【第56話:考えたこと、気づいたこと】
リステルは巧妙だった。
風下に当たる北西斜面を確保し、岩で山頂側から見えない場所にキャンプを置かせた。
偵察はリステル本人がして、男たちには待機を命じた。
先日の手痛い失敗をもとに、偵察中もリアルタイムに判断が必要だと考えたのだ。
ジュノも山頂から山道を基本に索敵をかけているので、このキャンプを見つけるには大分時間がかかると思われた。
そして万一見つかった場合は、引き付けて逃げ出すよう指示してある。
リステルは味方をも囮にするのだ。
もしも追って行くようであれば上が手薄になるとも考えている。
今従ってきている10名はリステルの親衛隊のようなもので、集団の中でもトップレベルの戦闘力を誇り、領主軍から鹵獲した貴重なライフルも3丁装備させている。
絶対に裏切らないと自身をもって言える人員でもある。
その貴重な戦力を囮にできるのがリステルだった。
先日イレギュラーで部下が接触してしまったことを悔やむと共に、それを活かせないかもリステルは考えた。
撤収させながら潜伏して見ていたところ、何度も上から探索する人員が下りてきた。
リステルは見つかるようなヘマはしなかったが、手厚く探し回る様子からあの人形の評価を上げた。
このようにリステルは要素を与えれば与えるほど、そこからなにかしかを学んだり読み取ったりする。
敵に回してこれほど厄介な相手も居ないと言える。
(特に‥‥あの銀色の髪が怖いな‥‥)
見かけた中で一番動きに無駄がないのがジュノだった。
あとの二人は戦闘員ではないとリステルは判断していた。
フィジカルは相当だが、動きに無駄が多く非合理な動作も多い。
ジュノとヴェスタとアイカ。
銀金黒とリステルは髪色から識別した。
三人の白服をみたリステルは、彼女達もまた神の使徒なのだと定義する。
服装の類似から、同じ部族の可能性も高いと判断する。
(そうすると‥‥この装備を見つかれば即敵対してしまう‥‥あの人形もだ)
リステルは交渉する気でいたのだ。
領主ではなく、自分たちに味方してほしいと。
神々の言語をマスターしているリステルはそれが可能だと試算した。
普通に可能性を考えれば、派遣されて来たタイミングからも領主への援軍だろう。
最低限領主に味方しない所までは頼みたいと思っている。
交渉の席につくには何かしら提示できるものが必要だと、そこまで考えての山登りだった。
青い炎が降りたと、それだけでそこまで思い至る。
それがリステルだった。
(あの銀色さえ居なければ‥‥制圧できると思う‥‥逆にあいつがいたら絶対無理だな全滅する)
リステルの今取れるシナリオは2つ。
一つは3人の誰かを人質にする事。
もちろん傷つけず、交渉後は解放する事が絶対条件。
もう一つはカードを晒すことだ。
正直ほど相手から信頼を引き出せるカードはないのだ。
正直に見えるでは、決して通らない。
どちらにしてもリステルの好きなシナリオではなかった。
リスクが大きすぎるから。
そこまで考えてピンとくるリステル。
(‥‥そうか‥‥そうゆう手もあるか。賭けるのは自分の命だけにできる)
じっと考えを深めるリステル。
使えるものが他にないかと、思考を絞り尽くす。
(うん‥‥気は進まないけど、一番成功する可能性が高いな。スーツの電源ももうすぐ切れてしまうし‥‥)
保護スーツを慎重に運用していたが、充電できる設備がないので、切り札としてしか使っていない。
それでもいつかは切れてしまうし、今現在も少し消費している。
ちらと下のキャンプ地を見やる。
指折りで日付を確認して、今日明日は大丈夫だなと思う。
(どうせそろそろ与えないといけなかったしな‥‥)
表情に苦悩をにじませるが、リステルは決断した。
ジュノは半日で戻れる範囲を索敵範囲とした。
前と違い、アイ04が居るので単独ではない強みが有る。
「ジュノそろそろもどらないと」
アイ04が時間を気にしてくれる。
ジュノは集中すると時間感覚が少しおかしくなる傾向がある。
丸一日でも作戦行動を取れてしまうのだ。
タイマーのようなものでは万が一隠密が求められた時に致命的だ。
状況をみて止めてくれる相棒は心強かった。
「ありがとアイちゃん。お昼までにもどろうね」
そういってにっこりできる、心の余裕ももらえるのだ。
降りてきたペースと変わらないか、速いくらいのペースでもどるジュノ。
拡張MAPには索敵済みのエリアが色濃く表示されている。
地形データに連動参照するので、移動軌跡から地形の死角を抜いて表示する。
そうしてマップを埋めていって、安全保障とする予定だ。
ふとマップを見ていて、ジュノが違和感を覚える。
(あれ‥‥この西側がぜんぜん見えないな‥‥)
実際の地形を見合わせて納得する。
丁度ジュノの移動ルートや山頂からの視界で死角になるエリアがあった。
こういった部分に気づくための索敵であり、マップや地形データの参照だった。
思いがけず拠点に近く、それなりの面積の死角があるのだと気づいた。
(午後からもう一度探ってみよう)
ジュノはヴェスタやアイカにお昼に戻ると言ってあったし、お腹も空いてきていた。
(アイカ‥‥美味しいご飯作ってくれているだろうしな)
アイカのご飯を美味しいと食べてあげることも、今のアイカには必要だと考えるジュノ。
「ごはんなにかなあぁ」
「ふふ、きっとアイカママのご飯はおいしいですよお」
アイ04も保証してくれたのだった。
ふっとジュノはまた後ろを気にした。
もう拠点が近い外輪山の上だ。
戻る時はこちら側からあちこち位置を替えて戻っていた。
万が一を考えてだ。
今日は少し西側から降りたのだが、風にふわりと何かが臭ったのだ。
(いやな‥‥臭いだったな‥‥なんだっけこれ?)
しばらく立ち止まってみたが、それ以上は感じなかったので、拠点にもどることにする。
「ごっはん、ごっはん!」
「ごっはん、ごっはん!」
にこにこしてアイ04と目をあわせ、共に歌いながらもどるジュノだった。




