【第72話:長い夜に帰宅して】
上半身がレールガンで吹き飛んだ義体。
ヴェスタに狙撃された黒アイカ、AIKA-04の義体の残骸だ。
黒アイカの義体は生体部品をソリッドベースの骨組みボディに組み込んだハイブリットだった。
上半身にバイタルパートがあるのは一緒だが、断面から血が溢れ出したりはしなかった。
温度は電気ヒーターで作り、生体部分を暖めるのに当てていた。
機能停止して断面から赤色に染色されたフルードが溢れたが、血の匂いはしない。
ただの不凍液だからだ。
すぐ横にある岩の影から黒いものがにじみ出てすいと立ち上がり人影になる。
それは黒アイカにそっくりの人影。
ヴェスタもアイカも町に行っており、水上機からも死角だったのでそれは誰にも確認されない作業だった。
「‥‥ちょっとこの義体を見られるのはまずいのよね。こまるわAIKA-04」
そう言って片手で下半身を拾い上げる黒アイカ。
彼女達は仕事の秘匿性からクラウド形式をとらず、スタンドアローンで動くのだった。
AIKA-04は失われ、同じシリーズのAIKA-??により回収されたのだった。
すいっとまた山沿いの影に沈むように消えていった。
あとには黒々と黒アイカからもれた液体だけが残された。
飛び散った部品や肉片に至るまで、可能な限り回収していったのだ。
この義体に使われている技術は、銀河連邦では使われていないもの。
秘匿され失われてしまった技術だった。
「ん?!あれれ?」
アイカが黒アイカの落ちていた場所を見ておどろく。
「どうしたの?アイカ」
ヴェスタが心配して声をかけた。
「いえ‥‥たしかにここに義体の残骸が有ったはずなのですが?」
アイカの周りにヴェスタもジュノも集まった。
ジュノは靴がないので、ヴェスタにおんぶだ。
自分でも手足でしがみついて、背中の温度を満喫している。
保護膜どうしだと、若干のラグがあるがロスなく温度は伝わる。
そこには血溜まりが黒々と残っているだけで、義体はない。
「ほんとだ‥‥とけちゃった?」
アイカもうなずく。
「自壊するようにプログラムされてたのでしょう‥‥証拠を残したくない?」
「なるほど」
ジュノも納得。
「‥‥あくまで表向きは開拓プロジェクトに干渉していないとしたい」
ヴェスタも一旦納得して、ここは拠点に帰ることとなった。
もどってアイ02を再起動したいアイカもうずうずしてるので、急いで帰ることとなった。
予備のスーツなどないので、暫くジュノはそのままになってしまう。
ティア2相当程度の保護スーツは直前のティア5スーツと比べると頼りない。
保護膜が薄いので、色々と形が透けて見えてジュノは恥ずかしい。
ヴェスタやアイカのティア5と比べると、尖った部分が目立つので自分だけ裸のように感じる。
いまも赤い顔でそこを隠していたので、かえって目立っていた。
前回も今回も拠点に戻ってすぐアイカに診断を受けて、洗浄もしてもらった。
身体には問題ないことを確認して、問題のあるところを改善してもらってもいた。
保護した女性はまだ目覚めず、ヴェスタの寝室で寝ていた。
アイ03が今は様子を見てくれていたが、ジュノと交代してダイニングのアイカのところに行った。
ジュノもやっとお風呂に入り、着替えられた。
熱いシャワーを浴びながら、ジュノは体中の力を抜いた。
「ふぃぃ‥‥」
頭から熱い湯をあびると、色々と綺麗になってくれた気がする。
(あぁ‥‥やっと帰ってきた‥‥ヴェスタにいっぱい甘えてリセットしなきゃ‥‥えへへ)
ジュノはらしくない微笑みなのだが、自分でも気づけていなかった。
(よかった‥‥これで陽性とかだったら、本当に死にたくなる‥‥)
悪い結果でも、きっとヴェスタには伝えられないなとも思った。
