【第79話:夜間飛行は満月に】
すっかり日が落ちたので、出発時間になった。
暗闇に乗じてこそこそ移動しようと計画していたのだ。
日が沈むとすぐ月がでて明るくなるのだが、日中よりはいいだろうと夜の移動を計画した。
今回は光がもれる核パルスジェットを使わず離陸して、移動しようと考えてあった。
着陸時はもう人の居ない地区なので遠慮はいらなくなる。
ざばぁと湖水を割ってスパイラルアークが持ち上がっていく。
速度はゆっくりだが、音も光も出さないし、外部の翼端灯も切ってある。
ここに降りた時は本体のエネルギーがきれる寸前だったので、派手に核パルスを吹いて降りた。
その光を麓の町でリステルに目撃されたと、告白の手紙に書いてあった。
リステルは本当に正直に全部かいて詫びてきたので、三人とも怒る気にはなれなかった。
アイ02の事も今ではジュノでさえ事故だったと考えている。
すいいっと高度を取り、10000m付近で水平移動に切り替えた。
追うように湖水から水上機が上がってくる。
操作はアイ01を経由してアイカが行っている。
「アイちゃん大丈夫?」
短距離通信でジュノが問いかける。
「だいじょうぶ!ママ上手だったよ」
「ふふ、ありがとアイちゃん」
アイ01の評価にアイカもにっこりだ。
アイ01とアイカはいま魔力でつながっている。
擬似的な『式』と同じ状態だ。
アイ01の中身を水上機のコントロールCPUにコピーして、義体はアイカの腰のリングにぷらぷらとつながっている。
アイ達は頭頂の充電コードを引き出すと、そのままストラップのようになるのだった。
こうしてコピーAIを搭載した機器と魔力リンクして、感覚器官を共有したり、魔力を供給して攻撃魔法を撃たせたり出来るのがAI独自の技術『式』だ。
ティアが上がったらドローンのように飛ばせる式を作る予定だ。
いまアイカは訓練のため、拠点予定地をマクラ01と02が整地しながら、アイ01の入った水上機を飛ばしている。
さすがに身動きはできなくなるので、シートで大人しくする。
目も閉じたほうが負担が少ないので、ゴーグルのようなデバイスで視界を塞いでいた。
白い小型のゴーグルは耳にもデバイスが付いて、魔力通信用のアンテナが左右にぴょんと伸びている。
おかっぱの黒髪の下にきれいに収まるこのデバイスもまたアイカのお気に入りとなった。
「実際どれくらいあればティア上がるんだろうね?」
アイカから会話はできるだけ練習のためにしますと言われていたので、遠慮無くジュノが訪ねた。
「そうですね‥‥鉄はすぐ足りそうなので、アルミですね足りないのは」
普通の人間がタスクを開いて確認し、答えるようなタイミングで返答が来る。
アイカの負荷はいまとても大きいのだった。
「じゃあ拠点を北に移動してからだね」
「そうなりますね‥‥ジュノいま残量どうですか?」
エンジニア席のアイカがモニターを見れないので、ジュノのコパイ席にそれらの情報は今表示されている。
「んと‥‥13.25%だね‥‥適正誤差+0.07%‥‥さすがのヴェスタかな?」
「ふふん、ほめてぇ」
ヴェスタも嬉しそうに答える。
「さすがです!その感じでいけば7~8%残るので、10日くらいで消費した分をまた戻せます」
アイカは簡単な計算も負荷としてこなし、式の操作を完熟していく。
暫く海上を進むと月がのぼり、夕方程度の明るさになってくる。
「そろそろ‥大陸の岬を越えるね‥‥あ、灯りがみえる」
ヴェスタが右の窓を指した。
どれどれとジュノが離席して窓を見に行った。
「おぉ‥‥なんだろ一個だけ明るいね」
ヴェスタもチラチラ見て答える。
「もしかしたら灯台かも?」
ジュノもなっとく顔。
「あぁそうか岬の端に灯台を作ってるんだ?‥‥てことは船が夜間も航海している?」
ヴェスタが否定する。
「それは無理じゃないかな。この時代の船じゃ沿岸をしめす立体マップとかないのよ?夜は船を出さないわきっと。やっぱり岬をしめす目印じゃないかな」
ほっとしたジュノ。
「そっか、じゃあ見つかったりしないね?」
うんうんとヴェスタ。
「この高度じゃあ夜間にみつけるのはジュノでも無理だよ」
「あはは、じゃあ安心」
「光を出さなければ大丈夫だよきっと」
ヴェスタの説明で安心したジュノ。
灯台らしき光の他にも小さな灯りがかなりの数見えた。
「結構人がいるんだね‥‥」
ちらと見たヴェスタも同じ感想。
「あそこの街はそれほど大きくないはず。4~5000人の人口と予測がでてるわ‥‥港もそれなりの大きさのが有るみたい」
前回偵察時にあちこち航空写真を撮っていて、母船のCPUに解析させてあった。
「もう少し進むとまた沿岸に街があって、それが最後のはずです。どうやらその街は鉱山で栄えているようです‥‥ライバルですね!」
アイカも会話に参加してくる。
あははとジュノもヴェスタも笑う。
「そうねえ、負けないように私達も掘りましょう!」
ヴェスタの宣言にうんうんと微笑むジュノとアイカだった。
目視出来ないが2000mほど下を水上機も飛んでいるはずだった。
ジュノは右旋回するタイミングで外部監視カメラの映像を探してみる。
「お!アイ01の水上機発見!ちゃんと真下にいるね」
アイカもにんまりする。
「えへへ、上手にできました」
実際に操縦しているのはアイ01なのだが、通信と指示はアイカが魔力でしている。
静かななかにも明るい空気を保ち、夜間飛行は続いた。
そうして予定通り目的地にたどり着くスパイラルアーク。
「見えたわ!」
ヴェスタの宣言で、ジュノも監視カメラを前方に向けた。
「おぉちゃんと誘導灯が点いているよ」
「はい、夜間の侵入と決めてましたので、最優先でつけました」
そのための機材と、風力の発電ユニットも置いてきてあった。
マクラ達は器用にそれらも設置してくれたようだ。
「いいね‥‥アークの着陸地点もわかり易い」
ヴェスタの言う通り、滑走路の奥に整地されたスパイラルアークを止められる平地が十字にライトを並べて示してあった。
この台地の海抜は2000m前後のようで、降下していくとしかりディテールまで見えてきた。
今夜はほぼ満月の月が山体を白く光らせている。
見るものとていないだろうと、核パルスジェットの青い炎を盛大に吹きながら降下するヴェスタ。
綺麗に円形に均してもらった地点にほぼ誤差無く收まる船体。
ずうぅんと着陸脚が地面の硬さを伝えてきた。
「はい!とうちゃーく」
ヒュゥゥンどひゅと水上機も無事滑走路に降りたようだ。
「こちらも着きました!」
アイカの報告は、ほっとした雰囲気。
「やったねアイカ!おめでとう」
ジュノがだきっと抱きついて喜んでくれる。
「うん、ありがとうジュノ」
ゴーグルを額に跳ね上げて、久しぶりに顔を見せてくれたアイカは、頬をそめてはにかんだ。
義体の年齢にみあった、愛らしい笑みだった。




