【第67話:アイカは節約しません】
挿絵を追加しました。
ジュノは動けないでいた。
視覚情報も聞こえた声もアイカにしか見えないのだ。
理屈ではここにアイカが居るはずがないと、理解できる。
そうして作った隙で、このアイカは十分に対応できた。
もごもごとアイカの声がする。
それはジュノにはアイカの声にしか聞こえず、また思考がみだれた。
詠唱を終え、キリっとしたアイカの右手が、ぱっとジュノに向けられ何かが発せられた。
『SYSTEM.HALT(target, override=TRUE)!!』
ブン
一瞬で視界がブラックアウトした。
ジュノのヘルメットは電源が落ちると自動で有視界モードに切り替わる。
バシャっと上にフェイスガードがあがり、クリアのバイザーが現れた。
まだ状況の掴めないジュノは目を見開いたが、すぐにごとごとと電磁装着の外部装備が床に落ちていく。
「な!?魔法?!」
ジュノのスーツもしゅるんと保護膜を消し、一瞬で電源を落とされたのだった。
アイカもどきの詠唱していた魔法によって。
にんまりと笑ったアイカは首元の黄金のリングからしゅるっとスーツを全身に展開した。
それはアイカと相似形だが、保護膜の色は漆黒に朱色のラインであった。
「くすくす、どうしたの?ジュノびっくりしちゃって」
黒服アイカの声に毒がまぶされた。
『アイカ発進します!!』
水上機下部の爆撃用に追加されたハッチが左右に開き、クレーンで吊るされていたアイカが落とされる。
それは戦闘機のカーゴベイからミサイルが落とされるように、一瞬減速しながら母機と平行し、直後に圧縮空気を全開にして加速する。
そのシルエットは美しく鋭い二等辺デルタ。
純白に塗られたその小さな翼が空気を圧して白い筋をひいた。
バシュウウゥゥ!!
短時間だが最大の加速を得たアイカはそのGをに顔を歪める。
ユニットに伏せたアイカの白いAラインワンピの保護スーツがバタバタとはためく。
(ぐぅぅ‥‥次の義体から中身だけでもソリッドにしよう‥‥)
朝食べたものが逆流してきそうになり、アイカはそんな野望をもった。
水上機から発射されたミサイルのように飛んでいったアイカはあっという間に飛行ユニットの電源を使い切った。
ぴぴっとミラーになったサングラス型デバイスからレーザー測距し、軌道計算するアイカ。
(あと200m程たりない!)
アイカは2つのことを同時進行する。
一つは伏せている飛行ユニットを自動制御にして、軟着陸させるプログラムのスタート。
もう一つは魔法の詠唱だ。
トンっと飛行ユニットを蹴って飛ぶアイカが空中でコマンドを放つ!
『System.Command: levitation()――Execute』
全身が淡く発光し落下機動に補正がかかり、アイカの飛行距離が伸びていく。
ぐんぐんと領主のビルが近づく。
アイカの目算では屋上だったが、少し足りない。
「ああぁん!とどかなぁい」
屋上直下の窓は偶然にも領主の寝室だった。
パリィン!!
ごろごろごろごろ、どっかーーん!!
「むぎゅう‥‥いたいです‥‥」
アイカの義体は非常に頑丈で、時速200km/hで建物の窓から飛び込んでもこれですんだ。
ちょっとかっこいいと思っていたミラーグラスのデバイスは割れてふっとんでしまった。
領主のキングサイズベッドも破壊鉄球でもくらったように、ばらばらだ。
あいたたと立ち上がっておしりを撫でるアイカ。
「ふぅ‥‥ひどいめにあいました」
ぱんぱんと保護スーツのホコリをはらう。
そこにはほんの5分前までジュノが居たのだが、今は無人だった。
「ジュノ!!どこーー!!」
大声で叫ぶアイカに気づいて階下から気配が上がってくる。
どうやら護衛の兵士のようだ。
アイカはジュノ達と違い兵装を身に着けていない。
必要ないのだ。
「なんだ!おまえは!」
「なにものだ!!」
ざわざわと4人ほど上がってくる兵士。
爆撃でもあったかのような領主の部屋に怖気づいて入れないでいる。
軍用ライフルを装備しているがプルプルと震え練度は低そうとアイカは見積もる。
下が騒がしく、まだ上がってくる気配。
「面倒ですね、全員そろってから排除しますよ」
じろっとアイカが睨み、詠唱を始める。
『Magic.FireArrow.Initialize()・・・』
ぼうっとアイカの周囲に光る赤い粒子が舞い上がる。
魔法を保持しながら、心の中で無詠唱の式を足していくアイカ。
(TrackingMode = HOMING‥‥)
わらわらと更に4人上がってくる。
ぱぱぱんと軍用ライフルが放たれるが、アイカの防護スーツを貫けない。
顔は左手の袖でカバーしている。
ぴゅぅうっぅんと弾丸の飛ぶ音をアイカは気にしないでロックオンしていく。
(ThreadPool.Allocate( count = 8 ))
吹き出した魔力素子が集まり、アイカの頭上に8本の炎の矢が生まれる。
アイカの瞳は赤光を放っている。
すっと右手を向け、式をリリース。
「Launch」
ひゅぼぼぼぼぼぼぼぼ!!
