【第70話:アイカと黒アイカの違い】
(まいった‥‥あれは領主軍の兵士だ‥‥リステル‥‥どこなの?掴まったの?)
アイカはひどい目にはあっていないが、焦っていた。
リステルが本営にしていると知らせてきた町長の家に近づくと、警備している兵士を見つけたのだ。
あちらの館で蹴散らしたタイプの兵だったので、リステルの配下ではないと判断した。
ここでも蹴散らすのは簡単なのだが、リステルが掴まっていて人質にされる可能性を恐れた。
アイカも短期間だが側にいた人間を無慈悲に見捨てるのは抵抗が大きい。
それをすればジュノとヴェスタが悲しむとも想像できた。
(慎重に情報を得なくては‥‥)
一旦見つからないところに移動して、様子を見ようとアイカは考えた。
ヴェスタとも一度連絡をとろうとも。
町長の館は町の一番南の標高が高い場所にあった。
後ろはもう鉱山に近く、人は住んでいない。
そちらが潜伏場所として好ましいとアイカは当てにしていた。
坑道に続く山道の横はアイカ達の拠点からつながるだろう水源を元に河川になっている。
それほど幅はないが、急流で水量も多い。
この川で鉱石を船で運んでいるのだ。
とことこ歩きながらアイ01に霊子通信を入れる。
『まだ拠点についていない?ヴェスタっていま大丈夫かな?お話があるのよ』
『もうついたよ!いまヴェスタは寝てるひとを格納してるよ』
『おけ、じゃあ落ち着いたら連絡してと伝えて』
『はーい‥‥ママは大丈夫?あぶなくなぁい?』
『平気だよ、また後でね』
『うん、03と04にも伝えておくね!』
『よろしくね』
通信を切ったアイカはよじよじと上って山道の上にでた。
ちょっとした崖になっていて、眼下に町を見下ろす。
町長の館も真下に見えた。
そこまで確認した時、ぞわりと特有の感覚を得たアイカは飛び下がる。
ドフオォォオオン!
直前までいた場所に火柱が上がった。
飛び退ったアイカは詠唱を開始していた。
「待ちなさい‥‥少し話があるわアイカ」
暗闇に紛れるように黒い人影が浮いている。
それはアイカと同じ容姿の黒い姿。
ざわりと感じたのはAIの攻撃時にはなつ魔力があふれた感覚だ。
ぱきいん!
アイカは自分の周りに対電磁場、対霊子・重力波のシールドを貼る。
プリズムに輝く正六面体で構成されるそれには、物理防御としての耐久値もあった。
今のアイカが使える最上位の結界だ。
すとっと無表情でアイカの居た辺りに下りてきた黒アイカが、上から下まで眺める。
よく見ると黒アイカの方が年齢設定が上だとアイカは気づく。
(むむ‥‥ゆさゆさしおって‥‥燃やしたい‥‥)
身体の一位部分だけでも敵意を煽られたアイカだった。
「アイカはずいぶん幼い義体ね?材料がたりなかったの?」
声も若干だけ黒アイカのほうが低く大人っぽい。
そして見下ろした目線にも嘲笑の成分を含んでいた。
「何者ですか?‥‥まあおなじAIKAシリーズ何でしょうけど‥‥」
アイカの識別コードAIKA-01は、ほぼプロトタイプのAIKAタイプでは一番お姉さんのはずだ。
先程から送っている開拓プロジェクトのIFF(敵味方識別コード)にも返信がない。
「敵でいいですね?」
くすっと黒アイカが笑う。
「ひどいわ‥‥同じAIシリーズの仲間じゃない」
アイカは銀河連邦のIFFにも返信がない時点で、違法な敵性AIと判断した。
ゆらりと魔力を溢れさせるアイカには焦りもある。
眼の前のAIがにじませる魔力はアイカの数倍あるのだった。
(まともに戦っては勝てない)
とんっと崖から飛び降りるアイカを狙い紫色に帯電した粒子ビームが走る。
ピィゥゥン!!
直径1cm程度のそれが、当たれば高電圧で荷電もされ致命傷とアイカには解った。
アイカのシールドでは1秒も防げないとも。
撃たれる直前に崖を蹴り軌道修正したアイカは火箭を撃ち返す。
ぼひゅひゅひゅ!!
3本を扇状に撃つのは、当てるためではなく、逃げる時間を稼ぎたかったため。
ピピィゥゥン!!
2条のビームが闇を紫に払い迫る。
「くぅん!!」
アイカは身を捩り直撃を避ける。
首もふって避けたが髪の毛が一房蒸発した。
ころころと受け身で転がって、なんとか立ち上がるアイカ。
鉱山町の外まで逃げ出したが、ここまで来ると隠れるところも少なくなり、かわすのが難しくなっていた。
すでに結界を2度破られ、貼り直した。
アイカの魔力残量ではもう貼り治せないので、最後のシールドになる。
(他には追っ手は無し‥‥こいつさえなんとかすれば‥‥)
アイカは絶望的状況の中で、まだあきらめない。
黒アイカは空中を飛行魔法で飛びながら、余裕をもってアイカをいたぶっていた。
「あらあ?どうしたのかしらAIKA-01おねえさま?足元がおぼつかなくってよ?」
この黒アイカはAIKA-04と名乗った。
あいかわらずIFFには応答ないが、名前だけは自分で告げて、先行生産された自分を姉と呼ぶ。
「ずいぶんいい性格ね黒いの‥‥よほどいい主人に飼われているのね?」
アイカは煽って言い返す。
ぴくっと眉をあげ、一瞬考えるように止まる黒アイカ。
無言で魔力の圧をぶわっと上げた。
(まずい!上級魔法?!)
桁の違う量の魔力を自分の体積以上に吹き出し紫にそまる黒アイカ。
「あそびはおわり‥‥死になさいアイカ」
無慈悲に告げ右手を向けた黒アイカ。
アイカもニヤリと笑う。
「そうね、遊びは終わりよ!!」
ぱんっ!
銃声は黒アイカの上半身が消し飛んでから聞こえた。
ガァーーーーン!!
『ごめんおまたせ!アイカ無事?』
『たすかったよぉヴェスタ』
アイカには心強い仲間が居るのだった。
上空2000mを滑空する機体翼下から精密にレールガンで狙撃してきたヴェスタ。
機体にマウントされる20mmのレールガンは個人兵装のそれとは威力も射程も別物だった。
アイ01から状況を聞いている最中にアイカが霊子通信を入れながら黒アイカと話した。
「敵」とアイカが言った瞬間にヴェスタはスイッチが入り、アイ03にまかせたと言いつつアイ01をむんずと掴んで、飛行機に飛び乗った。
『ままぁ!』
『大丈夫よアイちゃん』
にっこりわらうアイカを確認し、アイ01もほっと胸をなでおろした。
こうして良くわからないままに黒アイカを倒して、アイカと合流するヴェスタだった。
町の郊外に着陸したヴェスタはタキシングして岩陰によせ、飛び降りた。
「アイカ!」
「ヴェスタ!!」
どすんとアイカが抱きついて、ヴェスタは抱きとめた。
ぎゅっと互いに抱き合う。
「よかったアイカ‥‥怪我はない?」
「平気です、髪が少しこげましたが!」
にっこりわらうアイカに怪我がないとわかり、ヴェスタもやっと息をはいた。




