【第8話:それでも進んでいかなくちゃ】
ヴェスタは防御陣地を構築する。
幸いにして本船着陸時に直径100m程のクレーターが周りに出来ている。
外輪山の高さは5mほどと、周囲の森の木々より若干低い。
クレーターの中心に拠点としている本船があるので、外輪山全周の上を整備していく。
一級装備を全てナノポッドに戻したが、残量は半分以下となった。
これを増殖させて復するには海水・大気・太陽光線で2ヶ月はかかる。
その程度の損失ですんだとも言えるのだが、スタート地点がかなり悪かったので、後退はつらい状況だ。
生命存続は可能だろうが、自力での主星脱出は遠のいた。
細かいがアイカの義体もしばらく更新してあげられない。
海側の外輪山に貫通する穴をあけ、新しい水路用に直径30cm程の木製パイプを通した。
一級装備を溶かす前に、重機代わりに船外作業を進めたのだ。
最初の仮設水路は分解済みで、新たな水路を綺麗に設置した。
取水量は10倍程度に増やし、吸引のロスも減った。
これだけでナノポッドの回復は半分程度の期間に短縮できるのだった。
そのうえで2ヶ月の後退だ。
防御装置は材料が不足しているので、単純に柱を立てていき、ロープで作る。
外輪山の上に、5m毎に高さ2mの柱を立てる。
素材は頑張って石材由来の強化コンクリートだ。
ロープは樹木由来の弱いもので切れやすい。
柱は太さが10cmほどだが最悪は銃撃戦のカバーがわりにもなる。
60本ほど柱を立てると一周した。
高さ50cmくらいと1mくらいに一本づつ張り巡らせる。
最後の柱にセンサーを付けて、ロープに力が加われば警報が鳴る仕組みだ。
ロープを切っても鳴るように設計してある。
単純な鳴子と同じ仕組み。
全てコストダウンのために有線接続だ。
「大昔の戦争で培った技術に守られる‥‥皮肉だわ‥‥」
ヴェスタはまた3ヶ月前のように笑わなくなった。
ジュノとアイカがくれた笑顔を無くしてしまったのだ。
もう意識しても笑うのが辛い。
ジュノはあれから3日も部屋から出てこない。
寝室を占領して引きこもっているのだ。
アイカもヴェスタも強く言えず、はげますのもためらわれてそっとしている。
夜はアイカと二人抱き合い操縦室で寝ていた。
この3日でヴェスタの第一装備を使い倒し、偵察と防御陣地構築を進めた。
襲撃者は現地の住民で、この島の北部に3個所ほど集落があった。
ヴェスタが遺体を乱暴に運び、集落に投げ込んだ。
ついでに村々の入口に核パルスの炎と衝撃波。
粒子ビームで大穴を開けて警告とした。
村一つに100人は居ない程度の人数。
狩猟と採取がメインで、農耕も一部取り組んでいる程度の文化レベル。
黒い肌に朱色の墨を入れるのが風俗なのか、事件の下手人とおそろいだった。
いっそ殲滅しようかとヴェスタは思ったが、エネルギーの無駄と諦めて戻った。
武装から脅威にはならないと判断したのだ。
(‥‥こうして軋轢を産んで‥‥戦争になるのだわ)
歴史の講義で学んだことではないかと、すべて終えてから反省した。
幸いなこともあった。
同じ島の北部で、銅と鉄の鉱脈を見つけた。
銅は島の中央部の山地西側にいくつか露出鉱脈があり、それなりの量を確保できそうだ。
鉄は原住民の村落よりもさらに北の岩山に赤鉄鉱の地層があったが、量と質はわるい。
鉄も銅も最低限は空輸して運んだので、現状ティア2まで進んだこととなった。
本船の周りに簡易なものだが建物も建てた。
重機がわりの一級装備がある内にと素材を無理して用意したのだ。
木材をベースに金属補強したので、それなりの強度。
その10m四方程度、高さも6mほど有る建物はこれから先いろいろな施設を設置する予定で建てた。
今は低温溶鉱炉が一つと、石材をカットできる加工台を設置してある。
「ふう‥とりあえずここまでね。早く稼働できればいいけど」
人手が足らないので、今は採取だけに絞ったヴェスタ。
余裕ができたらクレーターの外、すぐにある玄武岩を切り出して、銃撃戦向けのカバーも作る予定だ。
クレーター内に侵入してくる敵を迎え撃つ準備だ。
銅採掘ポイントの側に不穏な洞窟もあり、音波索敵によるとかなり大型の生物が複数いた。
そういった生き物も的になりうると想定した陣地だった。
「よし‥‥午後は胴の採掘に行こう」
笑顔はないが、なんとかやる気は保っているヴェスタだった。
「お昼ごはんできたよー」
アイカの高い声で通信が入り、作業を止めるヴェスタ。
「はーい、いまもどるね」
ヴェスタはアイカに支えてもらっていると実感する。
ジュノと二人だったらもっと落ち込んでいたなと思うのだ。
「手をあらうのですよぉ」
にっこり笑うアイカが今では居住スペースにもなっている、新しい建物から顔をだした。
溶鉱炉の横だが、木製のテーブルセットを作り、それなりの生活空間になっている。
ミニキッチンも新しく作り、本船から動力を引いているので、水も電源もある。
二人でテーブルを囲んで食事をする。
今日はとうもろこしのスープパスタだ。
「おいしい‥アイカありがとう。あったかい」
ヴェスタは涙が出そうなほど嬉しい。
美味しい食事以上にアイカはヴェスタに力をくれるのだ。
「どういたしまして!」
にっこり笑う愛らしい笑顔に、微笑みを返したいのだが、ヴェスタは引きつった笑みを浮かべるのが精一杯だった。
「ジュノは食べてるのかな?」
「うん。昨日からは食器が空になってるから、食べていると思う」
アイカが配膳しても、会話にはならないようだ。
「‥‥アイカ、義体は更新しないの?やっぱり」
ティアが上がったので、もう少し丈夫で力の有るものを、本来作れるはずだ。
「はい‥ジュノが復帰してくれたら、プロット的にまだ必要ないです。節約になるのでこのままで行こうと思います」
なんだか保護者の収入に遠慮して、小さくなった服を着ている子供に見えて、不憫だった。
「うっうっ‥‥ごめんね私のカセギが少ないから‥‥苦労をかけるわね‥‥」
「それは言わない約束よ、おねえちゃん‥‥」
ヴェスタの演技に付き合ってくれるアイカ。
「ふふ、ジュノさんもきっとすぐ元気になりますよ」
そういってアイカは笑ってくれた。
「そうね‥‥今夜一度話してみるわ」
3日間、ヴェスタもどこかで避けていた話だ。
ジュノの状態から、いい話にはならないだろうなと、気が重かったのだ。
眉を下げるヴェスタには、もうしばらく笑顔がない。
ちょっと心配そうにアイカはヴェスタを見上げるのだった。