八条の火矢が、弾丸のように放たれた。
だが直線ではない。空中で急旋回し、軌道が生き物のように絡み合い過たず全員の胸を貫いた。
火箭の温度はアイカの怒りを受けたように高温で、一瞬で上半身を燃やされた兵士たちが転げ回り動かなくなる。
焦げた布と肉の匂いが、ふわりと部屋に満ちる。
アイカは鼻をひくつかせた。
「……人間はよく燃えますね」
ピシっと指を立てたアイカはキリっとしている。
「今日のアイカは収支をあまり気にしませんよ!」
決め台詞には今ひとつ迫力がなかった。
すたたたっと走りどんどん下りながらジュノを探すアイカ。
「ジュノーーー!!どこーー!!」
大声で呼びながら進むので、兵士は引きつけられ、非戦闘員は逃げ出した。
なので遠慮なく近づくものは魔法で吹き飛ばすアイカ。
アイカはもともと外部デバイスの『式』を操るよりも、こういった放出系の式が得意だった。
今まで使わず節約してきたので、この義体には燃料になる魔力が充実していて、まだまだ余裕ではなてるのだった。
二桁の兵士を倒した頃、兵士は現れなくなった。
「ジュノー!!」
『アイカ!!おまたせ!今屋上におりたわ!』
ヴェスタから霊子通信。
『今一階までおりました、ここまではクリア。一階を探索中です!』
『了解!今行く!』
アイカはたたたと走り抜け、建物の奥を目指す。
この建物は1階が少し広くなっていて、中庭がある回廊になっていた。
どぉん!!
中庭にヴェスタが振ってきて小さなクレーターが出来る。
ぱりぃん!
アイカの横の窓を破壊して再突入するヴェスタ。
とても侵入者が二人とは思えない破壊状況と成ってきた。
「アイカ!どう?!」
「いないのお!」
くっと唸ってヴェスタが指示。
「右行って!」
それだけ言うと左に走り出すヴェスタ。
スーツの外部アーマーがふわりと広がる速度で走っていった。
アイカも右回りで駆け出すと数秒でヴェスタに出会う。
そして二人の横には地下への階段。
「こっちよ!」
ヴェスタがとんとんとひと飛びで踊り場を蹴り下りていく。
アイカもたたったたと続いた。
バン!!
地下の廊下には扉が一つしか無かった。
その趣味の悪い彫刻のある黒い扉をヴェスタは蹴り開けた。
片側が外れて地に落ちる姿にヴェスタの焦りが見えた。
そこは扉に負けず劣らぬ悪趣味な部屋だった。
アイカには何に使うのか想像もつかない、あやしい機材に満ちていて、正面の壁に女性が裸で拘束されていた。
「アイカ!救助!」
奥にもう一つ扉があるので、そこに両足でキックして飛び込むヴェスタ。
どがんっがらがら!と、奥の部屋は大騒ぎになっている。
「大丈夫ですか?!」
女性は両手を壁に固定されており、アイカは駆け寄るとぷちぷちっと拘束の金具をちぎって外してしまう。
女性は気を失っているのか、アイカの腕のなかにくったりと落ちた。
ドカーンとヴェスタが戻って来る。
「いないよお!!!」
真っ赤な顔で叫ぶヴェスタはもう涙を溢れさせていた。
ぷるぷると怒りと悲しみに震えながら。




