【第65話:予定通りの勝利】
「夕方には山裾まで進軍すると思われる」
リステルの元に次々と報告が入る。
「手筈通り半数を伏せてやり過ごして。狼煙に合わせて出てもらうよう徹底して。早いと台無しだと伝えて」
戻った斥候兵に伝言も持たせ帰す。
「街の残兵数がわかった‥およそ50名。休暇に入っている兵数は解らなかった」
「りょうかい。できるだけ食材を買い求めて。もう目立ってもいいから買い占める勢いで」
領都ともいえる川沿いの街からも報告が来たので、返信を持たせて帰す。
「‥‥残りの町にも伝令を。可能な限りの食料を集めさせて」
領都とこの鉱山町以外の町にも少数だが人を送っていた。
リステルの作戦には情報操作すら意味として含まれる。
既に領主を倒した後まで考えてあるのだ。
鉱山の重要性に気づいた領主が、一軍を向けてきた。
一軍と言っても領主の部下自体が1000名程度なので、今回派兵してきた500名はほぼ全力だろう。
文官も含めて1000名なので、軍人はせいぜい600程度多くても700と見積もっていた。
詳しく兵数を捉えたかったが、あまり精度のいい報告はなかった。
リステルは鉱山の防衛自体は簡単だと考えている。
地の利もあるし、準備もできたので。
罠も仕掛けてあるし、陣地も充実している。
兵数と武装の差があっても、十二分に勝てると見越している。
80㎞ほど距離のある鉱山町と領都は二本の川で遮られている。
通常の輸送は川と沿岸を船で移動している。
鉱石もそのルートで運ばれていた。
川はなかなか大きな物で、渡河には船が必要だ。
場所を選んで往来の多い場所には橋もかけてあるのだが、進軍に合わせて落とせる準備をしてあった。
領主軍には秘密兵器が有ったのだ。
二台だけだが戦車が来ている。
あくまで歩兵相手に蹂躙する目的なので、装甲は個人兵器むけのものだ。
10mm鋼板で全面を覆っただけで、それ以外の面は木製。
6名程乗り込み、武装は例の軍用ライフルと80mmほどの滑空砲だ。
砲の射程は水平で10㎞程度で、連射は出来ないとの報告。
それでもかなり重量があるのか、橋を渡すのに苦労したようだ。
今は10㎞ほど下の麓に展開している。
対するリステル軍は、歩兵のみ。
ライフルすら少数しか無く、主武装は槍だ。
投げれば射程200m程だし、近接時も使う。
防具は盾だけで、殆どが木製。
数も400名弱ほどと少し負けているだろう。
今はそのうち200を隠し伏せてある。
鉱山は斜面の上にあるので、まだ砲の射程には入っていない。
陣地は土を盛り上げ、塹壕を掘ったもの。
おそらく上手く直撃しなければ砲にも耐えられると考えていた。
炸薬がたいしたものではないので、十分防ぎ時間を稼げると考えている。
そうして遂に領主軍とリステル達の先端が開かれるのだった。
「……あと半日あればのぼってくるな」
その声に、疲れを隠す笑みが一瞬だけ浮かんだ。
目の下に、戦いの影が濃くなっている。
リステルの戦いは戦端が開かれる遥か前に折り返しを越えていたのだ。
リステル側はその日、10名程の被害で日没を迎えた。
領主軍はおそらく数名の被害だろう。
こちらからはできるだけ反撃しないよう指示していた。
運悪く砲が直撃した塹壕で戦死者をだした。
やはり高低差が有利に働き、戦車を進軍させず終わることが出来た。
反撃には岩を転がしたりなどで対応した。
夕方のスコールで、あちらも引いたので、リステルも引き上げさせた。
おなじ様子で3日ほど戦線は膠着した。
リステル側は40名以上の損失で、領主軍にも50名以上の戦闘不能を出した。
二日目のスコール中に伏兵によるゲリラ戦を仕掛けた。
うまいこと誘い出された50名を殲滅したのだ。
二度は使えない手だが、夕闇に軍を動かす愚かは理解させた。
戦線はすっかり膠着し、領主軍は援軍を求めた。
これは予定していた苦しさなのだと、リステルは己に鞭をうつ。
「いいな‥‥うまく出てきてくれたら勝ちだな」
リステルが遅延戦闘を繰り返すのは領主の防衛を減らすため。
実際には減らさずともヴェスタ達は暗殺してくれるだろうが、出来ることはしたいとリステルは思っている。
場合によってはヴェスタ達に頼らずとも勝てたと見せたい。
早期に解決したくて手を借りたと見せたいのだ。
その為に無理をして大規模に伏せてある。
そうして6日目にはリステルの待つ情報が来た。
「領主の館から100名の兵が戦車1台とともに出ました」
「よし‥‥ありがとう待っていたわそれ」
これで想定した戦力はほとんど戦場に引っ張り出した。
領主の元にはもう兵力はないと考えられた。
橋を越えたら作戦が開始される。
山裾に大きな湖がある。
自然のダム湖のように山間に広がっていた。
すぐ先の平原には二本の川が流れ落ち、肥沃な土壌を育んでいる。
川を渡る橋同士もこの湖近くでは近く、見える距離に2つの橋があり、ここが鉱山町への最短ルートだ。
どちらの橋も落とせる仕掛けが有り、援軍が橋を一つ越えたら両方落とす算段だ。
そうして間に閉じ込めた援軍を、橋の間で至近距離に伏せて暖めていたリステル側、残り半数の精鋭が襲う。
ライフルを持つリステルの親衛隊もここに配置してある。
移動だけを想定して、たいした指揮官ではないだろうから、殲滅出来ると考えていた。
そして援軍がこないとわかれば恐らく下の領主軍も戦意を下げるだろう。
あとは挟み撃ちで勝ちだと、軍略上はそこで終わりだ。
リステルの目的の一つ、領主の討伐はヴェスタ達に頼む。
「‥‥見方を替えたら共犯なのだわ‥‥ごめんねヴェスタさん。巻き込んでしまって」
神の使徒が別でまだ居たとしても、ヴェスタ達は味方にできると目論んでいるのだ。
リステルの元に予定通りの報告が入る。
「援軍は壊滅‥‥敗走する敵軍をほぼ全滅しました」
「ありがとう。あとは予定通りにと伝えて」
伝令がさると、リステルは屋上に上がる。
懐からだした無線機を使うためだ。
「これで、王手だわ」
ヴェスタたちへのコールは数秒でつながった。




