。

彼の趣味は登山である。

といっても県外の有名な山に登ることはない。どちらかというと地元の無名に近い低山を登っている。

何故かというと、人気がなく登山者も少ないからである。

登山者の多い有名な山は誘われれば一度は登るが、二度目を誘われない限りそれっきりである。

理由は登山アプリにも関係している。

アプリには登った記録をルートや写真などで保存でき、設定により誰もが閲覧し、参考にできるようになっている。有名な山に登った記録を公開しても他人の真似ごとをしたようで面白くないのも有名な山に行かないひとつの理由でもある。「ひねくれた性格だ」と言われても否定はできないし、するつもりもない。これが「彼」なのだから、仕方ない。

誰も気づいていない寂れた山を見つけ出し、新たなルートを公開した日は気分も良い。

何しろその山の先駆者なのだから。

しかしたいていの山には先駆者がいるのは、ほぼ当たり前のことである。

有名な山に登ると、朝早く(深夜帯になるが)に登り始めて到着が日の出前に間に合うようにしてもだ、山頂には既に何人もの人がいる。夜明け前でまだ真っ暗なのに・・・

そんな人の多い山に登っても観光地に来たみたいでつまらない、と感じたのだ。

 彼にとっての「登山」とは

時おりすれ違う人がいる程度で、基本「俺たち」または「俺」だけの行動でありたい。

喧騒は避けたい。何を好んで街中と同じく人ごみのなかで登山するのか、と思ってしまう。

 最初に登ったのは

確か小学校の時に遠足か何かで行ったことのある地元の急登で有名な山である。小学生当時の記憶はないが子供でも登れるのだ。

いや、子供だから平気で登れたのだろう。大人になって最初に登った時は息も絶え絶えであった。確か弟と一緒に登ったのだが、途中は息も絶え絶えで会話すらできなかったくらいである。ほとんど登りばかりで平坦な場所はほんの少しだけだ。弟は弟だけあって彼よりは少しだけ若いから平気だったのだろう。


 あれから何座登っただろうか。充分鍛えられて経験もそれなりに積んできたつもりである。登山用品にも拘りがでてきて普通に店で買うこともあるがネットで見つけ出すのも、仲間と違うモノが持てて嬉しかったりする。高級ブランドものはとても高くていつもいつも買えないが、妥協できる部分は値段と品質とレビューを吟味して揃えている。

 周囲から見れば「人気のない山を好む変な人」ではあるが、その優しい人柄からか誘われることも多く、また、彼から誘ってもみんな同行してくれる。

 当然登山用のツールも日々増えていく一方である。買うときには想像を膨らませて「こんな場合があるかもしれない」とか「あんな時のために持っておこう」とか膨らむ想像の数だけ買ってしまうことも多々ある。

折りたたみ式のボートアンカーみたいなのも買った。忍者かスパイしか使わないだろうツールである。何かに引っ掛けてズリズリと登るツールだ。しかしそのツールは諸刃の剣だった。投げるコントロールを誤ると、その先に引っ掛かったそいつを回収しに行かなければならないのだ。一旦引っ掛かってしまうとどうしてもその場所に取りに行かなくてはならない。

「万が一の時に」とか考えちゃいけなかったのは、購入してから気付くことである。

 そんな装備はタンスの肥やしになりつつ、今日の登山の相棒を待つのだった。



【2】

 小二田 健は保育園の前で車を停めていた。息子を保育園に連れてきたのだ。彼は今苛立っていた。何故なら家を出るときには「行きたくない」とグズり、しかし保育園の場所近くになると早く車から降りたくてウズウズしているのだ。停まった瞬間に車から飛び出すことも多く、親で運転手でもある小二田にとってはハラハラだったからだ。

