【第58話:少女と少女達】
少女を回収したヴェスタは、ジュノから借りたシーツを改造したポンチョを着せた。
ちょっと色々見えていて可愛そうだったのだ。
ジュノの指示だったので、保護スーツは首まできっちり出して、顔以外はおおっていた。
その上から白いシーツ製のポンチョを着て保護スーツを隠した。
少女は安心したからか気を失ってしまい、ヴェスタが横抱きに抱いて拠点に戻った。
ジュノは周囲警戒しながら、少女の事も警戒している。
少女の状態から何があったか察してしまい、同情的だったがそれと警戒するのは別と、ジュノ自分に言い聞かせ油断しなかった。
拠点に戻り、ぺちぺちとほほを優しく叩くヴェスタ。
「大丈夫?起きていられるかしら?」
少女はひどい状態なので、お風呂に入るよう手振りで進めると、うなずいてヴェスタに従った。
ジュノは拠点に戻っても武装を解かない。
まだ少女を信用していないぞという態度を見せたのだ。
「大丈夫です、お風呂おかりします」
ジュノが銃口を上げる。
ヴェスタは腰からハンドガンを抜いてこれも少女を狙った。
アイカは最初から離れていたので、そのまま見守った。
「‥‥言葉はおそらくあなた達の同胞から教わりました」
少女はリステルだった。
ジュノ達に疑われないよう、完全に準備をして乗り込んできたのだ。
そして嘘は一度も告げないと決めてきている。
アイカはこっそりと少女のバイタルを監視している。
貸し出したポンチョにはバイタルを見張るデバイスが仕込んである。
そこから少女の心音と体温の変化などを監視していた。
簡易のものだが嘘は見抜けると考えているアイカ。
「‥‥お風呂を借りれるのでしょうか?」
リステルは嘘ではない涙を流す。
今のリステルは何処から見ても男性に乱暴されて逃げてきたように見える。
部下たちに命じ、10人がかりでそう見えるように準備してきた。
今のリステルは全身からそういった臭いをさせているのだ。
リステルは母とともに領主に自由にされた過去を思い出せば、嘘ではない涙を流せた。
今も母は囚われているのだ。
クスンと泣くリステルを見つめ、ちらとアイカを見るヴェスタ。
アイカは小さく首をふる。
嘘ではないとバイタルは言っていると。
少女の着ているポンチョには体電位と言われる身体に流れる電気まで捕えるセンサーも仕込んであった。
95%程度の信頼度とアイカは判定した。
疑わしいところすら無いと。
「解りました、申し訳ないのですが、監視の上でお貸ししますどうぞこちらに」
ヴェスタが導き、ジュノは射線を切らない位置に音もなく動く。
銃口は微動だにせず、少女の心臓を常に狙っている。
浴室のドアを開けて先にヴェスタが入る。
リステルが続き、ジュノもリステルの届かない距離で肩付けしたライフルを構えている。
貫通してもヴェスタに当たらない位置取りも心がける。
そうしてリステルがポンチョを脱ぎ、ぼろぼろの臭い服を脱ぐのを監視した。
「ジュノ‥‥おねがい」
「うん」
脱いだ少女の服を持ち、すれ違い監視を任せたヴェスタは、アイカに声をかける。
「アイカ‥‥わたしの部屋から寝巻きをとって」
「‥‥はい」
アイカはそっとヴェスタの部屋に行った。
ジュノの監視は徹底していて、隙は見せなかった。
少女が身体と髪を洗い終わるまでの全てを監視した。
警戒を強めるジュノ。
(‥‥隙がないうごきだ‥‥訓練された人間だな)
技量としてはジュノほどではないが、ヴェスタやアイカと違い戦闘訓練を受けたものの足運びだ。
立ち上がり入浴する間の動きからジュノはそれを読み取ったのだった。
(そして‥‥洗う動きをみれば状況にも嘘はない)
可愛そうだとは思ったが、少女が洗う部分は全て監視した。
そこを洗うのなら嘘はないといった動きだった。
リステルも途方に暮れる思い。
(ここまで警戒されるとは‥‥言葉はまずかったかな‥‥でも嘘はきっと見抜かれる)
リステルはデバイスの中にある情報から、こういった事ができると知っている。
(おそらく用意された服‥‥あれに仕込んであったか‥‥部屋そのものにそういった機能がある)
髪も洗い、全身に付いていた臭いを落とした。
万が一疑われて確認されてもバレないように、全身にその液を仕込んできていた。
事後だと判るように。
これも部下に指示しやらせた。
(まあ‥‥とても喜んで従ったけど‥‥)
ため息が出そうになり、こらえたリステルだった。
「アイカ‥‥これにも仕込める?」
「もちろんです‥‥この襟首に仕込みますね」
ほんの2cmほどの針のようなセンサーだ。
可能な限り肌に触れてほしいので、襟元の肌にあたる部分に仕込んだ。
金属製だが、細いのでそこに有ると知らなければ見つけられないだろう。
こうしてリステルと三人の緊張した接触はまだ続く。
「アイカは出口を抑えてて」
今のアイカの義体は正直ヴェスタより強い。
保護スーツを全開にしても、ヴェスタではもうアイカに勝てないだろう。
一つ有利な点が有るとしたら、アイカよりもリーチが有ることくらいだ。
そうして出口を任せて、中央に椅子を持ってきて置いた。
脱衣所兼化粧室に3つあったうちの一つで、背もたれはない丸い椅子だ。
そうしてヴェスタもアイカも油断せずジュノの指示を待った。
「いいぞ‥‥すすめ」
ジュノの冷たい宣言で少女が出てくる。
髪を乾かす時間は与えなかったようだ。
そのあたりもジュノに判断は任せた。
ヴェスタが視線をあてるとジュノも首を小さくふる。
怪しいところはないという意味だ。
そのまま少女の視界外でライフルを構え続けるジュノ。
「そこに座って」
ヴェスタの声にも柔らかさは無くなった。
最悪この少女がスパイラルアークに密航してきた工作員で、この一連の不具合を押し付けた相手かもしれないのだ。
少女は出口に背を向け、ジュノの方を向いて座らせる。
ヴェスタはアイカも少女も視界に収めて質問を再開する。
「私達が何者か知っていると?」
リステルは正直に答える。
「知らないけど推察したわ」
アイカは首をふる。
ヴェスタは視界の隅でそれをみながら視線は向けない。
「名前は?」
「リステル」
アイカは首をふる。
そうやってアイカに嘘を見晴らせながら、質問を重ねたがリステルは嘘を言わない。
そう覚悟を決めてシュミレーションしてきていた。
話をしながらもリステルも観察を続けている。
(やはり強敵は銀色ね‥‥保護スーツが有っても勝てない‥‥黒いのと金色ならスーツがあって油断させれば勝てそう)
最悪は制圧しなければいけないと覚悟をしてきている。
リステルが合図すれば屈強な戦士が10名踏み込めるよう準備はして伏せている。
「‥‥それでどうして逃げてきたの?」
ヴェスタがリステルの準備したシナリオを踏んだ瞬間だった。
これを質問させるため色々我慢して仕込んできたのだ。
(これで少なくとも目的は達せられそう‥‥)
リステルの脳は全力で動き始めた。




