【第555話:留守の間に】
「リーベママぁ!これなぁに??」
メーナはとてもはしゃいでいた。
見た目以上に幼い行動は、ずっとあの灰色の星でストレスを感じていたのかも知れないなと、リーベは不憫に思う。
この月の地面は少し青みがかった灰色だが、空には満天の星々があり、その中には宝石のようなアルドゥナも見えていた。
なによりメーナが最も記憶に残している色だろうと微笑むリーベ。
メーナはさっきまでさんざん走り回っていて、今はしゃがんで地面を見ていた。
メーナは久しぶりに自分の生まれ故郷とも言える、アルドゥナの月に帰ってきた。
転移事故から戻り、眼の前に見えた大きな月に心奪われた。
そこが自分の居るべき世界だと直感で解ったから。
スパイラルアークⅡには航空機が残っておらず、メーナの機体ネメシスも母艦ごと無くなってしまったので、自力ではたどり着けないと思いリーベにねだった。
リーベはなんとなくメーナの動機を察してくれて、リステルに相談しジュノが軌道往還機を貸してくれた。
メーナは抜け目無く、ジュノは小さい子に甘いようだぞと見切り、リステルに次いで役に立つ人認定をするのだった。
待ちきれないよ!とメーナが騒いですぐに出発と成った。
リーベはマナミやリステルと話し込んで、なかなか出発してくれずメーナが暴れての出発だった。
マナミは怖い顔で見ていたが、リーベが味方についてくれて何とか成ったのだった。
久しぶりに動かすからと、少し整備してから出発し、最初はヴェスタ達の作っていた拠点を目指した。
拠点の扉が開きっぱなしに成っていて、これは大変だとリーベが掃除道具を準備している間に、メーナはぴょんぴょんと低重力を楽しんで入口まで来た。
そこで異常を見つけてリーベに尋ねたところだった。
リーベも初めてくる拠点だが、ヴェスタ達の拠点構築は何度も見ていて、実際に中で生活したので構造は想像できた。
メーナが保護スーツでしゃがんで、つんつんしているのは入口に積もったホコリだった。
「こ‥‥これは‥‥」
リーベもメーナが突っついているものを見て固まる。
分厚く積もったホコリは月の砂だろう。
4か月でこんなになるものだろうかと、まず違和感を感じ、そこに大量に残されていた足跡にさらなる違和感を感じた。
足跡は少なくとも1年以上は前についたものだと、リーベのセンサーはホコリの堆積具合から判定した。
そうすると周りのホコリはさらにその前に積もったとなる。
この4か月前に作ったはずの拠点入口に、それらは有るのだった。
「メーナ‥‥ここは一度戻りますよ」
「えええ?!きたばっかりだよぉ!」
メーナの里帰りは秒で終わるのだった。
「それどころじゃないですよ!」
リーベらしくない慌てように、メーナもしぶしぶ従うのだった。
ちらと見上げた漆黒のそらには、見慣れたアルドゥナの青い姿。
そっとメーナはこころで告げた。
(ただいま!)
