【第77話:引っ越しをします】
火口の拠点に戻ったヴェスタ達は、2日の予定で拠点を撤収するスケジュールを立てた。
「水上機をアイカが自動操縦したら、ほとんど全部持っていけます」
アイカはそう提案する。
「そうね‥‥あちらの飛行場も滑走路が十分にあるなら安全に下ろせる?」
ヴェスタは操縦技術としてアイカを信用している。
なにより怖いミスをしないので、規定内の運用を約束してくれる。
「若干高地の影響で滑走が伸びると予想されますが、アイカでも150mあれば余裕のはずです」
にこにこのアイカはいろいろと節約になると喜ぶ。
「前回はそこまで持っていきたいものもなかったもんね」
ジュノは色々思い出もあるし、ベッドも分解しないで持っていきたいと言う。
そこで冒頭の話となった。
第一格納庫に水上機をしまわなければ、そこに家具を積む余裕がつくれると言うアイカの意見だ。
「‥‥いいとおもう。水上機はできるだけペイロードも減らして、離着陸だけを考えましょう」
方針が決まったので、あとは手分けして積み込んだり分解したりだ。
ジュノの保護スーツをティア5で作り直し、ヴェスタの外装アタッチメントは、ジュノが使うことになった。
ヴェスタの分は外装がなくなるが、ティアが上がったらどうせ作り直しになるので、それからと言うことになった。
現在の主武装はジュノもヴェスタもティア3のライフルとなったが、戦う予定もないので良いだろうと決まった。
「がんばったら‥‥もうすぐティア6ですよ!じぇっとです!!」
アイカは節約生活が実り興奮気味。
「うんうんアイカがんばったもんね、ありがとう」
ヴェスタによしよしとされるアイカはにっこりだ。
「船体のEGキャパはまだ15%くらいですが‥‥あちらの拠点までなら余裕で飛べるはずです」
スパイラルアークのジェネレーターのプールが一度ほぼ空になったので、この火口に来てから10%以上ためたということだ。
「お船はほとんど動かさないですんだもんね」
ジュノとしてもこの拠点は基本的に攻めこまれたことがないので、防衛にあまり力を入れてこなかった。
「ティア6になったら防衛用にドローンも飛ばせる?」
アイカはちょっと考える。
「まあドローンを作るならアイカの『式』を作ったほうが便利です」
ああと納得の二人。
「あたらしくコピーAIを作るより、アイちゃん達の方が優秀です!」
「それはそう!」
ジュノも理解した。
「そもそも偵察と、哨戒用にと思ったものドローンも」
「わたし達におまかせだよ!」
アイ01とアイ02が両手をアイカの肩でふる。
「かっこいいのがいいな!ママ!」
「そうね‥‥まずは2つまで飛ばせるようにガンバルね、みんなで交替よ」
『うん!』
アイ達は4人いるので、2機だと二人づつ交替だ。
ヴェスタが気になったのか質問。
「今はちゃんとバックアップ取ってあるから、万が一でも?」
「はい、二度とこの子たちを失わないようにちゃんと備えであります!」
アイ01と02を撫でながらアイカが答えた。
「それに式に入れるときは、義体は置いていきますしね」
「へぇ、なんだか不思議ね」
ヴェスタはちょっとイメージが出来ない様子。
そうしておしゃべりしつつも拠点の中も片付いていく。
箱に収めたものから、ジュノとヴェスタがせっせと運ぶ。
小物をアイ達とアイカが箱に詰め込んでいる段階だ。
「おひっこし!」「おひっこし!」
アイ01と02も仲良くアイカのお手伝いを頑張っていた。
今の二人は普通の大人くらいの力が有るので、そうとう重いものも二人でかかれば運んでしまう。
アイ03と04は母船の方で、ジュノとヴェスタを受け入れている。
スパイラルアークは荷積みの為に、ヴェスタが動かして今は岸に上がって第一荷室のハッチがスロープになっている。
アイ03は操縦室勤務で、各種のモニターと、船体の操作を担当。
ハッチの開け閉めなどを担当する。
アイ04は一台だけ作ってもらった、電動のプラッターという荷役用車両を操作する係だ。
指定のパレットという板に積んだ荷物を車両で運んで整理する。
夜ご飯までに拠点は随分と片付いた。
作業室は、こんなに広かったのかと驚くほど何も無い状態になり、個室の荷物もベッドくらいしか残っていない。
ダイニングは、まだ何度もごはん食べるしね、とほとんど手つかずだ。