「ちょっと待てよ!勝手に降りるなよ!危ないから!」

と、念を押しながら運転席から降りて後部座席に急いで向かう。息子の手を引いて降ろすと息子は園に一目散に駆け出す。

先生方に「おはようございます。よろしくお願いします」

と声を掛けてひと段落だ。

夫婦共働きなので小二田が平日で勤務が休みの日は送迎をしている。

勤務が休日といっても夕方に迎えに行くまでのひと時が彼の休みだ。

 息子を園に送ったのが8時30分。

一旦家に戻り、自分の準備に取り掛かる。

 小二田の趣味は多岐にわたるが、この時期力を入れているのが「山に登ること」すなわち登山であった。小二田は所謂ミーハーでウケが良いことは好んでするほうだ。派手で目立つことが好きなほうである。登山用のツールも有名なブランドものを多数所有している。腕時計も「G-ミン」というブランドものを身に着けてスマホと連携して何やらのデータを収集してリンクしてなんちゃら・・・

(その辺はよく分からないので割愛する)

小二田にとっては有名な山頂に立つのは当然気分がいいし、誰も知らない山に登るのもある意味目立つのだ。

 その日、小二田は真田俊介の誘いに二つ返事で同行を決めていたのだった。



【3】

 小二田は真田との待ち合わせ場所であるコンビニまで車を飛ばした。

9時30分の約束の時間に間に合いそうになかったのだった。登山用具などはその都度車から降ろすのだが、あちこちに点在しているので、それを積み込むのに散らばった欠片を拾い集めねばならなかったのである。

これは小二田の性分、性格が原因であるのは誰の目にも明らかなのは今に始まったことではない。

 結局あっちこっち引っ搔き回して到着したのは9時45分。

真田は35分も待ったのである。もっとも真田にしても「いつものこと」

であった。小二田が時間通りに来たためしがないのだ。

『よっ!おにたん!』 (真田は年下の小二田をこう呼ぶ)

『おはよござッス、俊さん』 (小二田は年上の真田をこう呼ぶ)

『遅れてすみません!待ちましたか?』

『いやいや、さっき来たばっかだよ。それより準備はどう?』

『ハイ!今日の山はそんな高くないですよね?昼飯とドリンクだけこのコンビニで買っていきます』

『うん。200mない山だもん。俺も昼飯のパンとコーヒーだけ買ってくよ』


 てな感じでコンビニで軽い食料を調達した。

 小二田『登山口はどこからですか?ナビで探しますよ』

どうやら遅れたお詫びかしらないが先導してくれるらしい。

 真田『えっと。〇〇寺のすぐ傍から登ろうと思ってるんだ。』

 小二田『オッケーっす。俺の後に付いて来てください!』


しばらく車で移動すること十数分。

近づいてはいるのだが・・・

住宅地のど真ん中だ。お寺の影すら見えない。一旦車を停めるのもためらうくらいの狭い住宅地である。


 外の通りに出て周囲を見渡してみる。

お寺があるなら目視でも分かるからである・・・


案の定、少し間違った道を進んでいた。

『すみません!ナビがポンコツでした!』

謝る小二田に

『ナビって持ち主に似てくるっていうから・・・仕方ねえよ』

などと軽いジョークで返す真田。


 そんなこんなで狭い路地を進みながら登山口横のお寺を発見!!・・・したのは真田であった。

『いやー、さすがは真田さん。ぼく一人じゃ探せなったです!』 

(いやいや、そもそもお前一人じゃここに登ろうとも思わないだろ)


なんてことを思いながら、それぞれが登る準備を始める。さすがは小二田。最新機器の設定に時間がかかる。Gーミン腕時計とスマホのアプリ、それらのリンク設定と靴の着脱に・・・軽く苛立ちながらもさすがは少しだけ年配者だけあって真田は笑顔で待つ。


