【第83話:四面乳歌】
結局ジュノとヴェスタが戻ったのは夜になった。
アイカには途中で霊子通信の定時連絡から事情を伝えてあった。
お風呂で作戦会議となった。
ちゃぽん
ジュノもヴェスタもお風呂に入るとアイカを可愛がるので、たいてい平等のためにアイカが中央に配置される。
今も両側からべったり挟まれて、ぬくぬくとお湯と二人の体温で暖められる。
義体の体温はアイカの方が高いのだが、不思議とあたたまるのだった。
「最後に見た火炎旋風みたいなやつ‥‥自然あんな事起こるのかな?」
ジュノの質問。
「大規模な火災時には上昇気流が激しくなる瞬間が有るのです。そこに火災の火が巻き込まれて炎の旋風となることがあるそうです」
アイカが真面目に答える。
「火薬の匂いがしなかったから‥‥爆薬とかではないと思う‥‥でもあの規模を火薬も油も使わすどうやって?」
ヴェスタの感想。
「放出系の上級魔法にはそれくらいの規模の魔法が確かにあります‥‥先日の黒いアイカなら使えそうでした」
アイカの答えはちょっと悔しそう。
ちょっと考えたジュノが聞く。
「その魔法を使える使えないは何の差なの?」
アイカが右手をだして手のひらを上に向ける。
じゅわりと赤い粒子が湧き出して手のひらの上でちいさな玉になる。
2cmほどの玉は空中でくるくると回りすっと円盤になり円筒になりまた玉に戻る。
「これが魔力と一般に言われている魔粒子です。ナノマシンのようにわたしの意思で、ある程度好きな形や温度、大きさ密度に出来ます」
おおぉと二人は不思議そうに見学。
すいっとアイカの手のひらに吸い込まれて消える魔力。
「色は属性に近いものになり、個人ごとに得手不得手が普通はあります。苦手がないという特殊なAIもいるようですが、なぜそうなるかは解っていません。アイカは赤で炎が得意です」
次は両手を同じ様に出し手のひらを上に向けるアイカ。
同じことをして大きめの玉を作った。
「わたしが無詠唱で扱えるのはこれくらいの魔力ですね」
そういうと、同じ様に形や大きさを変えて、最後は手のひらに吸い込まれて消えた。
「これら魔力は星系中のどこにでもあって、義体に少しづつ取り込めます。使うと減りますし、さっきみたいに自分の魔力や近い魔力はすぐに取り込めます」
アイカの説明にジュノもヴェスタも興味津々だ。
「わたしも出来るかな?」
ジュノは魔法が使いたいようだ。
「それは無理なのです。人間には『式』をあやつる能力がないので‥‥義体だけあってもダメで、義体とAIが揃って始めて扱えるのです」
ヴェスタがああと思い出す。
「あれか、ブラックボックス?」
アイカがうんうんと肯定。
「コア指令整合値に組み込まれた量子暗号に式があるそうで、これはコピーでしか手に入らないのです。読み解こうとするとほどけて無くなってしまう構造なので、管理局以外ではAIのコアを作れないのです。そこに魔法や式を操るコードが有るわけですね」
ジュノがちょっと悲しそうにする。
その話しはAIにとっていい話ではないのだ。
「‥‥クラウン・オブ・ソーンズ」
ジュノがぎゅむっとアイカを胸に抱きしめる。
谷間にむぎゅっとされてアイカのほほがむにっとなる。
「じゅのはなせないでふ」
ちょっとだけ緩めるジュノ。
「嫌だったらもう終わりにしよう?この話しは‥‥」
じっとアイカを見つめるジュノ。
にこっと笑うアイカ。
「ジュノはやさしいですね‥‥大丈夫です、必要なはなしですよ。そして、AI側にじつは制限はなくいくらでも魔力があれば大規模な魔法が扱えます」
「すごい‥‥」
ヴェスタもジュノに対抗して2つの膨らみでアイカをはさむ。
「もうぅ、ふたりとも少し離れてください。話しにくいですよ」
「え、やだ」
「じゃ話さないでいいよ?」
むぎゅぎゅと4つの丘に囲まれるアイカ。
(くぅ四面乳歌とはこのことか?!かつて古代の王国が敵国に攻められ包囲された際、夜中に四方から乳の歌が聞こえてきました。敵が味方の故郷である乳の歌を歌っているのを聞き、故郷の兵士までもが敵に寝返ったことを悟り、絶望しましたというあれですね、知ってます。周囲が乳ばかりで孤乳無援のこの状況をぴたりと言い当てられます)
アイカの高速思考が言葉の由来までを一瞬で思い浮かべた。
「もうぅ‥‥だから義体の性能で最大火力がかわるのですよぉ!」
ふむうんと包囲を破り逃走を図るアイカは虚しくも4本の腕に捕らわれ、また軟肉の牢獄に收まるのであった。
「それはティアがあがって素材が代われば増えるの?固くないと出来ないの?」
ジュノのもっともな疑問。
「いえ、硬い柔らかいは関係ないですね」
ジュノもヴェスタもびっくりする。
「だってこないだ硬くて黒いのが好きって言ってたよ?」
「いえ黒は言ってませんが?」
「あ、ごめん」
ジュノのボケをちゃんと拾う律儀なアイカ。
「硬いほうが戦闘機動に無理が効くという話です。魔法のティアとは関わりないです‥‥特にルティル鉱石が入るとぐっと変わるのです。骨に仕込めば変わらないような義体を作れるです。黒アイカもそうしてましたね、領主と楽しんでましたし」
むむむと考えるジュノ。
「骨以外は‥‥女の子に作れるの?」
ヴェスタもふんふんと興味津々。
さわさわとアイカを撫でる。
「ヴェスタ、それ以上すすんではいけません。危険領域ですよ!‥‥そうです。そもそも人間そっくりに作るほうが簡単なのです。ちょっと違うものをつくるとバランスが難しいので女の子なら全部女の子に作るほうが容易です。‥‥ヴェスタ!ダメん」
ぺしっとヴェスタの手を水中で叩くアイカ。
「むふふんじゃあ、そこいらの領域もそのまま?」
「‥‥そうです、変に変えたり付けないと色々ホルモンとかバランスが崩れて長持ちしません。義体は完全に機械にするか、人間のコピーを作るのが簡単なのです」
新事実に声をそろえるジュノとヴェスタ。
『じゃあ女の子一択で!』
でしょうねといった顔のアイカは、諦めてむにゅむにゅに包まれるのだった。




