【第7話:生きていてくれた】
ヴェスタは後悔に苛まれながら、夜の森を走り抜ける。
気配を隠すこと無く進むのは、見つけてくれたらむしろ助かると思っていた。
(‥‥防御陣地から作っていれば)
日中の作業を悔やんでいた。
判断としては間違っていなかったし、もう一度選べと言われたら迷わず海水導入を選ぶだろう。
(もし‥‥対物サンサーだけでもはっていれば‥‥)
船体の外部センサーは全滅で、現状はまったく監視をしていなかった。
防衛まで意識が回らなかったというのが正直なところだ。
生存を優先した結果だった。
(簡易センサーくらい立てておけば‥‥いえ、フェイクでも防衛する意思をみせていれば‥‥)
いくらでも後悔がわいてくるヴェスタは、焦燥に駆られていた。
ジュノの意識が途絶えて一時間は経過していた。
敵の最終移動ルートを伸長して扇形に索敵している。
信号ロスト地点から、時間ごとの敵の移動可能範囲がリアルタイムにマップ内に赤い円を広げて行く。
そこに予想移動範囲を濃く表示するアイカの指示に従い、索敵をつづけるヴェスタ。
マップを全て赤く染めた移動可能範囲が消えて、予想範囲だけが三角に残る。
「アイカ‥‥返信はないの?ノイズ一つも?」
「‥‥ないです‥ヴェスタ‥‥‥‥戻って、そろそろエネルギーが持たない」
保護スーツを全力駆動して探しているので、残量は20%を切っている。
接敵しても倒し切る前にエネルギー切れになると判断されたのだ。
切れてから戻ると余分に時間もかかる。
「‥‥‥‥わかった。帰還する」
ゴウ!
背部のパルスジェットをふかし、一気に樹上にでるヴェスタ。
(ジュノ‥‥この炎を見つけて‥‥敵でも良い‥‥)
夜空を青く染め、核パルスジェットが火を吹く。
一気に亜音速まで加速し眼下の本船にもどるヴェスタ。
今は第一戦闘ユニットに身を包んでいた。
『全部だして!一級装備よ!飛行ユニットも!!』
アイカが悲しそうに眉をおろす。
『それだと‥‥ナノポッドが空になっちゃいます‥‥』
『いい‥‥空にしていい』
ヴェスタは涙をこぼしながらそう告げたのだった。
そうしてヴェスタが操れる個人装備としては最大クラスの装備を準備してジュノを探したのだ。
夜の森には命の気配が多すぎて、上空から一度当たったセンシングに有意な情報は得られなかった。
飛行しながら電磁波音響、赤外線温度、霊子霊子波と三種のセンシングを惜しむこと無く振り下ろしたのだ。
これはヴェスタの背負ってきた核融合ジェネレーターの瞬間最大出力で叩きつけた。
ドォン
本船の横に小さなクレーターをつくり着地したのは、戦闘機動ユニットで倍に膨れ上がるヴェスタのシルエット。
バシュ!と鈍色のそれを強制パージして、がらがら落ちたユニットに、アイカが引いてきたケーブルを手分けして繋ぐ。
普段は無線で充電する保護スーツにも、太いケーブルを繋ぎエネルギーを注ぎ込む。
立体マップを広げたヴェスタがつんつんくぱつんと弄り回し、回転させたり拡大しながら見逃しがないか確認している。
この一秒一秒がジュノの命を削っている幻視がヴェスタにはあった。
補充が半分ほど進んだころ変化が訪れる。
ヴェスタの待ち望んだチャンスだ。
ビクっとアイカが顔をあげる。
『いやあぁあ!!!』
ジュノの通信だ。
「ジュノ!?今行くよ!!」
チャージ中の装備を、ケーブルごと強引に背負いなおすヴェスタ。
『やめて!!いや‥‥ブツ‥‥ザザ‥‥』
「ジュノの保護スーツの充電が落ちた!」
アイカが説明する中も、ヴェスタはガチャガチと装備を整える。
パージは一瞬でできるが、装備には手順と時間がかかりもどかしい。
「アイカ!手伝って!あと信号位置だして!!」
「はい!!」
最後の飛行ユニットを背負い、マップを確認するヴェスタ。
「離れて!アイカ」
叫びながらバシバシっとケーブルやホースを乱暴にパージし、森に向かい2歩走る。
ドン!
そこで全力のジャンプ。
ズバァン!!
空中でパルスジェットが地を撃ち飛び上がった。
「ふぎゃん!」
ころころと軽いアイカが吹き飛ばされるほどの衝撃波が撒き散らされ、一瞬でヴェスタを空中に運んだ。
ヴェスタの選んだ戦術は強襲殲滅。
威嚇も確認もなしで、最大火力で殲滅する。
(ゆるさない!ジュノをかえして!!)
背部ユニットの左右に展開された翼端を軋ませ、螺旋を描いて落下するヴェスタ。
霊子通信がつながった瞬間にアイカはミリ単位で位置を正確に把握した。
そのデータに基づき強襲するヴェスタ。
ヘルメットのバイザーが月光を受けてギラリと輝く。
(みつけた‥‥)
はやる心を沈め慎重にロックオンするヴェスタ。
ロングレンジを拡大表示したスコープ画面に恐ろしい姿。
月光に黒々とした影が、白くも見える琥珀のジュノに群がって蠢いている。
状況を認識した瞬間にはすでに射程内に入っていた。
ヴェスタの脳は沸騰するほどの憤怒に包まれる。
(ゆるさん‥‥)
パパパゥ!
右手で保持した2mも前後に伸長されたバレルから、高速で三連射した磁気加速粒子ビームがジュノの回りの影を溶かす。
身体の何処に当たってもその高温高速の粒子で死に至る。
本来人間に向ける武器ではなかった。
照準の霊子制御を船体側のアイカに任せ、発射タイミングのトリガーだけヴェスタが受け持ったのだ。
太さ10mmほどのピンク色のビームはあやまたずジュノの回りの黒い影を薙ぎ払った。
バシュウ!
強制着陸の核パルスを青く輝かせ、現着するヴェスタ。
「ジュノぉお!!!」
叫びは涙をともない迸った。
ヴェスタの三連射は正確に4人の敵を貫き、全て致命傷を一瞬で与えていた。
二人は肩から上が無くなり、一人は上半身がない。
最後の一人は右腕だけないが、温度と衝撃で即死だったと思われる。
死体の黒い肌に朱色の墨で紋章が描かれている。
あばれるジュノに鎮静剤を投与し、眠らせてから現場を検証したヴェスタ。
バイザーをあげた瞳がぽろぽろと涙をこぼす。
「うっ‥‥ううっ‥‥」
(よかったのよ‥‥生きていたのだから)
自分に言い聞かせるように思うヴェスタは、痛ましそうに涙の跡を残し眠るジュノを見た。
「ひどいよ‥‥クスン‥‥」
(ジュノを失う可能性もあった‥‥とても運がよかったのだわ‥‥)
言葉とは裏腹に膝をおとしたヴェスタは顔を覆い嗚咽をこぼすのだった。
「うあぁあああん!!」
『ヴェスタ‥‥エネルギーが‥‥』
「わかってるわよ!!!」
アイカの心配そうな声にも怒鳴り返してしまうヴェスタ。
白白と清浄な月明かりに照らし出されたその空き地のような場所には、悪意がたっぷり塗りつけられていた。
生臭い欲望の匂いとともに。




