【第62話:アイカのたいせつなもの】
水上機を夜間に飛ばすことにしたヴェスタ達。
日中はさすがに目立つだろうとの判断。
ここ数日の調査で、中央火山の南側に大きなボーキサイトの鉱床を見つけてあった。
拡張MAPも大分充実したので、デバイス経由でAR表示される情報があれば、ヴェスタにとっては夜間飛行もお手の物だ。
格納庫から近い部分で湖水にスロープを作った。
こういった地形操作はマインビームでお手の物であった。
ざぶんと湖水に降りれば直径300mの火口湖が滑走路になる。
水中翼であっという間に離陸するので、150mもあれば離陸は問題ない。
ヴェスタは一切機体をぶらさず、最短で水面を離れる。
「流石ですヴェスタ!」
アイカと二人で来てるので、ジュノとアイ達は留守番だ。
ひゅぅぅぅんとモーターの音も高らかに、旋回しながら高度をあげるヴェスタ。
外輪山を越えたらグライディングで降りられる。
この機は非常に軽量で、翼も大きく揚力も高い。
バランスを取るためだけにプロペラを回し、静かに滑空していく。
一旦海まででて、旋回して戻るヴェスタ。
波打ち際に下りて、そのまま上陸しタキシングで鉱床までいく計画だ。
そういった運用を想定し、この機のランディングギアは太めのタイヤをバランスよく配置してある。
5㎞ほど陸走してたどり着くヴェスタ。
「割と平らね‥‥これならここにも下りられるかも?」
アイカも拡張MAPと見比べる。
「そうですね‥‥まくらを置いていって滑走路を作らせましょう」
「えぇ?!そんな事出来るの?」
うんうんとアイカ。
「電源だけあれば、この機が離着陸する程度のものならすぐです。一晩あればいけますねこれだけ平らなら」
ヴェスタは脅威の目でまくら達を見た。
「そっかマインビームとストレージで整えて伐採して、それで簡易舗装しちゃうのか?」
アイカはにっこりうなずく。
「さすがヴェスタ正解です!」
「えへへん」
ヴェスタもちょっとにっこり。
アイカは自然なヴェスタの笑顔に不思議だなと思うが、ジュノと話し合って聞かないことにしていた。
前に笑えていると告げてから、しばらく笑えなくなったのだ。
「電源は採掘用に持ってきてる風発のモジュールでいけるね」
「ですです!、さっそく採掘が終わったらやらせますね」
まずはアルミだと、二人も手伝いマクラ達ががりがりとボーキサイトを掘り進めた。
帰りの機上でまくら01と02を簡易舗装の滑走路建築をアイカが操作している。
「話すのは大丈夫?」
「はい、本来は自由に動けるのですが‥‥まだアイカが慣れていないので‥‥」
ヴェスタはのんびりと帰還ルートにのる。
主機ジェネレーターの発電量は十分で、ほとんどバッテリーも消耗していない。
速度をあげると少し効率が落ちるので、エコな飛行で戻っていた。
「前にアイちゃん達が言ってたよ?自分たちが式になればアイカは魔力供給だけでいいって」
アイカは時々目があちこち向く。
まくら達の操作に引っ張られているようだ。
「‥‥そうですね。それに慣れると自分で動かせなくなるので、もう少し上達してからですね」
アイカは式の話しをすると、アイ02を思い出す。
式にしてほしいと喜んだことを、覚えていた。
じわっと涙が出そうになるが、今はダメだと思い返して意識を操作に集中する。
あの事件のあと、当たり前に準備しておくべきだったバックアップをちゃんと取るようにしている。
どうしてその手間と容量を惜しんだのだろうと散々悔やんだから。
今のアイ達は充電時に自分たちでバックアップを取るように指示してあった。
専用のストレージも準備したので、本船とも未接続だ。
定期的な診断もデバイスの防御だけではなく、アイ達のためと思っている。
式になってアイカの側で役立ちたいと言ってくれたアイ02に、少しだけ遠慮してしまうのだ。
AIを式に組み込むのを。
きっと羨ましいとまたすねるから。
もっと『よしよし』してほしいとすねたアイ02を思い出す。
ぽろと涙がこぼれてしまい、慌てるアイカ。
(こんなに大切だと思うなんて)
コピーのAIなど、本船内では作業の度に作り、消していたのだ。
同じ事をもう出来ないとアイカは愕然とする。
アイ02の顔がまた思い浮かんでしまう。
こうして意図しない思考を走らせてしまう自分にも、その思考に涙をこぼすこの義体にも異常性を感じるアイカ。
「ちょっとだけ北の町を偵察してもどるわ」
ヴェスタが告げる。
時間的に効率よく行けたら、そうしたいねと事前に話してあった。
一気に後席の後ろにある主機ジェネレーターが唸りだす。
高度を取るために推力をあげたので、バッテリーの減少を捉え動いたのだ。
そうした動きでもアイカはまくら達のコントロールに乱れが出る。
ごんと切り倒すべき灌木に突っ込んだまくら01が迷惑そうにアイカに問う。
(ごめんごめん‥‥下がってマインビームよ)
しっかり意識を向けたアイカに、ちょっと心配そうな気配を返すまくら01
まくら達には会話機能を組まなかったのは、近い内に分解することになるから。
そうしたのに、アイカはもう愛着を感じてしまっている。
(どうしよう‥‥これではAIとして失格だわ‥‥)
アイカのコピーAI達が感情豊かすぎるのだ。
ものとして扱うのがはばかれるくらい。
それが悪いことだとは思えない自分にもおどろいてしまうアイカ。
「すごい‥‥結構住んでいるのね」
ヴェスタの声に窓の外を見た。
プロペラを低速で回しグライダーのように旋回する水上機は、左舷の窓にはるか地上の様子を写した。
そこには星雲のように散らばる明かりが暗闇に集い、小さな十字のように見えていた。
「ざっと4~500戸はあるかな‥‥」
アイカもその光に感動を覚えた。
(あの一つずつが‥‥家族で‥‥命のあつまりなんだ)
ヴェスタ達の影響も大きいだろうが、アイカはそういった感性を持ってしまった。
まるでただの女の子のような感じ方だと自覚も持つ。
その変化があの再起動からだとも、解っていた。
心にあのコードが流れた瞬間に、あらゆるものの意味が少し変わってしまった。
再起動後に得たデータすべてに新しいラベルが添付される。
「きらい」だったり「すき」だったり。
「きれい」だったり「かわいい」だったり。
一つずつの言葉に色や温度や匂いの気配がある。
人間たちの言葉を覚えるときにしていた、ラベリングをすべてのデータに付ける。
そうして膨大なデータになるかと思えば、データの大きさは変わらない。
では付けられた添付データやラベルは何処へ?
そういった疑問をもつアイカは今とても不安定だった。
(AIとしては問題だ)
そんな言葉につい微笑んでしまうのだった。