そしていよいよ10時30分・・・くらい。

銀杏の黄金色が見ごろの秋の低山。登頂開始。



【4】

『俊さんお待たせしました!さ、いきましょう』

ようやく登山開始である。

しかし初っ端から間違った。なんと墓地を周回したのだ。

スマホアプリで詳細を見ながら

『おにたん、こっちだよ』

と、真田が言う。

しばらく舗装道が続いて小二田が

『15時までには下山できるっすよね。保育園の迎えがあるんで』

『昼前には飯食って下山するんじゃないかな。余裕だよ。一旦家帰って昼寝できるんじゃねぇか?』

『昼寝はヤバいっす。起きれないですもん』

(おにたんなら、アルアルだろうな)とか思いながら二人足取りも軽く登り始める。



【5】

 直近の登山者が登ったルートを参考に登った。十数分登ると辺りは道が無くなってきていた。

もしかしたら少しずれたのかもしれないと思ったのだが、どうやらそれは無いらしい。明らかにこの道筋だ。それでも過去のルートを進むと


もう全く道がないのだ。細い木の枝や新たに生えた新木が辺り構わず生えている。

明らかに1年以上は人が踏み込んだ様子はない。

しかも、周辺には私有地でもあるのか、有刺鉄線が張られているところもある。しかもだ!有刺鉄線の切れ端が地面に幾つも散乱している。

『俊さん、このルートで合ってますよね?なんか道じゃないんですが』

『うん、ここで良いはずだ。それにしてもこの有刺鉄線の破片はなんだ?!登山者が多いんで私有地を目立たすためかな。だとしたらこれ以上は進めないな』

『引き返しますか?』

『誰も居ないし、しばらく進もう。引き返すにしても藪だ』

 我々二人は幸いにも有刺鉄線の切れ端を踏み抜いたりはしなかったが・・・

あれは危険だろう。所有者がいたとしても、それはあまりにもずさんではないのか。それなら入り口で封鎖されていたほうがまだマシだ。

そんな状況でもなんとかこの山を登った証が欲しくてランドマーク(山頂の三角点)を目指し進むこととする。

 先行者である真田が木の枝を曲げながら進み、それがバネとなり後を進む小二田にムチとなって引っ張叩くこと数回

『俊さん、前と後ろ変わりましょうよ』

という悲痛の叫びとなるのであった。


 後ろはそれなりに苦労もあるだろうが、先行者にも危険はある。

足元が普通の土であるとは限らず穴が開いてるかもないからだ。それに、大嫌いな「クモ」が巣を張って待ち伏せているかもしれないし、ヘビがいるかもしれないからだ。

 前も後ろも


それなりに苦労があるのだ。



【6】

 もはや登山アプリのルートはアテにはならない。たった一年数か月前の情報なのに、それだけの期間でここまで山が荒れたのである。道が道でなくなりもはや藪である。登山道というものは人が入らないとあっという間に荒れるのだ。それに地球の温暖化がここでも実感できるのはまことに残念なことだ。

 二人は完全に道を見失い、それでも登山アプリに頼ることとなる。

『山頂はどこだ?今どの辺りだ?』

『っと・・・山頂はこのすぐ上辺りですね。・・・でも、道は無いです・・・』


この上・・・わずか数十メートル・・・


目の前はシダの生えた崖だ。もっとも地面は見えない。草やシダ類や細い木が生えている。

地肌むき出しではないのが

・・・怖い

しかし道を探しても多分見つからないだろう。


季節はまだ秋

マムシはいないのか?熊は?

足元はどんな状況なんだ?


何故なら、地面の陥没などの状況が生い茂っている草やシダ類で分からないからだ。

普通に地面があるだろうと思っても穴が開いていたり凹んでいたり・・・


まさに「落とし穴」だったり!?

一歩一歩が気が抜けない。

果たして神経が持つのか?!



【7】

 二人は今更引き返すわけにもいかず(もっとも引き返すルートさえ道ではないのだから)とりあえず前に進むことだけを考えていた。

目の前に迫る草やシダに覆われた斜面。ここさえクリアすれば山頂はすぐそこの真上だ。意を決して決断した。

行くしかないだろう。

 こういう状況はわりと得意な真田はもはや、いかにして登るべきかを考えていた。いわゆる手がかり足がかりである。この枝を掴んで次はここを掴んでここに足を掛けて登る、というふうに。

こんなに植物が生えてるんだから何かを掴めばいい、って感じで考えていた。楽しんでいたともいえる。

根の張り具合でスッポ抜ける植物も多数あるのだが。

 一方、小二田はいつも有名な山の登山しかしていないせいか、このようなひっ迫した状況には弱い。しかも下から見上げると結構な斜面である。ここを登らないで引き返す手段はもはや無いに等しい。

何故なら同じルートを引き返すのは物理的にも非常に困難だからである。ここに辿り着くまで、藪という藪を漕いできた。引き返すのは本人も不本意だろう。

第一、この急斜面で登るか下るかの選択を迫られれば・・・

むしろ下るほうが怖いだろう。

 ならば進むしかあるまい?!