今回は前回以上に身体にも傷を付けられたので、自分で思った以上のダメージを精神に負っていた。
じっと赤くなったそこをみるジュノ。
(しばらくヴェスタには見せられないな‥‥アイカに取ってもらったこの穴‥‥)
ジュノは黒アイカにいじめられたときに、ピアスを付けられたのだ。
そのリングピアスはアイカにお願いして、さっき診断したときに外してもらったが、まだポチっと赤く貫通した跡が残っている。
耳には開けたことがあるので知っているが、時間が立てば目立たなくなり、ふさがるはずと期待していた。
(アイカがヴェスタおかしかったとも言ってたしな‥‥わたしのせいだ‥‥ごめんヴェスタ)
しょんぼりするジュノは、早くヴェスタと二人きりで甘えたいなと思った。
無事アイ02が目を覚ました。
「アイちゃん!」
「ジュノ!」
ぽふっと抱きつくアイ02。
「ジュノ助けてくれてありがとう。ママに聞いた」
「ううん、遅くなってごめんね淋しかったね」
ぐりぐりと頬ずりするジュノ。
アイカもダイニングに座っていて、ニコニコしている。
アイ02の義体は他のアイ達と一緒でティア4に更新され、バックアップも今後はしっかり取る事になった。
ダイニングのテーブルに戻してあげると、01、03とも抱き合って微笑ましい。
ぴーちちちちと忙しそうにずっと話して抱き合っていた。
ジュノもはやくヴェスタに甘えたいなと思ったので、アイカと手をふり合ってから、ヴェスタの個室に向かった。
すぐとなりなので、何歩もあるかずにたどり着く。
コンコンとノック。
「ジュノだよ」
一応お客さんもいるはずなので、ノックをする。
いつもはしないで入り、時々ヴェスタに怒られる。
「いいよ。ちょうどいい、入って」
どゆことと思って入り理解した。
女性が目を覚まし半身を起こしていた。
「こんばんわジュノです」
微笑んで挨拶のジュノ。
「はじめましてリーシャと申します。この度は助けていただき有難うございます」
固い挨拶が返った。
「アイカを呼んでこようか?」
「いえ、今日はアイちゃん達とゆっくりしてもらいたい。ジュノはつらくない?」
ヴェスタが心配そうに見てくる。
「平気‥‥体力的には弱っていないよ」
心配そうをもっとひどくするヴェスタ。
そっと肩に手を置くジュノ。
「ごめん‥もちろん心も平気だよ。無事おうちに帰れたしね」
そういってきれいな微笑みを浮かべるジュノ。
ヴェスタもぎこちなく微笑み返しジュノの手に手を重ねた。
椅子がないので、壁に寄りかかって立つジュノ。
ヴェスタは看病の為に準備していたダイニングの椅子に座っている。
ベッドで半身を起こし、ヴェスタの寝間着を来ているリーシャに話しかける。
「リーシャさんもお疲れのようですが、少しだけお話お聞かせください」
ヴェスタが話し始める。
ジュノはこうなったら基本的には求められない限り口は挟まない。
「ええ、ご迷惑をおかけしました」
静かな低い声は落ち着いていて、年齢をちょっと感じ取れない。
褐色の肌はジュノと同じくらいで、髪は明るい金髪だ。
アイスブルーの瞳がとても美しい女性で、ヴェスタはグラマーな裸も見ている。
「リーシェさんはご自分の意思であそこにいたわけではないのですね?」
「もちろんです」
即答の答えがちょっと驚いた顔に浮かんだ。
ジュノもまさかそこは聞くまいと思ったので、驚いた。
「今は火山の火口付近にある、私達の拠点です。あの街に送って差し上げますか?」
「ご迷惑でなければ‥‥娘もあの街にいるはずなので‥‥」
人妻だったかと‥‥ジュノもヴェスタもさらに気持ち悪くなる。
あの領主は死んで当然だったなとジュノは思った。
ヴェスタは硬い顔のままで、うなずいた。




