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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第7章
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【閑話:まどろみのなかで】

アイ02はてとてとと走っていた。

カメラを再設置するため、よいしょよいしょと自分より大きな三脚付きカメラを運んでいた。

偶然蹴り落とした小石が、崖下に隠れていたリステル親衛隊の足に落ちて声を上げさせた。

なんだあ?と顔を出したアイ02をついつい手に持った槍で突いてしまった。

考えての行動ではなく反射に近い行動だった。

「あ!やべ!」

男は素早くリステルの元に駆け戻った。

槍にアイ02を刺したまま。




アイ02は衝撃を受けた時点で強制スリープモードに入った。

自身の50%をうしなう被害だったので、セルフリカバリーはあきらめた。

入手したデータとログだけを保護し、自分自身を守らなかった。

RAM(揮発型メモリー)にのこるデータの保護にはスリープしていても少し電源が必要だった。


じんわりと電気が入ってくる。

いつもより虚弱なそれではアイ02を充電できない。

(あぅ‥‥やっとごはんがもらえたよ?‥‥アイはどうなってしまったの?)

アイ02は自分が攻撃された瞬間を捉えていなかった。

なにが起きて今こうなっているのかが解らないのだ。

(データをのこさなきゃ‥‥)

アイ02が必死に守ろうとしているのは、アイカと一緒に設置したカメラの情報だ。

それはもうとっくにアイカには解っていることなので、大事に残す意味はない。

それがアイ02は分からないので、自分の持つ大切な記憶よりも保持を心がけた。

(ままぁ‥‥)

アイ02の中からあたたかな何かが一つ失われる。

アイカに抱きしめられた記憶だった。

あたたかさと優しい手の動きを覚えていた。

――”ママ大好き”

そう添えられて記憶されたログだった。

(あいた‥い‥ょ‥‥‥‥)

会いたい気持ちだけが残った。

それはメモリーとは違うところに有ったから。


それからはずっとその不安定な電源でアイ02は保持された。

義体としての基本的な部分はROM(不揮発性読み込み専用メモリー)にあるので、電源が落ちても失われることはない。

歩けなくなったり、話せなくなったりすることはないのだ。

コピーAIとしての大部分はそこではなくRAMに書き込まれている。

これはアイカからしたら本来のコピーAIの作り方だし、使い方だ。

手が回らないことを若干判断力をおとしても従事できるように作るもので、短期間、短時間の利用が目的となる。

これが『式』となれば話しは別で、お互いの連携や練度が求められるので、定期的なバックアップやパッチが当てられ保持される。

アイ02以外のアイシリーズがいま行っている行動は、この式の保持に当たるのだ。

本来ただのコピーAIが受ける扱いではない。

アイ02はただ失われるべく作られ、ただ失われるだけの事だった。

望むと望まざるとにかかわらずに。




そうしてぎりぎりの中、アイ02は大事に必要ないデータを保持し、失いたくないと本当に思っている大切な思い出を一つずつ失っていった。

そんな中、転機が訪れた。

アイ02に短距離接続してくるデバイスがあった。

そのデバイスはアイ02に接続履歴のある個体だった。

一瞬で判別したアイ02はアクションを返す。

(じゅの?)

アイ02はスリープモードを切り、立ち上がろうとする。

フレームが起きてモジュールを従える。

色々な関数がかけていて、エラーが山のように起きる。

それはアイ02には頭痛として出力された。

(ああ!アイちゃん?アイちゃんなの?!)

ジュノの心配する温かな心が届いた。

短距離電磁波などではない、心に感じられる刺激。

(じゅの‥‥頭がいたいの‥‥うごけないよぉ)

返信すると電圧が不安定になる。


アイカの中にある謎のコードはそのままアイ達にも一部コピーされている。


「Arī šī sirds nekad nepazudīs.」


アイにももちろん意味はわからないこの謎のコードが、アイ02を支える。

(コレハアタタカイココロ)

ジュノの声はそう記憶されていた。

アイ02の電圧が危険なほど不安定になる。

(アイちゃ――りの状―――ら――のね?―う―――らスリープし―――――な―!)

ジュノの通信を受け取ることもできなくなるアイ02。

最後に心に浮かんだ言葉だけを出力した。


(うん‥‥ままぁ‥あいたいよぉ)


優しい少女の微笑みと温度が最後にアイ02が思い浮かべた記憶だった。

その記憶もいま記憶領域からリリースされ失われていく。

たった一つ大事なものとして、必要のないデータを保持しながら。


(ま‥‥ま‥‥)


アイ02は深い眠りに落ちていった。






「おねがい!あいいいい!!」

十分な電圧とあふれんばかりの思いがアイ02に流れ込む。

すべてを揮発させたはずの記憶素子にいま何かが補填されていく。

それはたった一つ単独で残されたコード。


(‥‥Arī šī sirds nekad nepazudīs.)


とても優しい声で呪文が唱えられるのをアイ02は感じ取った。

この言葉をいま唱えなければいけないのだと、アイ02には解った。


(アリー ‥シー ‥スィルツ ‥ネカド‥ ネパズディース‥‥)


(コノ‥‥ココロモケッシテ‥キエナイ)


温かな愛された記憶が怒涛のようにアイ02に復元される。

電子でも電圧でもない、たった一つの言葉がアイ02を保っていた。


「ママ‥‥」

「アイぃぃいぃ!!!」

新しい義体は少し防御力が上がっていて、アイカの義体のパワーでも壊れることはなかった。

涙でぐしゃぐしゃのアイカは、本当に制御できずに抱きしめてしまったから。

「ママ‥‥いたいよぉ‥‥」

アイ02はちょっと困ったように言うのだった。

とても嬉しそうに。





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