 小二田は真田の後を進んでいた。

こういう状況は真田が得意なのだ。時折小二田に支持する。

『この枝を掴め』

『この枝は掴むなよ。スッポ抜ける』

『ここの地面は陥没してる。気をつけろ』

『足はここに掛けろ。次はここだ。安全を第一に考えて、三点確保でいけ』

などなどアドバイスは多岐にわたる。なにしろ小二田の体重は重いから、アドバイスも神経を使う。

小二田は必死に真田の後を付いていく。


話は逸れるが、小二田はマザコンである。こういう窮地に立たされた場合真っ先に浮かぶのが母親らしい。妻と子が居るのに、である。


 この時も目に涙を浮かべながら

『お母ちゃ~ん』

と叫んでいた。


真田は

『なにが「母ちゃん」だよ。奥さんや子供はどこ行ったんだ?』

って思うのだが口にはしない。


こんな時あのボートアンカーみたいなツールがあれば、と思っちゃいけない。あれはこの山を登った後に購入したものだから、今はまだ持っていない。


 崖の一番上まで登った真田は小二田のためにポールを伸ばしてやった。

『お前は体重が重いから、過信するなよ。ポールが抜けるかもしれないからな。あくまでも補助だと思え』

『はい!』

最後はポールを掴んで崖を登り切った小二田だった。




【8】

 ここから山頂の三角点までは平坦だった。少し歩くと三角点が見えた。辺りにはピンクテープまである。ほんの数年前までは登山者がいたのだ。テープの色褪せ方で大体わかる。

 そこで持ってきた軽い昼食を摂る。

登山アプリのための写真もひとしきり撮り終えて一休みするとすぐに下山にする。

 小二田の保育園のお迎えがあるからだ。なるべく車を停めた場所に近いルートを探す。当然登ったルートとは違う。登ったルートは崖を登って来たので下山は到底無理である。


 過去の登山者のルートを参考にするも

『木の枝が張ってて無理ッス!のこぎり必要かも!』

『ここ、もう道じゃないッスよ!』


 やはり道無き道を進まねばならないのか?!下るのは登るよりも危険を伴う。。。

と思っていた時に小二田が

『ここならいけそうですよ!等高線の幅も広いし』


 そうなのだ。アプリのマップには等高線も記載がある。土地の傾斜の具合も分かるのだ。

『よし。反対側になるがここしかないだろう。ここを進もう、おにたん!』


というわけで下山のルートも確保して移動開始となった。


なるほど、傾斜は確かに緩やかで道ではないが、進むことができる。何しろ枝が茂っていない。

それには当然の理由があった。


そこは山の北側だったのだ。当然陽当たりも悪く細い木の枝も「ヒョロヒョロ」としか茂っていないのだ。

『ひゃ~♪これなら楽勝ッスね、俊さん』

『だな。保育園に間に合うように急ごう』

など言いながら先に進むふたり。

陽当たりが良くないだけあって落ち葉が堆積している。

真田は時折り滑っていた。一度は尻もちをついてしまった。

小二田は少し若いだけあってそこまでではなかった。


緩やかな傾斜を下りながら真田は軽く滑った。

すぐ横にあった細い枝のようなツルのようなものを咄嗟に握ったのであった。


『ッタ!!!痛ぇっ!!!!』


なんと、滑った拍子に握った枝には

「トゲ」があったのだ!