晩御飯は簡単なものとなり、パスタにレトルトのソースをかけて食べた。
アイ01と02もテーブルにあげてもらい、交替でバックアップと充電中。
「ティア6でまたアイカを上の義体に替えられます!こんどはソリッドベースにしたいと思うのです!」
アイカは先日の戦闘で黒アイカに歯が立たなかったのを気にしていた。
内蔵や脳がなければ、もっと戦闘機動が楽になるのだ。
「えぇ‥‥かちこちのアイカなんて嫌だよぉ」
「カチコチは却下ね」
ジュノとヴェスタから当然のような抵抗がある。
アイカはちゃんとそこも考えてあった。
「大丈夫です!外側の皮はこの義体のを流用しますので、肌触りはあまり変わらないはずです」
ジュノとヴェスタは見交わす。
「ダメね」
「いやよ!」
ガーンといった雰囲気のアイカ。
しょんぼりになってしまう。
「そもそもアイカはいい匂いじゃないとダメだよ。硬いのもいや」
容赦なくジュノは指定してくる。
なんてわがままなことをと、目をみひらくアイカ。
「アイカはさ‥‥義体を更新しないと戦闘力が上がらないと心配してくれてるんでしょ?」
うんうんとアイカはヴェスタの意見にはげしく同意。
ヴェスタはふんわりと微笑む。
「もうそんなに無理して戦わないといけない事態にはしないから、安心していい匂いで柔らかいアイカでいて」
アイカは複雑な気持ちだが、ヴェスタの気持ちもわかった。
「‥‥どうして‥‥二人はわたしをAIとして扱わないの?」
もっとも初期的な疑問をまず聞いたアイカ。
思い返してみれば、星系間航海船の完熟訓練で合流した当初からそうなのだ。
このスパイラルアークに搭載されたAIとして紹介されたのに、名前や義体はどこなどと、AIに対する初期的な認識がそもそもおかしかった。
「アイカはアイカだもの‥‥AIでもいいけど‥AIだと思ったことはないわ」
ヴェスタが衝撃的ともいえるカミングアウト。
ええええ‥‥となっているアイカ。
「アイカは仲間だよ、AIってどうゆうふうに扱えばいいか知らないけど‥‥仲間の扱いは知っているよ。そしてアイカは大事な妹でもある」
ジュノもヴェスタとかわらない意見。
「アイカは‥‥AIだしこの身体は義体です。万が一失っても取り返しのきく身体なんですよ?」
「いやだよ‥アイカが良いと言ってもわたしがいや。義体でも絶対死なせない」
ジュノがついにアイカを抱き寄せる。
ぐりぐりと頭に頬を付ける。
「私も‥‥同じ意見だよ。たとえ何度死んでも平気だとアイカが言っても、私も耐えられないよ‥‥そんな悲しいこと言わないで」
「アイカは‥‥それではお役に立てないです‥‥」
アイカも二人の気持ちは嬉しいが、AIとしては効率が悪すぎると考える。
自分はコピーが出来て、バックアップが取れる存在なのだと伝えたいのだが、二人はそもそも自分をAIだと思ってくれていない。
「アイカはとても役にたってるじゃない」
ヴェスタがびっくりしたように言う。
「そうだよ‥一番働いてくれているのちゃんと解っているよ。いつもありがとうアイカ」
ジュノもよしよしとしながら言う。
アイカは色々と考えてしまうのだが、二人の気持ちがとても嬉しいと感じるのも、やめることは出来なかった。
「うん‥‥じゃあこのままで出来ることをがんばる」
アイカは真っ赤な顔でそういうのだった。
ぎゅっとヴェスタも抱きついて、よしよしをする。
「さ、冷めちゃうから食べちゃおう!」
ジュノに言われて、二人も食事を再開した。
「そもそもごはん食べられないじゃない、硬い身体じゃ」
きょとんとするアイカ。
「お風呂も入らなくなっちゃう?」
「それはそうですね‥‥食事もアイ達と一緒で充電になります」
ジュノとヴェスタがまた見交わす。
『そんなのだめ!』
声がそろってふたりは笑い出す。
あはは、と楽しそうにする二人を見ていると、このままの義体でいいかなとアイカも思えてきた。
(あれ?なにか疑問に思った気が‥‥)
アイカはすっかり二人にAIだと主張するのを忘れてしまった。
どっちがアイカと今日お風呂に一緒に入るかで揉め始めたからだ。
「もう‥‥三人で入れば良いじゃないですか」
『それ採用!』
なぜか息ぴったりのジュノとヴェスタだった。
そうして拠点は今日も笑い声が絶えないのだった。




