【第64話:ばーちかるろぉんち☆】
「だ、大丈夫かな?」
「計算上は大分マージンを取ってありますし、モックでの試験では問題有りませんでした」
アイカは励ますようにヴェスタの手を取る。
「ジュノなら何が有ってもなんとかしてくれます」
「うん‥‥」
アイカの説明にもヴェスタは不安が残り、ちょっと眉が下がってしまう。
「先々必要になある技術ではありますし‥‥今求められるものでもあります」
アイカの説明は自分にも言い聞かせるよう。
『ジュノおーれでぃ、スタンバイ』
静かな落ち着いた声がスピーカーから流れる。
今は母船スパイラルアークの操縦室だ。
時間は20時を回りすっかり日は沈んだ。
今夜はまだ月も登らないので、暗闇におどろくほどの数の星がまたたく。
ざばぁと船体が浮上し上部にすうと亀裂がはいり左右に開く。
VLS(垂直発射システム)の発射管を開いたのだ。
今は弾頭がないので、ただの筒だが3☓2の6つの内一つに弾頭がセットされている。
「発射カウントダウン5‥4‥」
ヴェスタが手を組んで目を閉じる。
何かに祈りたい気持ちが湧くのだが、何に祈ればいいのかわからない。
ヴェスタは神を信じることが出来なかった。
「‥2‥1、発射‥‥」
アイカの読み上げでVLSが一瞬白い煙を吹いた。
バシュウゥ!!
夜空に向かい垂直に発射された弾頭が0.5秒で軌道を変える。
バン!
弾頭が割れてなかからジュノの戦闘スーツが飛び出した。
任意の座標に戦闘員を射出するため、新たに船体に穴を開けVLSを組んだのだった。
『方位確認‥補助翼展開』
ジュノの冷静な声が上空1㎞ほどから届く。
電磁加速されたカタパルトと圧縮空気の二段重ねでコールドローンチ(低温発射)され、発射口での初速は控えめにしてある。
弾頭内に重力制御を一瞬だけ入れるユニットが組まれているので可能な加速だ。
圧縮空気で垂直に空気を切り裂き亜音速まで加速し、目標方向に進路を替えたら外郭がパージされる。
シュゥゥゥ!!
ぐんっと減速しつつも、ジュノのスーツにマウントされる各部パーツに横長の偏向ノズルがあり、ぐりぐり動き姿勢制御を助ける。
ばぁん!!
『はああん!!』
ジュノの悲鳴が上がった。
「なになに?!」
「じゅのぉ!!」
アイカとヴェスタの悲鳴も上がった。
『‥‥ごめん実験失敗‥‥右の補助翼が飛んでっちゃった。安定戻せなくて左もパージしたよ‥‥ごめん』
ジュノのがっかりな報告に、アイカの叫び。
「身体は平気?!痛いところない?」
「じゅのぉぉぉ!!」
あーヴェスタうるさいと思いながらも冷静に質問を重ねるアイカ。
「帰投可能なの?迎えにいこうか?」
『平気‥多分船体に下りられるよ。一旦拠点の方に降りるね、余計なもの置いて翼を探しに行くよ』
アイカはやっとホッと息をはいた。
「りょうかい、翼は明日探そう?今夜はいいよもう」
補助翼はチタンも使った豪華な合金だったので、回収したいと事前に話していた。
『おっけーじゃあ拠点でね』
「ジュノぉ‥‥」
『大丈夫よヴェスタ!心配しないで』
「うん‥‥」
よしよしとアイカもヴェスタを励ます。
もう涙目になっていたヴェスタがクスンと鼻を鳴らした。
先々まで武装としても使うVLSなので、色々データ取りの意味もあり今回の有人テストとなった。
「発射口はやっぱり個々に開くようにします。VLS側はそれくらいですね」
アイカとジュノの事後打ち合わせが持たれている。
「補助翼はない方がいいか‥‥もっと後で開いた方がいいね」
「はい‥‥ちょっと欲張りました。横風があったのが思ったより負荷になったようです」
早期に舵を取ったほうが射程も精度も上がるので、強度上は大丈夫な範囲で補助翼展開した。
「翼面積ももっと小さくして、軽くしてほしいかな?じゃないと戦闘に入る前にやっぱりパージするようになる」
アイカは難しい顔でジュノの意見を聞く。
「検討します‥‥射程が伸びないと射出するメリットが減りますねぇ‥垂直上昇距離をもう少し伸ばそうかな‥」
アイカとしてはスーツの負荷を減らして戦場に届けたいのだ。
移動でエネルギーを使わなければ、戦闘にも帰還にも動力を割ける。
そもそもが戦場での活動時間延長を狙った試験だった。
お盆に乗せたカップを持ちヴェスタもダイニングに来る。
「はい、コーヒーだよお疲れ様」
ヴェスタが配膳して、二人も笑顔で受け取る。
「さんきゅ」
「ありがとうです!」
アイカはミルクたっぷりの甘々でオーダーしていたので、にっこり受け取った。
ジュノはブラックで受け取った。
自分の椅子に座りながら、ヴェスタもブラックで一口。
苦さでほっとする、不思議な時間だ。
「やっぱり水平射出ってわけには行かないの?加速もちょっと有人で使うGじゃないよ」
ヴェスタは慎重論。
第一案としては水平射出して翼展開するグライダーのような物を起案したが、コスト的に見合わないとなった。
アルミ合金はまだまだ貴重品だ。
垂直発射で滑空時間を多くとり隠密性もあがるぞと、今回の方式になった。
将来的に誘導弾を装填するようになった時のテストでもある。
「補助翼は今回の作戦予定座標なら要らないよね?」
ジュノの疑問にはアイカが答える。
「そうなのです、あくまで今日の試験は将来に向けた開発の意味合いです。ジュノのスーツからもデータをもらったので、非常に有意でした!なにしろ弾頭のくれるデータですからね!」
「あはは!そりゃ貴重だね」
ぎゅっとヴェスタがジュノの手を握る。
「わらいごとじゃないもん‥心配したんだからぁ」
ヴェスタの声には甘えが多量に含まれた。
ジュノも両手で握り返す。
「大丈夫、ヴェスタを一人になんてしないよ!」
ヴェスタもやっと頬を染め笑顔に戻れた。
「後は‥‥リステルの連絡待ちだね。いつでも行けるよ!」
ジュノは自信に満ち溢れ、ヴェスタとアイカを安心させた。