そうしてにっこりと微笑むことは出来たのだった。
また来るねとも告げて。
リーベは念のためと月の低軌道をくるりと回り、月面やラグランジュポイント、GEOと観測して戻る。
マナミやリステルとは偵察を兼ねて行くと話してあったので、予定の行動では有る。
「おかしい‥‥GEOや低軌道に残してあった式が答えない‥‥」
あの転移事故と同時に各地に忍ばせていたリーベとマナミの式はリンクが切れてしまっていた。
再定義してリンクを確立しようと、式を呼び出すのだが返答がなかった。
そこにあるはずという感触も感じられない。
ながくリンクしていた式は気配を互いに覚えるので、多少はなれていても見つけられるもの。
月とGEO程度の距離ならば、十分にリンク可能なはずだった。
「‥‥一旦スパイラルアークに戻って相談しましょう」
「うん‥‥次はアルドゥナに行きたいよ!」
メーナはずっとアルドゥナを見つめて過ごしてきたが、実際に訪れたことはなかったのだった。
戻ってみるとヴェスタも目覚めていて、皆でお茶の時間だった。
リーベもヴェスタと抱き合って再会を喜び、持ち帰ったデータや映像を共有した。
「何者かに侵入されましたね‥‥まぁクライアントしか居ないでしょう‥‥」
アイカがクライアントといったのは、もともとこの計画を影であやつり、リーベやマナミを送り込んだ集団だ。
一番詳しいはずのリーベですら、その正体は想像でしか無く、アイカ達とも話し合い戦争をおこしたAIの集団だろうと想像していた。
「目的はわかりませんが、こちらを追跡しデータを盗んでいたのは間違い有りません。ピーピング野郎どもです」
アイカがぷんぷんと評価する。
おそらくスパイラルアークやアイカの視界は全てモニターし、月にメーナを配置してそこからもデータを送らせていた。
「メーナはしらないの?」
話し合いの中で、アイ01がメーナを抱っこしながら聞く。
アイ達のアンドロイドボディにはコアユニットを内蔵し動かしていたが、リーベは事あるを見越してアタッチメント式に制御部を入れ替えられるようにしていた。
銀河連邦の技術で作った制御部も準備してあったので、今はそちらに切り替えている。
ちなみに中身は式神弐式ではなく、アイ達の義体に入れ替わっている。
式はアイカの外装に戻してあった。
アイ達もこの体を気に入っており、通常はこちらで過ごすことと成った。
ゆくゆくはアイカが義体を準備すると話し合っている。
よしよしされて気持ちよさそうに細めていた目を見開き言うメーナ。
「しらないよ!」
でしょうねといった、呆れた目でマナミは見下ろしていた。
とりあえず異常事態だとして、調査をすることに成ったが、まずは索敵を含めて式がいるよと、アイカ達は式を開発生産、量産としていく。
なにしろアイカ達だけではなく、メーナもリステルもルクールもユーリアも式が使えるので、大量にほしいぞとなった。
「一旦空間専用で重力制御だけの簡易モデルを量産します」
現在のスパイラルアークの生産技術レベルはティア9。
重量制御を基本にミクスチャーで作れば最大性能に出来るが、設計にも生産にも時間がかかるので、現状盛り込んだ技術はコンシールと宇宙空間での長距離移動。
この2点に絞り、一晩で40機の機体をアイカは準備した。
もちろん作ったのは主にスパイラルアークとスパイラルアークⅡで、アイカはアイ達と抱き合って幸せな夜を過ごした。
まずは可能な限り広範囲の情報を、可能な限り隠密で集めましょう。
そういったコンセプトで、アイカマナミリーベを中心に索敵会議。
メンバーにはアイ達やルクール・ルニーアも入った。
メーナはリーベ預り、ルニーアはルクール管轄となり、半人前扱いだ。
「こちらも位置を変えましょう‥‥」
リステルが提案し、それもそうとジュノとヴェスタも納得して、月とアルドゥナの中間としてL1とGEO(アルドゥナ静止軌道)の間辺りに機体を隠した。
宇宙で何かを探すのなら、ラグランジュ点は最初に確認すべきポイントだから。
見つかりたくなければそこを避けるのは当然だった。
L1周辺に飛んでいる大きめの小惑星にアンカーを打った。
この小惑星は何かの影響でL1から流れ出したものだと、位置と軌道から想像できた。
「ここなら月からもアルドゥナからも近いね」
ジュノも満足の隠れ家だ。
いびつな楕円形の小惑星で、いい感じの亀裂が有り、そこに2機のスパイラルアーク級を隠した。
アークは宇宙船としてはとても小型なので、こういったときには優秀だ。
アイカの幻術もかけたので、外から見ただけでは見つからない。
「探しているのかな?わたしたちを‥‥」
ヴェスタは不安そうにジュノに聞いた。
「探しているね‥‥わざわざ月の拠点を荒らしたくらいだもの。でも諦めた可能性が高い‥‥月の様子を見れば堂々と荒らしているしね。居ないと知っていて手がかりを求めたんだよ」
ジュノは細かく映像から分析していった。
今リーベとメーナで月を担当して、細かく調べているので、時間があればさらに調べが付くだろう。
「アルドゥナは‥‥どうなっているのかな‥‥」
心配そうにヴェスタはモニターを眺める。
そこにはリアルタイムのアルドゥナが、三日月のように痩せて青く輝いていた。