『なんだこの山は!こんなとこにトゲ植物なんて・・・』

『俊さん、だいじょうぶッスか?』


『・・・大丈夫だよ。なんでこんなとこにトゲがあんだよ』


そうなのである。滑りやすいとこに

なんで敢えてそこにある?!

有刺鉄線にしてもそうだった。

なんでここにある?!


『我々はこの山に拒絶されてるのか・・・』とさえ思えてくる。




【9】

 そんなことを経験しながらも彼らはなんとか麓を見下ろせる場所まで下りた。

視界の下には住宅の屋根が見える。

『俊さん!やっと下りたみたいです!家の屋根が見えます!』

『おぉ!ついに下りたか。色々あったよな。さ、急ごう。』


保育園の時間もある。できるなら早めに下山したいところだ。

ふたりは足取りも軽く下山した。麓まで下りたのだ。



しかし。。。


新たな問題が発生していた。


 彼らが下りたのは登った位置とは真逆であった。

登った時はお寺の横。

下りたのはその真反対の山の北側。

そこには住宅が密集していた。なんと


山と住宅地は鉄柵で仕切られていたのだった。多分獣除けの対策であろうことは容易に分かった。


その鉄柵は縦に仕切りがあり、靴のつま先を引っ掛けて登る、なんてことはできないのだった。


唯一登るとするなら、棒登りの要領で何の足掛かりもないまま腕力だけで登らねばならない。

彼らの身体では無理なのは明らかだ。

しかもその姿は明らかに、怪しい。


彼らは安息の地を目の前にしながらも、どうすることもできないのだ。


『おにたん。これ、どうするよ。なんだこの柵は!・・・ったく・・・なんて山だよ。低いくせに。』

『ぅ・・・早く帰りたいっス・・・子供が待ってるんです・・・』


『どこかに柵の切れ間があるはずだ。行くぞ。歩こう。』


ふたりは柵沿いにトボトボ歩いた。数百メートル歩くと、柵が切れた!


その先は私有地の畑だったが。


彼らは

『許してください。生きるためです。通らせて下さい!』

などと心で言いながら畑の真ん中を突っ切った。


その先のガレージを通るときは

『ごめんなさい。怪しい者ではありません。どうもすみません』

と連呼していた。


幸いなことに住人が出てくることはなかった。


ここまで下りてくると気が大きくなった小二田は早速スマホをいじりながら

『俊さん、登った場所からは随分離れてます。歩くと20分はかかります』

『えぇ?それ保育園に間に合うか?』

『・・・ビミョーです・・・』

『ぁ!でも田んぼがあるんです。そこを横切れば早いです!』


 田んぼは今の季節は稲刈りも終わっている。刈り取った後だから歩きやすいだろう、と考えるのが普通ではある。当然彼らもそう考えた。


『よし!そこを通らせてもらおう。稲刈りも終わってるだろうから大丈夫だろ』


そう決断したふたりは田んぼを目の前にした。


あぜ道があるだろうと思ったが、棚田だった。

田んぼの間には段差があるだけであぜ道はなかった。


『よし、行くぜ。所有者に見つかる前に横切ってしまおう!』

真田の合図でふたり同時に田んぼの中に足を踏み入れた。



『なんじゃこりゃ!』

稲刈りが終わったのに田んぼは結構水が溜まっていた。


当然ふたりとも「グッチョグチョ」

である。


『なんで今の時期に水があるんだよ!』

『知りませんよ!地主の好みじゃないんすか?』


なんてことを喚きながらふたりは突き進んでいく。

地主に見つかる前に逃げ切らなきゃならないから。

他人から見ると、大の大人が。

明らかに怪しい図ではある。




【10】

 ふたりは田んぼでグッチョグチョになり、手にはトゲが刺さった痕をのこし、靴やズボンには草の実をイヤというほどくっ付けて


別れの挨拶もほどほどにそれぞれの帰路についた。

帰宅してからしばらくは


草の実と闘うのだった。







低いからといって


「侮るなかれ」


危険は思いがけないところに潜んでいる。







見た目だけで判断した結果である。

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