【第73話:長い夜は新しい朝へ】
そこではっとジュノは気付く。
何処かで見た美形だと思ったが、髪色も瞳の色も同じだ。
ヴェスタを見るが気づいていなそう。
(名前もにていた‥‥気付くべきだった。この人はリステルの母親だ)
ジュノはヴェスタに伝えるべきか迷う。
「もちろん。もし急ぐなら今からでも構いませんよ?明日の朝にしますか?」
「い、今からですか?‥‥もし可能でしたらお願いします‥‥娘を探したいのです」
ここではじめてチラとジュノを見るヴェスタ。
うんうんと肯首するジュノ。
いけるよの意味だ。
なんだったらジュノは自分のスーツも探したいと思っていた。
貴重なティア5装備だ。
「では、少しだけお待ちを。準備して来ますので、この部屋にいてください」
そう言って立ち上がるヴェスタに目礼するリーシェ。
ジュノから外に出て、ヴェスタを迎えた。
ドアをしめるなり、耳元でささやく。
「気付いてた?」
ん?みたいな顔をするので、ぐいぐいと作業室の奥に連れて行く。
「あの人たぶんリステルの母親だよ?」
「ええぇ?!」
「声大きい!ヴェスタ」
「ごめぇん」
あ!といった顔のヴェスタが両手で口をふさぐ。
うんうんとするジュノ。
「そうか‥‥領主の街にいってもリステルはいない‥‥」
「そういう事‥‥全部話して決めてもらうのがいいよ。できれば一晩考えたほうがいいと」
ジュノの意見にうなずくヴェスタ。
「わかった‥‥ジュノ‥‥」
ぎゅっと抱きしめるヴェスタ。
「疲れてるでしょ?あとは任せて先に休んで‥‥落ち着いたら私もいくから‥‥」
そういって頬を赤くするヴェスタ。
ジュノも頬を染めた。
「うん‥‥まってる‥‥」
そういって名残惜しそうに離れた。
思ったよりも話が難航したのか、ヴェスタが来たのは一時間以上経ってからだった。
コンコンコン
ヴェスタは優しく3回ノックする。
「いいよぉ」
ジュノはもう布団に入って待っていた。
薄いネグリジェ一枚だ。
寝間着は全部白い布で作ってある。
いまでは4種類あり、気分で着替えられるようになり、より文化的だ。
おそろいのものをヴェスタは琥珀色の布で作る。
お互いの肌の色に似せて作るのだ。
ヴェスタは浮かない顔でベッドに入ってくる。
とても冷たくなっていた。
そっと腰に手を添えてジュノが訊ねる。
「大丈夫?ヴェスタ」
はっとなって、うなずくヴェスタ。
「大丈夫‥ちょっと色々嫌な話をきいただけ‥‥ごめんね待たせちゃった」
そういうと腕枕して抱き寄せてくれる。
むにゅっとヴェスタの胸に顔があたり、そこはちゃんとあたたかく、ジュノの大好きないい匂いだった。
そっとヴェスタの腰を抱き寄せていつものように隙間をなくす。
やさしくヴェスタが髪を撫でてくれる。
最近二人だけで寝るときはこうして言葉はなくなり、ただ優しさを与えあう。
それだけで満たされる気持ちになった。
温度と感触と匂いで満たされるのだった。
(あぁ‥‥帰ってきた‥‥ヴェスタの気配だけで満たされる)
ジュノのはうっとりと眠りに落ちるのだった。
この長い長い一日を終えて。
ジュノが静かに寝息をたて始めて、ヴェスタもほっとした顔になる。
(ジュノ‥‥ひどい目にあったのかしら‥‥リーシャさんから聞いた領主は最悪の男だった)
ヴェスタの瞳に怒りが浮かぶ。
(まぁ‥‥あの部屋の主人ならそうとは思っていた‥‥ジュノの話では殺したと言うけど‥‥)
そこでまた痛ましそうにジュノをみるヴェスタ。
(わたしが手を下したかったな‥‥いつもジュノにやらせている気がしちゃう)
ヴェスタはああいった扱いを施設で受けていたので、どのような使い方をするのか全て知っていたのだ。
アイカが戸棚や机の引き出しから出した器具も。
それらはヴェスタを怒り狂わせるに十分な記憶を蘇らせた。
人間の尊厳を傷つける器具で、装置なのだ。
リーシャさんの話では、母娘ともにそういった扱いをされたようだ。
しかもリーシャさんには伝えていないが、リステルの話が本当なら、夫も息子も既に他界しているらしい。
おぞましい人間の欲望を見ると、ヴェスタは理性を失いそうになる自分を自覚した。
今もジュノを起こさないようにと辛うじて自分を抑えていた。
リーシャさんの話しを聞いて、あの領主邸に20mmレールガンを一斉射したい衝動を覚えたのだ。
ジュノが待っていると思わなければ本当に行ったかも知れない。
(あぁ‥‥ジュノもうはなさない‥‥)
そっとジュノを抱きしめて涙を流すヴェスタ。
いつしか嗚咽が大きくなってしまうのだった。
ヴェスタの長い長い1日は、まだ終わってくれなかった。
リステルはその夜の内に移動を開始した。
町長の家から馬を1頭貰い受け、領主の街をめざした。
どうしてもそこで手に入れるものと、その後に向かわなくてはいけない場所があった。
可能であれば夜が明ける前にと道を急ぐ。
自分で落とした橋のせいで余計な時間がかかる。
(くそぉ‥‥片側だけでも残せば良かった。十分勝てた戦闘だった)
自分で自分の首を締めることになろうとは、思っても居なかった。
2つ目の川を渡る頃には、東の空が明るくなってくる。
リステルは今夜かなりひどい目にもあっており、体力の限界を感じる。
シャワーを浴び身体を綺麗にして、温かい毛布にくるまって寝たい衝動がある。
それをして寝だろうあの三人を羨む心が少しあった。
ふるふると首を振って、ただ前を向き自分の選び取った分かれ道を見据え進んだ。
なんとか日が昇る前に街にたどり着いたリステル。
その勢いのままに領主の館に忍び込んだ。
幸い家人はおらず、皆逃げ出したようだ。
お陰で探し物はすぐに見つかり、ついでのようにジュノの装備を見つけた。
アイカはジュノ以外の者が使うことを想定せず、生体ロックもパスワードすら設定されていなかった。
ヘッドマウントディスプレイで認識出来たので、早速装備した。
「こ‥‥これはすごい」
HMDに表示されるバッテリー残量は、リステルの着けていたスーツの6倍ほど有った。
少し身体を動かしてみれば、おどろくほど力強い。
武装も充実しているので、これがアレば一軍相手でも一人で勝てるとすら思えた。
(まあ‥‥そうやって奢ったものの末路がアレなのだわ)
リステルはジュノに蹴り殺された領主も確認していた。
(これで欲しかったものは揃った‥‥後は行くだけだ)
次にリステルが向かったのは港だ。
領主がこっそり作っていた軍艦がそこにはある。
舷側に片側4門の80mm砲を供えた中型船。
船には船員も配備されていて、すぐにも出港できることをリステルは知っている。
自慢げに今日リステルの上であの領主が教えてくれたのだ。
「船長を呼べ!領主代理のリステルという」
慌てた船員が船長を呼びに行った。
(この領主の指輪と‥‥これがあれば‥‥指示を聞くはず)
リステルには船長達や船員を従える見込みがあるのだった。
こうしてリステルは新しい道を進み、ヴェスタ達より先にこの島を出ることとなるのだった。




